ある日の<俺> 4月21日。 ジグソーパズルとマスオさん 2
「明日の昼って言ってたかな・・・」
「このペースなら、間に合いそうですね」
池本さんはこっくり頷いた。
「独りだったらとてもここまで頑張れなかったよ。何でも屋さんに来てもらって、良かった」
「俺だって自分独りだけだったら挫折してますよ」
ははは、と二人の男の乾いた笑いがハモッってしまった。
「ですよねぇ・・・でも、義父はこれが好きで・・・」
アンビリーバボーですよ、と池本さんは肩を落とす。
「俺はこういうの、大っ嫌いなのに・・・」
はぁ、と重い溜息をついて、彼は立てた膝に顔を埋めてしまった。相当参っているようだ。俺だって疲れてるけど、俺に取っては「仕事」だからな、お金もらえるし。人参があるから頑張れる馬っていうか。
「もう、正直に言ってしまったらどうですか?」
俺は提案してみた。
「お義父さんのパズル、うっかり崩してしまいましたって。誠心誠意をこめて謝ったら、許してもらえるんじゃ?」
「ダメです!」
首をぶんぶん振る池本さん。
「義父は、ジグソー仲間を増やしたがってるんです。崩してしまいましたごめんなさい、なんて謝ったが最後、じゃあ一緒に組みなおそうか! なんて言われて、なし崩しに仲間に加えられるのが目に見えてる・・・!」
握った手が震えてるよ、池本さん。
大丈夫か?
「そんな、大袈裟な。ゾンビとかバイオハザードじゃないんだから」
思わず苦笑すると、池本さんは真顔でまた首を振った。
ムチウチになるよ・・・?
「いーや、全然大袈裟じゃないです! 娘が全然興味示さなかったからって、婿の俺に期待してるのが丸分かりっていうか、もう。子供と一緒に1万ピースの大作をやるのが夢だったって、義母からも聞いてるし」
「はぁ・・・」
「義父が次に始めようとしてるの、ピーターブリューゲルの『バベルの塔』五千ピースなんですよ。そんなの一緒にやらされたら、俺・・・」
『バベルの塔』って、うろ覚えだけど、かなりな大作だったような・・・? あれも似たような色が多かったような気がする。で、五千ピース?
「うーん・・・」
思わず俺は唸ってしまった。好きな人には楽しいんだろうけど、そうでない人間にとったら拷問だと思う。
「嫌でしょ? 五千ピースですよ。こういうビスケットの出来損ないみたいなのが五千個もあるんですよ」
「確かに。考えるのも嫌っていうか」
「でしょ? でしょ? お義父さんがひとりで好きでやってるだけなら、どうぞどうぞお好きにどうぞ! てなもんですけど、付き合わされるのは困ります。在宅で仕事やってるからってそう簡単に時間が自由になるわけじゃないんですからね」