ある日の<俺> 4月21日。 ジグソーパズルとマスオさん 1
堆く積もるピースの山を見て、俺は溜息をかみ殺した。どれもこれも同じような色、同じような形。違いが分からん。
「四隅から作るのがコツだって、聞いてはいるんですけどね・・・」
目の前で呟く池本さんの顔色は、青い。3000ピースのジグソーパズル、二人がかりで合わせ始めて、やっと達成率二十パーセント。本日の俺の仕事は、彼と一緒にこのジグソーパズルを完成することだ。
「何でこれ、ちょっと落っこちただけで全部崩れちゃったかなぁ・・・」
「・・・」
俺は何とも答えられず、ただひたすらオペラ・ガルニエを完成させるために神経を集中させる。ええい、どのピースを見ても琥珀色の濃淡にしか見えん!
俺だって聞きたいよ。これだけの労作、何でちゃんとした額に入れて飾っておかなかったんだ。
しばらくまた黙々と作業を続ける。壁の時計の秒針の音だけが響く。
そして俺は今、二つのピースを手に持って真剣に悩んでいた。これは、琥珀色の柱の上か下か、それとも天井なのか床なのか。こんな小さな欠片だけじゃあ、全然分からない。思わず挫けそうになる。
いや。
負けるな俺。頑張れ俺。根気勝負は得意なはずじゃないか。根気が無ければ家出猫を探したり出来ないし、迷い犬を見つけたり出来ないし、それに、脱走九官鳥だって捕まえられない。俺はこれまで根気をもって依頼主の期待に応えてきた。そう、俺には出来る! Yes! I can!
黙々黙。黙々黙。
秒針の音に追いかけられながら、ひたすらピースを合わせる俺と池本さん。・・・俺、今なら三月ウサギになれるかもしれない。そんで、忙しい、忙しいとか言いながら、不思議の国に逃げてしまいたい。
そんなバカなことを考えながら、薄い琥珀色と濃い琥珀色、その中間の琥珀色を見比べる俺。見本によると、これはこの辺かな? ああ、目がチカチカしてきた。池本さんも同じらしく、上を向いて瞼を揉んだりしている。
「ちょっと休憩しませんか・・・」
声がへろへろだよ。大丈夫か、池本さん。
「そ、そですね・・・」
俺もだ・・・ずっと黙って下向いてたからか、声に力が入らない。でも、その甲斐あってか、達成率が五十パーセントに近くなってきたぞ。あと一息だ! と、その前に、やっぱり休憩しよう。
池本さんが紅茶を淹れてくれた。立ち上る薄い湯気を眺めながら、無言でカップの中身を啜る。
「で、お義父さんはいつ戻られるんですか?」
またちょっと続いたお話です。