ある日の<俺> 年4月11日。 犬耳桜木R18
昨日に引き続いて、暖かい、といより、暑い。もう四月も中旬に入るところだもんな。年明けてから九十八円で買ったガーデンシクラメンがまだまだ元気に花を咲かせてるもんで、ついうっかりしてた。
ぴっかぴかの青空の下、風がなくとも散る桜。その下には、緑の若葉がのぞいてる。この時期の桜の木って、なんか犬猫の換毛に似てるよな。冬毛が抜けて夏毛に生え変わるの。
──って、たまたま道で会った犬仲間の相原さんに言ったら、大爆笑。相原さんちのジャーマンシェパードのグリンちゃん、アンダーコートの分厚い子だから、換毛の時期は色々すごいんだよなぁ。
うーん、まだウケてる。よほどツボに嵌ったようだ。え? 桜の木に犬耳がついてるのを想像した? ・・・俺はそこまで考えなかったよ。さすが、漫画描きは違う。
ひとしきり笑った後、相原さんの顔が急に真面目になり、心ここにあらずの状態に。かと思うと、にやにやしたり、でれっとしたり、赤くなったり青くなったり。汗かいたり。
大丈夫か、相原さん! 何か妙なものでも拾い食いいしたのか? などと心配していると。
「ネタ、サンキュー! いいプロット思いついた。これで次のイベントに本が出せる! すぐ帰ってコンテ描くよ。さすが何でも屋さん、ネタまで投下してくれるとは!」
俺の手を取ってぶんぶん振り回すと、砂埃を立てそうな勢いで彼は走り去った(アスファルトだから砂はないけど)。
何か暗~い顔して歩いてるから心配になって声掛けてみたんだけど、そっか、漫画のネタに詰まってたのか。けど・・・確か、相原さんの漫画って、十八歳以下には見せられないジャンルだったような? 桜で犬耳で、成人向け漫画?
・・・
・・・
深く考えるのはよそう。そして、次に彼に会ったら、ネタ提供賃として桜餅でも奢ってもらおう。うん、そうしよう!
さあ! 俺は健全な労働に勤しむぞ。お日様背に受け草むしり! この先に、大河内さんちの広い庭が待っている!
だから、考えるな、俺!
・・・
・・・
この世には、覗いてはいけない、考えてもいけない世界があるんだ。
くっ・・・!