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ある日の<俺> 4月7日。 猫と犬と何でも屋のフーガ
桜舞い散る、うららかな卯月の午後。
お魚くわえたドラ猫、を見た。
どっから獲って、いや、取って来たんだ? と焦ってよく見てみたら、魚じゃなくて小さなイルカのぬいぐるみだった。もとはブルーだったようだが、くたびれたそれはあちこち薄汚れていて、しっかりくわえている猫の口元からだらりと垂れ下がる姿が生魚っぽく見える。
・・・後ろから、サ○エさんじゃなくて犬が追いかけてきた。あのへたれたぬいぐるみ、何か見覚えがあると思ったら、ゴールデンレトリーバーのきなこちゃんの宝物じゃないか。
こら待て、きなこちゃん。宝物奪われて取り返そうとするのは分かるけど、首輪抜けはダメだろ。飼い主の宇賀神さんが心配するじゃないか。保健所に通報されても困るし。
俺は猫を追いかけて走るきなこちゃんを追いかけた。猫と犬と何でも屋のフーガ。うららかな日差しとはいっさい関係ないことは確かだ。