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ある日の<俺> その年の春分の日。
ざーっ──・・・
竹の葉擦れの音がする。
ざーっ・・・──
寄せては返す、波の音に似てるっていうけれど。
ざーっ──ざーっ・・・
違う。風は波を消す、そして波を起こす。だけど、竹の葉擦れは風に広がって、風に消える。
昔、子供の頃。今はもういない双子の弟と二人、強い風の中道に迷って途方に暮れて、必死で手を繋ぎあったっけ。永遠に果てることなどないかのように、後から後から押し寄せてきた竹の葉擦れの音。
「おぅん?」
グレートデンの伝さんが、どうしたんだい、とでもいうように俺の顔をのぞきこんでくる。ごめんごめん、散歩の途中だったな。公園と寺の間にある竹林が強い風に煽られて、押し寄せるような、どこか遠くに引いていくような、そんなざわざわとした竹の葉擦れの音を聞いていたら、何だか頭の中が空っぽになったような気がして・・・
今日は、春分の日。
A&Bストロガツキーの『波が風を消す』というタイトルからイメージを借りました。これの前作『蟻塚の中のかぶと虫』ともども、管理人の好きな作品です。