ある日の<俺> 3月18日。 良照さんちの黒猫
いつかの黒猫を見た。
やたらと迫力のある、大柄な猫だ。小型の黒豹、と譬えたくなるくらい。首輪をしてるからどっかの飼い猫なんだろうけど・・・
そいつが塀の上で、何か四角くて黄色っぽいものを幸せそうに舐めてた。チーズかな? それにしてもでかい塊だなぁ、と思って眺めてて、気づいた。
あれ、石鹸。
側面の浮き出し模様に見覚えがある。確か、オリーブ石鹸だったと思う。
なんで、なんで猫が石鹸舐めてんだ? 美味いのか? てか、体に悪くないのか? いや、良くないだろう。そう思って、咄嗟に手を伸ばして石鹸を取り上げようとしたら。
ニヤリ。
としか表現のしようのない悪いカオをして、黒猫はひらりと塀の内側に身を躍らせた。驚いたことに、あのでかい石鹸をくわえたまま。
「・・・」
この家の表札は、「良照」。あの猫は、やっぱりここの飼い猫なんだろうか。
ニヤリ。──黒猫の口の中は真っ赤だった。
思い出すと、背中がぞくっとした。
・・・何も見なかったことにしておこう。そうしよう。猫が石鹸舐めるなんて! バカバカしい! ははははは、はぁ・・・
怖っ!
この時、『敵は海賊』を読んでたんだ…
うちの猫もマルセイユ石鹸舐めてました。美味そうでした。もちろん取り上げました。