ある日の<俺> 2月19日。 亡き妻の遺したカレー・レシピ
山田の爺さんの作ったカレーをおよばれしていたら、思いっきり鷹の爪を噛んでしまった。
うおお、口の中に広がる焦熱地獄! 辛いとかそんなんじゃない、もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ・・・強いて言うなら、熱い。そして痛い。
辛いカレーだとは思ったけど、まさかこんなモノが入っていたとは・・・
爺さんは慌てて水をついでくれたけど、辛くて辛くて、俺はしばらく悶絶してしまった。だってさ。元妻がいつも作ってくれていたのは、♪りんごとはちみつとろ~りとけてる♪グ○コ・バーモントカレーの甘口だったんだ。俺、本当は辛いもん苦手なんだよ・・・
でもさ、去年亡くなった妻の味を再現する! って頑張った山田の爺さんの心意気、応援したくなったんだよなぁ。でも、こんなことなら、テレビのリモコンの修理(単に電池切れだったんだが)を終えたら、すぐにお暇しておけば良かった。
反省。
山田の爺さんは辛いカレーが好きで、奥さんの残したレシピどおりに作ったらしいんだが、彼自身はこれまで鷹の爪を直接齧ってしまったことはないらしく、煮込んだ鷹の爪を取り除くことまでは思いつかなかった、というか、全く思いつきもしなかったようだ。
ものすごく申しわけなさそうに謝られたけど、悪気は無かったんだし・・・
なにより。
妻の作ってくれたカレーが最高! っていうの、俺にも分かるからさ。
そ、それにしても、辛い。あ~、水なんかいくら飲んでも・・・
とりあえず、牛乳かヨーグルトが冷蔵庫に入ってないか聞いてみよう。「辛いカレーには、水を飲むよりそういうのが効くのよ!」って元妻が言ってたし。
・・・ああ、今ならゴジラになれそうだ。口から吐くのは放射能じゃないけど。
1月18日と2月19の間にあった「ある日の<俺>1月20日。」は、古道具屋・慈恩堂で<俺>が留守番をするお話です。
『逃げる太陽』シリーズのうち、『古美術雑貨取扱店 慈恩堂奇譚』内で、「慈恩堂でお留守番。」と改題して掲載中です。ホラー・カテゴリにしていますが、ちょっと不思議なほんわかオカルト系ですので、ちっとも怖くありません。