ある日の<俺> 1月16日。 霜柱踏み踏み
冬至を過ぎてから日に日に早くなる夜明け。『冬至十日経ちゃ、阿呆でも分かる』とは、昔の人はよく言ったものだ。
広澤さんちのアフガンハウンド、ランボー君の散歩で早朝の公園を歩いていたら、三村のじいさんを見かけた。彼の飼い犬、秋田犬のポチが、歩き回るじいさんを見守るようにじっと座っている。
なんか、人間と犬の立場が逆転してないか?
よく見てみると、どうやらじいさんは霜柱を踏んで遊んでいるようだ。あー、童心を忘れないにもほどがあるような。
俺の視線に気づいたのか、くるりとこちらを向いたじいさん。照れたようにへたくそなウィンクをしてみせた。
はいはい。誰にも言いません。
ポチのリードを引いて、ぎくしゃくと俺とは反対側に歩いていくじいさんは、目撃されたことがよほど恥ずかしかったらしい。そんなに気にしなくてもいいのに。
だってさ。
俺だって、見つけたら踏むもんね、霜柱。
おお、このざくざく感がたまらん。
「くーん・・・」
あ、ごめん、ランボー君。俺が道草食っちゃいけないよな。
「よし、仲良く行こうか、ランボー! 俺はベルレーヌじゃないけどな」
「あぉん?」
不思議そうなランボー君。それでもうれしそうに尻尾を振る。共に白い息を吐きながら、凍った土を蹴って歩き出す一人と一匹。
とある朝のありふれた光景だ。
あ、俺のしょーもないシャレはスルーする方向で。
ランボー、怒りのアフガンハウンド?
霜柱踏み踏みして、学校に遅刻したお馬鹿な小学生も、もういいトシです。