表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

103/520

ある日の<俺> 12月3日。  天を往く月、地を往く俺たち

晴れた夜空に、三日月と星。


あれよあれよと日が落ちて、もう真っ暗な午後五時過ぎ。西の空に昇った月は、お供をふたつ連れていた。一昨日の同じ頃、月とお供の位置はもっと近く、仲が良さそうだったのに、今夜は月だけが先に行ってしまっている。


星を助さん&格さんに、月をご老公にたとえれば、ご老公暴走の図、といったところだろうか。


なんてな。あー、吸い込む空気が冷たい。


本日最後の依頼は、吉井さんちのグレートデン、伝さんの散歩。すっかり馴染みの伝さんと俺の足取りは軽い。歩き始めは寒かったが、超大型犬の伝さんと連れ立つと歩みが大きくなり、今は身体が温まって汗ばむほどだ。


「なあ伝さん、あれってどっちが一番星なんだろうな。どっちも明るいなぁ」


「おんおん!」


話しかけると、伝さんは律儀に返事してくれる。


「そっか。どっちも一番星か」


「おん!」


「あれってさぁ、金星と木星なんだってさ、伝さん」


「あうん?」


「思い出すなぁ。昔、ののかがもっと小さかった頃。あれも今頃の季節だったかな。肩車してやってたら俺の髪をきゅっと掴んでさ、一番星を指差して、パパ、お空に金平糖が光ってるよ、って言ったんだ。可愛いだろ。」


「おん!」


「俺の娘は世界一可愛い」


「おんおんおん!」


「伝さん、お前はいいやつだなぁ」


「おん!」


俺とお揃いの夜間交通安全たすきを掛けた伝さんは、まるでちゃんと言葉が分かっているかのように絶妙のタイミングで小さく吠えて返事してくれる。


何だかまるで、長年の相棒みたいだなぁ。


「よし、相棒! こっから吉井さんちまで、ちょっと走ってみるか?」


「おん!」


本当は走るのが好きな伝さん、うれしそうだ。よし、車に気をつけて、二人でジョギングするとするか。空を往く、あの月と星みたいに。


どっちがお供かなんて、この際考えない方向で。


月と金星と木星の位置は、その年のその12月のものです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
□■□ 逃げる太陽シリーズ □■□
あっちの<俺>もそっちの<俺>も、<俺>はいつでも同じ<俺>。
『一年で一番長い日』本編。完結済み。関連続編有り。
『古美術雑貨取扱店 慈恩堂奇譚』古道具屋、慈恩堂がらみの、ちょっと不思議なお話。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ