ある日の<俺> 12月3日。 天を往く月、地を往く俺たち
晴れた夜空に、三日月と星。
あれよあれよと日が落ちて、もう真っ暗な午後五時過ぎ。西の空に昇った月は、お供をふたつ連れていた。一昨日の同じ頃、月とお供の位置はもっと近く、仲が良さそうだったのに、今夜は月だけが先に行ってしまっている。
星を助さん&格さんに、月をご老公にたとえれば、ご老公暴走の図、といったところだろうか。
なんてな。あー、吸い込む空気が冷たい。
本日最後の依頼は、吉井さんちのグレートデン、伝さんの散歩。すっかり馴染みの伝さんと俺の足取りは軽い。歩き始めは寒かったが、超大型犬の伝さんと連れ立つと歩みが大きくなり、今は身体が温まって汗ばむほどだ。
「なあ伝さん、あれってどっちが一番星なんだろうな。どっちも明るいなぁ」
「おんおん!」
話しかけると、伝さんは律儀に返事してくれる。
「そっか。どっちも一番星か」
「おん!」
「あれってさぁ、金星と木星なんだってさ、伝さん」
「あうん?」
「思い出すなぁ。昔、ののかがもっと小さかった頃。あれも今頃の季節だったかな。肩車してやってたら俺の髪をきゅっと掴んでさ、一番星を指差して、パパ、お空に金平糖が光ってるよ、って言ったんだ。可愛いだろ。」
「おん!」
「俺の娘は世界一可愛い」
「おんおんおん!」
「伝さん、お前はいいやつだなぁ」
「おん!」
俺とお揃いの夜間交通安全たすきを掛けた伝さんは、まるでちゃんと言葉が分かっているかのように絶妙のタイミングで小さく吠えて返事してくれる。
何だかまるで、長年の相棒みたいだなぁ。
「よし、相棒! こっから吉井さんちまで、ちょっと走ってみるか?」
「おん!」
本当は走るのが好きな伝さん、うれしそうだ。よし、車に気をつけて、二人でジョギングするとするか。空を往く、あの月と星みたいに。
どっちがお供かなんて、この際考えない方向で。
月と金星と木星の位置は、その年のその12月のものです。