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黄泉夜譚 ヨモツヤタン  作者: 朝里 樹
第二二話 ババアたちの逆襲
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二 ババアたちの逆襲

「耳削がせろやぁぁぁぁ!」

 包丁を振り上げた老婆がそう喚き散らしながら道路の真ん中を大股で走っている。良介はそれを見て、どう対処すべきか首を傾げた。

 見るからに危険な風体だが、妖怪とは言え老婆を殴るのはどうなのか。良介が悩んでいるうちに、老婆は次第に近付いて来る。老婆は良助を見つけると、包丁を片手に持ったままもう一方の手の指を軽く曲げ、良助を呼ぶような動作をする。

「おうあんた良い情報あるから耳貸してみ?ばあちゃんに貸してみ?」

「あんたさっきの自分の言葉振り返ってみろよ……」

 良介は咥えた煙管(きせる)を口から外し、煙を吐いた。無茶苦茶な妖怪だ。老婆は目を見開き、飛び出しそうな目玉で良介を見つめている。

「年寄りの言うことが聞けん子はわりいこじゃ!この耳削ぎババアの刃の錆にしちゃる!」

 耳削ぎババアという物騒な名前を自ら名乗った老婆は、そう明らかな暴論を口走ると、包丁を両手に持って良介に飛び掛かった。良介は再び煙管を口に挟むと、片手で包丁を、もう片方の手で老婆の肩を掴んだ。

「それ振り上げてなければ聞く耳も持つんだけどな」

 良介は手に妖力を通わせると、刃の部分を掴んだ包丁が真っ赤に変色して溶け始める。

「うおあっち!」

 耳削ぎババアが包丁から手を離す。それを見て良介はその凶器を後ろに放ると、老婆を近くのガードレールに押し付けた。

「しばらく大人しくしてもらおう」

 良介は言うと、空いたてをガードレールの端に乗せ、熱を加えながら強引に曲げて耳削ぎババアの体に巻き付ける。

「老人虐待じゃ!わりいこじゃ!これだから最近の若者は!」

「包丁持って襲って来る婆さんに虐待も何もあるかい。それに齢なら俺の方が多分上だ」

 良介は喚き散らす老婆を背にして、まだまだいるであろう老婆の妖怪たちを探し始める。




「見よ!この華麗なるドリブル捌きを!」

 顔を白塗りにした老婆がバスケットボールをつきながら道路を縦横無尽に走り回っている。当然その老婆を避けようと急ブレーキをかけた自動車は後ろの車に追突され、玉突き状態になっている。

「あれは何がしたいのでしょう」

 朱音は一人呟きつつ、髪を縛る紐を解く。相変らず老婆は狂ったようにドリブルを続けており、その目的が全く分からない。この清々しい程の意味不明さは逆に怖い。

「パス!」

 老婆は突然そう叫ぶと、バスケットボールを朱音に向かって放り投げた。朱音は咄嗟に受けとめようとするが、ボールから強い妖気を感じて慌てて髪をその茶色の球体に向かって振った。

 髪がボールに当たった瞬間に閃光が走り、その直後に破裂音と爆風が巻き起こった。朱音は髪で身を守りつつ、視界の利かないその場を後方に跳んで離れる。

「ババアエネルギー光球!」

 白煙の向こうからそう声が聞こえ、茶色に光る妖力の塊が朱音に向かって飛んで来る。朱音は再び髪を振い、それを空中で爆散させる。何故わざわざ自分の攻撃が分かるような掛け声をするのだろうか。

「このドリブルババアのドリブル捌きに付いて来られるかな!?」

 やたらと楽しそうな声でそう言うと、白煙を切り裂きながらドリブルババアが高速で走り始める。もちろん、その右手はドリブルを怠らない。

「ババアエネルギー光球!連弾!」

 ドリブルババアは朱音の周りを走り回りながら次々と妖力の弾を打ち出して来る。朱音はそれを撃ち落とし、また避けながら本体である老婆を狙う。

「ボールを相手のゴールにシュート!!」

 ゴールなどどこにもありはしないが、老婆は言いながら相変わらず予測し辛い動きで道路にボールをつきまくる。しかし楽しそうだな、と朱音は他人事のような感想を浮かべる。

「あうち!」

 老婆が方向転換しようとした際に、何かに(つまづ)いたらしく動きを鈍くした。朱音はその老婆に向かって鉄鋼の髪を伸ばし、縛り上げた。

「おおう!?」

 ドリブルババアが素っ頓狂な声を上げ、逆さまに吊るされる。朱音はそのまま途中で髪を切り離すと、老婆の妖怪を地面に放った。両手両足を縛られた老婆は動くことができずに悶えている。

「まさかわしがシュートされてしまうとは……、超エキサイティングじゃったぞ姉ちゃん?」

 ドリブルババアはどこか誇らしげに言う、朱音は苦笑いして、曖昧に頷く。

「ええと、これで良いのでしょうか……?」

 朱音は一人呟き、髪を近くのビルに突き立てて跳び上がる。




「なん……じゃと……?」

 ターボババアはヘリコプターババアの知らせを受け、眉を(ひそ)めてそう言った。

「本当じゃ。我々と同じ妖怪が我らを退治して回っておる」

「何という不届き者じゃ!」

 ターボババアは怒声を上げ、近くの街灯を殴りつける。街灯はその一撃で真っ二つに折れ、後方に倒れた。

 人間たちを襲う自分たちを襲う妖怪?あってはならないことだ。この崇高な行為を理解できないというのか。怒りがふつふつと沸いて来てターボババアの拳にも血管が浮かぶ。

「ババアどもはまずその三人を倒すことに集中しろ!わしも行く!」

 ターボババアは怒りを滾らせた言葉でそう言うと、ヘリコプターババアが頷いた。

「我々の逆襲の邪魔はさせん」




「ババア・ジャンピングキィィック!」

「ババア・ホッピングキィィック!」

 左右から放たれる老婆が跳び蹴りを、美琴は後方に跳んで避けた。老婆が空中で擦れ違い、その蹴りはアスファルトに波紋状の破壊痕を残す。

「いきなり何よ……」

 美琴は呆れたような声を出し、着地した二人の老婆を見た。銀色の帯の黒い着物を着た老婆と、赤色の帯の黒い着物を着た、ホッピングに乗って常に小さく跳んでいる老婆。姿形はそっくりだが、帯の色とホッピングのおかげで容易に区別はつく。

「動けるの、若いの」

 赤の方が振り返り、そう言った。その瞳は鋭く美琴を睨んでいる。

「お前がわしらの邪魔をしている妖怪だと見て間違いなさそうじゃな」

 青い帯の老婆が言う。どうやら自分たちの情報は既に老婆の(あやかし)たちの間に広まっているようだ。

「行くぞホッピング!」

「おう!」

「ババア狩りなどと言うこの世で最も不届きな行為をするわかもんに老婆の鉄槌を!」

 老婆らしからぬ掛け声とともに二人が跳び上がる。それぞらがビルの側面に一度着地すると、美琴に向かって一気に飛び掛かる。

 美琴は二人の足が届く直前に、揺れるように動いて避けた。このぐらいの速度なら簡単なものだ。

 老婆二人は地面に足が着いた瞬間に今度はそれぞれの片足とホッピングを持ち上げ、同時に後方に向かって叩きつけた。美琴は腕を交差させ、その攻撃を両手で受け止める。

「手荒なことはしたくないのだけれど」

 美琴はそれぞれの足とホッピングを掴むと、後方に向かって投げ飛ばした。美琴が振り向くと同時に老婆二人は空中で体制を立て直し、ビルの壁面にひびを入れるほどの力を込めて足とホッピングの底をつく。そしてそれを足場として跳躍し、美琴に飛び掛かる。

「ダブルババアキック!!」

 二人の老婆が同時に叫ぶ。それぞれ右脚と左足を伸ばし、美琴に向かって流星のごとき跳び蹴りを放つ。

 美琴は今度は避けることはせず、老婆に向かって跳び上がった。そして空中で体を捻ると回し蹴りにより二人の蹴りを片足で受け止め、蹴り返す。

 老婆の体が弾き飛ばされ、近くの薬局の看板にぶつかり凄まじい音を立てた後、殺虫剤をまかれた虫のようにその場に落下する。立ち上がる気配はないようだ。ホッピングだけが宙を舞い、美琴のすぐそばに綺麗に落ちてぴょんと跳んで行った。

 このぐらいで死ぬことはないだろうが、しばらくは動けまい。

「ほほう、中々楽しませてくれそうじゃの」

 また声がした。美琴は内心うんざりしつつ、さらに現れた老婆の妖怪に目を向ける。

 背中にプロペラをつけたふざけているとしか思えない容姿をした老婆が言った。

「まあ、わしら二人にかかれば敵では無かろうがな」

 その隣にいるのは両手にブーメランを持った老婆。目を細め、低い声で笑った。

「本当に、次から次へと……」

 美琴は紫に染まった瞳を老婆たちに向ける。同時に二人の老婆が走り出した。




「40キロババア!」

「60キロババア!」

「80キロババア!」

「100キロババア!」

「120キロババア!」

「五人合わせて!妖怪戦隊ババレンジャー!」

「制限速度かよ……」

 思わずそんな言葉が良助の口を()いて出る。桃、黄、緑、赤、青の着物姿の老婆が横に並んでポーズを決める。どこの何に影響を受けたのか。良介はそれをどうしようもない思いで眺めた。この悪ふざけに何の意味があるのか、考えるのも面倒臭い。多分ないのだろうし。

「ババレンジャーの力、とくと見よ!」

 40キロババアと名乗った桃色の着物の老婆が走って来る。良介は殴りかかるその拳を避けると、後頭部を親指で叩いて気絶させた。

「40キロババアがやられたようじゃの」

「あやつは我らババレンジャーの中でも一番の小物」

 他の老婆たちが口々言う。良介は煙管を吸い、煙を吐く。

「四人同時に掛かって来い。面倒だ」

「その言葉、後悔するなよ?」

 赤い着物の百キロババアが不敵に笑う。良介は後頭部を掻いて、溜息をつく。

「ババアフォーメーション!」

 100キロババアの言葉で四人のババアが縦に並ぶ。60キロババアを先頭に、速度順だ。それに何の意味があるのかは分からないが、良介は白煙を吐き、老婆たちの攻撃に備える。「アタック!」

 老婆が次々と走り出す。まずは60キロババア、次に80キロババアと、順番にスタートを切る。そして、彼女らは良介の目前で丁度横に並んだ。

 速度の差をスタートをずらすことで補正したのだろうが、その意味はなんなのだろう。良介は片足に炎を纏わせる。

 ババアは横に並んで一直線に突っ込んで来る。色違いの老婆が高速で走って来る姿は中々見られない光景ではあるが、別段見たいものでもないと良介は思う。

「我らのシミとなれ!」

 120キロババアが意味のわからない台詞を口走り、四人が拳を伸ばす。良介はそれを一瞥すると、踵を思い切り路面に叩き付ける。

 熱風が生じ、その旋風に老婆たちが巻き上げられた。火傷はしないように一応の注意は払ったが、上空まで回転しながら飛ばされた老婆たちはまともな受け身も取れずアスファルトにぶつかった。

「このババレンジャーが敗れるとは……」

 100キロババアがやっとのことといった調子で顔を上げ、言う。

「日本の未来は、お前に託したぞ……」

 そうにやりと笑い、老婆は気絶した。良介は地面に倒れ伏した老婆たちを見て、溜息を吐く。

「託されてもなぁ……」



異形紹介

・耳削ぎババア

 資料には「耳そぎばあさん」とある。いい話があるから耳を貸してごらんと子供に話しかけ、その耳を瞬時に切り取るのだという。かつて自分の息子が事故によって両耳を切断されてしまった母親が、新鮮な耳を求めているらしい。


・ドリブルババア

 バスケットボールをドリブルしながら高速道路でバイクと並走する老婆。突然ボールを投げつけて受け取らせることで、走行中のバイクのハンドルから手を放させようとするらしい。


・ジャンピングババア

 一度のジャンプで何メートルをも跳躍し、車を追い越して行ったり、体育館で百発百中のシュートを決めたりするのだという。


・ホッピングババア

 ジャンピングババアと似ているが、こちらの老婆はホッピングに乗っているのだという。


・40~120キロババア

 まず100キロババアという高速移動系のババア妖怪がおり、それから派生したと思われる妖怪たち。制限速度を順守している。

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