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第零話 追憶の闇

 私は、とても暗い闇の中で生まれた。だから、ずっとそんな暗闇の中で生きて行くのが当たり前なのだと思っていた。

刀を握り、妖と、そして人と戦う日々。私に与えられた力は、そのためのものだった。だから私は、たった独りで刃を振るい続けた。

でも私に初めて温もりを教えてくれた人がいた。私と同じ存在であるその人は、私に教えてくれた。

「私たちのようなものはね、死神と呼ばれているの」、と。


第零話「追憶の闇」


 懐かしい夢を見た。私は目を開いて、しばらくの間天井を見つめていた。もうあの人と別れることになってから、幾程の時が過ぎたろう。人間にはとても生きていることのできない時間、だけど人の身を捨てた私には、生きることができた(とき)

 この年月の中で私は幾つのものと戦い、その命を奪ってきたのだろう。他者の(けが)れを(はら)うため、命を奪う。それが、死神として生まれた私たちに課せられた責務なのだとあの人は言っていた。

 私は布団から上体を起こし、窓の外を見た。月が煌々と夜を照らしており、月光が窓の形の白い影を畳の上に作り出していた。

 月は十六夜(いざよい)望月(もちづき)からひとつ夜を過ぎた少しだけ欠けた月。私があの人と始めて出会ったのも、この月が空を照らす夜だった。だから、あんな夢を見たのだろうか。

 私は布団から抜け出して、窓辺に座った。そして人の世界とは違う、もうひとつの世界を見渡す。(あやかし)たちの住む国、黄泉国(よもつくに)。この国も、あの人が私に残してくれたもの。もうすぐこの国に新たな住人が迎え入れられるだろう。

 彼はまだ、自分の正体が何であるのかに気付いていない。だから私が導いてやらねばならない。あの人が私にしてくれたように、どんなものにも、生きていける場所はあるのだと教えてあげよう。

 私は部屋の真ん中に座って、(まぶた)を閉じる。他者の命を奪うのは、死神としての責務。だが、あの少年を救うのは、私自身の思いだ。あの人に名付けられた、この美琴という名の死神の。



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