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黄泉夜譚 ヨモツヤタン  作者: 朝里 樹
第四五話 伝染する悪夢
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四 伝染する悪夢

「なんであんたが木嶋きじまさんを……」

 それは雪の降る真冬の夜だった。その日は今まであまり話したことのなかったバレエ教室の二つ上の先輩に連れられて、夕食をともにした。いつもならそんな誘いは断るのだが、木嶋の存在が礼子の心を浮かれさせていた。もしかしたら自分も他の人たちと普通の友好関係だって作ることができるかもしれない。そんな淡い希望を抱いていたかもしれない。

 だがそれは夜の帰り道で裏切られた。街燈が降り積もる雪を明るく染めるのが遠くに見える。その景色を背にして礼子を見下ろす先輩は悪魔のような笑みを浮かべていた。

「あたしじゃなくてあんたが選ばれた意味が分かんない。幽霊みたいな顔してるくせに。体でも使ったの? そんな風にさ」

 先ほどまでは和やかに話していたはずなのに。その先輩に付いていった先で、礼子は三人の男に襲われた。

 彼女が木嶋を慕っていることは知っていた。だけど彼と付き合いを始めてからも敵意を向けられたことはなかった。だから、そんな風に恨まれているなんて、そしてそのせいでこんな目に合うなんて思ってもいなかった。

 名前も知らない男が礼子に伸し掛かる。背中が冷たい雪を擦る。口は声を出せないように塞がれていて、目の端から涙だけが落ちて雪に凍り付く。

 女と男の笑い声が降り注いでいた。それは生きている人間のものであり、辺りを漂う死した魂のものであり。みんなが私を笑っていた。

 私が何をしたというのだろう。こんな人生を歩ませられるようなことを私が何かしたのだろうか。次第に壊れて行く心の中で、礼子は憎悪を滾らせる。

 生きている人間は、幽霊と同じぐらい醜い。礼子は心の奥でそう思った。肉体という殻を被っているだけで中身は悪霊たちと変わらないものばかりなのだ。

 だがどんなに憎んでも、恨んでも、生身ではこの人間たちには敵わない。押さえつけられた腕は動かすことができず、生きている人間にどうやって霊力を使えば良いのかもわからなかった。祖母からもらった鈴も、彼らを追い払うことはできなかった。彼女の霊術は夢の中で人を救うための術。覚醒している相手には意味をなさなかった。

 この男たちが眠っていれば。礼子は思った。夢を見てさえいれば、その心に入り込むことができるのに。こいつらを酷い目に合わせることだってできるのに。

 だがその願いは現実にはならない。礼子はただその地獄のような時間を耐え続けた。




 真夜中になって、雪の上で彼女はやっと解放された。雪が体に降り積もっていた。礼子はふらつきながらもなんとか立ち上がり、歩き始める。

 もう自分を汚したものたちの姿はなかった。ただ灰色の雪が降り積もる景色が彼女の前に広がるだけだった。

 ただ帰りたいと思った。家が恋しかった。礼子はボロボロの体を引き摺り、、雪道を歩いた。

 家の方向は何となくしか分からなかった。だが今の姿を誰にも見られたくなくて、彼女はただひたすら歩いた。そして信号のない広い道路を横断する途中だった。

 彼女を眩い光が照らした。それが自分に迫るトラックのヘッドライトだと知った時には、その鉄の塊は彼女に近付き過ぎていた。礼子の体は急ブレーキの轟音とともにトラックに撥ね飛ばされた。

 その衝撃が、礼子から右腕と左足を奪った。彼女の体は宙を舞い、そして凍った路面に叩き付けられた。礼子の口から血が迸る。そして彼女から奪われた腕が、足が、遅れて彼女の側に落ちた。

 ちりん、と鈴の音が鳴った。ポケットから放り出された祖母の鈴が近くに落ちた。死に行く礼子を、漂う亡霊たちが見つめている。彼らの笑い声が聞こえる。彼女は必死に鈴をその右手に掴み、胸に抱いた。人間に食い散らかされた後に、あんな亡霊たちの餌食になるのは嫌だ。

 次第にその笑い声が消えて行き、視界もおぼろげになり始めた。己の命が死に向かって行くのが礼子には分かっていた。壊れて行く意識の中で彼女は思った。

 足がなければ舞台に立てない。腕がなければ踊れない。足が欲しい。腕が欲しい。赤く染まり行く雪の上で、彼女はかつて出会ってきた人間たちを思った。彼らには足がある。腕がある。自分が与えられなかった幸せを持っている。私を嘲笑い、傷付け、そして不幸に貶めた周りの人間たちが私にないものを持っているのに、私の腕は、足は、幸せは、あいつらに奪われた。

 妬ましい。羨ましい。憎らしい。壊れ始めた心が純粋な憎しみだけを彼女の中に残される。彼女の強い霊力は、その思いとともに呪いとなって礼子に巣食う。

 ならば奪えば良い。この腕と足とを奪えば良い。幸福を、命を奪えば良いそのためならば、幽霊にでも悪霊にでもなってやろう。霊の恐ろしさは知っている。だからその誰よりも恐ろしい化け物になって、この世の人々全てを呪い続けてやる。

 それが鹿島礼子の最後の願いだった。やがてその肉体は朽ちる。だが彼女の強大な霊力は恨みのためにこの世に留まった霊体に作用し、そして礼子を望み通りの怪物へと変えた。




 それから彼女は人の夢に現れ、人の手足を奪う悪霊となった。彼女は夢の中に現れた。生前から霊力が強かった上、夢を利用した呪術に長けていた彼女にとってそれは容易いことだった。

 彼女はただ人の腕と足を求め続けた。もう一度バレエの舞台に立つために足と腕が欲しいと願った記憶に囚われ、そして人々の体の一部を奪って殺すことでその心を満たした。彼女は自分にない両腕と両足を持った人間たちを憎んだ。

 彼女はまず、彼女の生前を知っているものたちの元に現れた。彼女を知っているということが彼女が夢に現れる条件だった。形を持たぬ霊体の化け物は、記憶という形のない概念を利用して他者の精神世界に入り込んだ。生前に覚えた夢の霊術が悪霊と化した彼女に力を与えた。

 自分を愛してくれなかった母は、その腕を奪って殺した。自分を見てくれなかった父は、その足を奪って殺した。自分を陥れたあの女も、自分を汚したあの男たちも、その手足を千切り取った。

 どんな霊能者も悪霊となった彼女には敵わなかった。悪霊を憎み続けていた少女は、他のどんな悪霊でも及ばない最悪の怪物となって夢の世界に現れた。

 そして殺人をを続けるうちに彼女は都市伝説となった。カシマさん、またそれに類する名前で呼ばれる都市伝説の怪異。その噂は様々な地域に広まり続け、そして噂は広まるほどに彼女の霊力の糧となった。噂を聞き彼女の存在を知った時点で、その人間はカシマさんという怪異が夢に入り込む条件を生み出してしまった。夢の世界の扉を彼女に対して開いてしまうこととなった。

「足をよこせ」

 その言葉とともに、都市伝説カシマレイコは人の足を奪った。夢の世界で千切られた足は、現実の世界でも消えてなくなった。彼女の中に取り込まれ、そしてカシマレイコの悪夢の世界に打ち捨てられた。

「手をよこせ」

 その言葉は呪いとなり、カシマレイコによって人々は腕を奪われた。夢の中でもぎ取られたそれは、その人間がもう一度夢から覚める機会さえも奪った。

 そうして、都市伝説カシマさんは人を殺し続けた。噂が流行る度に彼女は霊力を得て、人々の夢に現れた。

 腕を奪ったところで己の腕はもう戻らない。足を千切ったところでもう両足で立つことはできない。彼女は肉体そのものを失ったのだから、もう踊ることなどできないのだ。

 だがそれをカシマレイコが知ることはもうない。彼女はただ湧き上がり枯れることのない憎しみに従って人を呪った。

 人を殺すことによって自分の姿を描いているのも、かつてその行為が大切なものだったという霞の掛かった記憶によるものだった。だが彼女の心からはもう人の姿を描く理由は失われている。化け物となった彼女は、ただその異形の姿を描き続けることしかできない。人であることをやめた彼女にとって、その行為にもう意味はない。

 そしてその悪霊は新たな獲物を見つけた。自分の噂を知っている、そしてかつての自分と同じように多大な霊力を持った存在を嗅ぎ付けた。

 カシマレイコはその精神世界に入り込む。その世界の中に立っていたのは、青紫の和服を身に纏った少女だった。




「この辺りかしら」

 美琴は薄暗い地下駐車場でそう一人呟いた。ここはあの地図を辿って見つけた廃ビルの地下だ。カシマさんが引き起こす事件の法則性が正しければ、この周辺が丁度次にカシマレイコが夢の中に現れる場所になるはずだ。その中でも最も人気ひとけのないと思われる場所を死神は選んだ。

 黴と埃の匂いを無視し、死神はそこに簡易的な結界を張った。これで人の目には自分は見えないし、人がこの近くに入って来ることもない。こんなところに人が来るとも思い難いが、夢の中で戦う以上、眠っている肉体に干渉されて集中力を乱されるだけでも命取りになり兼ねない。

 これで狙い通りあの怪異が現れるかは分からない。だが今は昼間だから、夜に比べれば眠っている人間は少ない。そして美琴はカシマレイコの噂を知っている。一応彼女が夢に現れる確率は高いはずだ。後は都市伝説が自分を選ぶよう祈るだけだ。

 美琴は下に布を敷き、その上に正座した。そして両手を膝の上に重ね、目を閉じる。やがてその意識は現を離れ、その精神は夢の世界に迷い込む。




 美琴は夢の内にて目を開いた。月が照らす広い草原。その景色に遮蔽物はなく、草原に終わりは見えない。

 無論腰に刀は佩いていない。この世界では物理的な力は意味をなさない。頼れるのはただ己が霊力のみだ。美琴はただ静かに待つ。死神はこの世界を夢だと知覚している。故にその世界に起きた異変にすぐに気が付いた。

 不意に鈴の音がその世界に響いた。それに続いて、女の声が夢に現れる。

「私の足がないの」

 黒いワンピースに血を滴らせ、女はそう美琴に訴えた。それは呪いの言霊となり、夢の景色が塗り替えられて行く。空からは赤い雪が降り注ぎ、大地を覆っていた草は固く冷たい石に変わる。

 そしてその暗闇から浮かび上がるように、無数の千切り取られた腕と足とが大地に現れる。

「あなたがカシマレイコね」

「悪夢の世界へようこそ」

 美琴は霊体として女と対峙する。カシマレイコは奇妙に口を歪めてて微笑した。この時点で既に相手から凄まじい霊気を感じていた。噂による言霊だけでなく、怨恨、憤怒、悲哀、嫉妬、様々な負の感情を霊気としてこの怪物は溜め込んでいる。霊力だけならば恐らく美琴を凌ぐであろう。

「どうして人を殺すのか、なんて聞く意味はあるかしら?」

 死神の問い掛けに、悪霊はくつくつと小さく笑って答える。

「私の足は、あなたみたいに幸せそうなやつに奪われたの。だからね」

 カシマレイコの姿が美琴の目の前に現れる。血走った目に欲望が渦巻いている。

「お前の足を寄越せ」

 その言葉がカシマレイコから発せられた直後、強い霊力の干渉を感じて美琴は自身に己の霊気を纏わせた。

 激痛が美琴を襲い、太腿の上部が千切れるような感覚があった。無論本来の肉体ではない。だがこのまま精神を破壊されれば恐らく現在眠っている肉体にも影響が及ぶ。

 美琴は霊気を集中させて、カシマレイコの呪いを弾いた。だが今の一撃で相当な霊力を消耗した。予想以上だ。このままではこの化け物に取り込まれる。短期決戦で勝敗を決せねばならぬ。

 カシマレイコはただ霊術を使うだけでは勝てない。だが最悪の悪霊にも弱みはある。美琴は悪霊を見つめ、そしてその口が呪いの言葉を紡ぐ。

「カシマのカは仮面の仮」

 美琴の霊体を通じて発せられたその言葉に、持ち上げられようとしていたカシマレイコの左腕が止まった。

「カシマのシは死人の死」

 死神が紡ぐは都市伝説、カシマレイコへの対抗呪文。恐らく彼女への恐怖を緩和するために生まれたものなのだろう。だがカシマさんの都市伝説が広まるに比例して、対抗呪文の都市伝説もまた広まって行った。

 カシマレイコという都市伝説が噂によって力を得たように、対抗呪文もまた噂が広まり、人々に信じられるほどに力を持つ。特にカシマレイコのような霊体のみの存在には、言霊である対抗呪文が大きな影響を及ぼす。詩乃のようにはいかないが、言霊の使い方は知っている。そしてここは自分の精神世界だ。通常よりも霊力の行使は容易だ。

 呪いには呪いを。死神はその呪文に全てを賭ける。

 美琴はカシマに近づき、その顔に触れた。彼女は無表情のままに自らを滅ぼさんとする死神を見つめている。その心はばらばらに砕けた鏡のように、意味のある記憶を見せてはくれない。ただそこに渦巻くのは、底の見えない人々への怨念と羨望だけ。

「カシマのマは悪魔の魔」

 美琴が最後の呪文を告げる。直後、カシマレイコの姿は曖昧となり、やがて死神の精神世界からあっさりと消え去った。

 夢の景色が元の世界に戻って行く。赤い雪は解け、黒い闇は藍色の空に染まる。美琴はそれを確かめて、再び夢の中で目を閉じる。




 それから腕や足を奪われて殺される、あの奇妙な殺人事件はなくなった。それとともにカシマさんの噂も収束に向かっているらしい。噂は流行れば廃るものだ。事件が都市伝説の流行を後押ししていたのだろう。

 美琴は溜め息を吐いた。あの日カシマレイコにやられた足がまだ痛む。千切られることは回避したものの、それでも相当な被害を受けたようだ。ただの傷ならば妖力を使って簡単に直せるが、霊体を通したものはそうも行かないいらしい。

 美琴は小袖の上から左足を摩った。歩くぐらいなら問題はないが、当分は今までのようには戦えないだろうから、大きな事件は起きて欲しくないと思う。

 縁側でそんなことを思いながら微睡んでいると、小町と恒とがやって来る気配があった。美琴が振り向くと、丁度部屋に入って来る二人の姿がある。

「美琴様、足は大丈夫ですか?」

「ええ、まだ少し痛むけれど、問題はないわ」

 美琴はそう笑って答える。この子たちに心配はかけたくない。美琴は左の太腿に載せていた左手を縁側に下ろした。

「カシマさんの事件は終わったんどすね」

「それはどうかしらね。彼女は都市伝説の中でも特にたくさんの噂を持つ怪異だから、もしかしたらすぐにでも再生するかもしれない。都市伝説は厄介ね」

 小町と恒が美琴の横に腰を下ろす。夕凪が辺りを包み込み、一瞬だけ音が消えた。その夕日の下に、小町が声を発する。

「またそのうち、カシマさんに纏わる都市伝説が流行るかも知れませんものね」

 美琴は頷いた。そして考える。悪夢から悪夢へと流浪する怪異。彼女もまた何故自分が人を襲うのか、分かってはいないようだった。壊れた心のままひたすらに夢を渡り歩き続ける。彼女にとってもそれは悪夢なのかもしれない。もうそれを思う心さえないのだろうけれど。

「人から人へと伝わる都市伝説という言霊を媒介にして伝染する悪夢。それがカシマさんという怪異なのだからね」




 美琴は青空の下を歩いている。足は大分良くなった。このままならもうすぐすっかり治るだろう。

 そんな彼女の側を三人組の少女たちが通り過ぎた。まだ小学校一年か、二年生ぐらいだろう。美琴は微笑んで、その後ろ姿を見送った。

 少女たちは噂話に花を咲かせている。昨日見たテレビの話、違うクラスの友達の話など他愛のない話が続く。そんな話の中で、三人の中の一人が口を開いた。それは彼女が姉から聞いた、とても恐ろしくて、けど人に教えたくなってしまう噂話。

 少女は友達にその噂の名前を告げる。

「ねえ、カシマさんって知ってる?」



異形紹介


・カシマさん

 フルネームはカシマレイコとされることが多い。現代の都市伝説の一つで、数多のバリエーションを持つ怪異。その多くは足、腕、また両足と両腕、首など体の一部が欠損した幽霊として語られる。幽霊の欠損部位や性別、年齢等の特徴は様々であり、病気の手術で手を切断し、絶望して自殺した女性ピアニスト、事故で片足を切断し、自殺したバレリーナ、航空事故で犠牲になったスチュワーデス、鉄道事故でバラバラになった死んだ少女、第二次世界大戦終戦の直後、米軍によって強姦され、手足を切断しなければならない重傷を負わされて自殺した女性、戦争で手足を失った兵隊、殺人事件の被害者となった老婆、いじめで自殺した少年などが見られる。またカシマが指すものも様々であり、幽霊の名前から地名、また幽霊を追い払うための存在として軍神である武御雷神や有名な霊能者の名前、また幽霊を殺した犯人の名前とされる場合もある。

 またカシマさんが現れる場所も数多く語られており、夢の中、トイレ、家の玄関、枕元、電話をかけて来るなどがある。さらに噂を聞いて~日後に現れる、それを回避するには~人に同じ話をしなければならないといった伝染性を持つ都市伝説として流布していることも多い。

 噂のバリエーションの豊富さからか撃退呪文の種類も多く、「カは仮面の仮、シは死人の死、マは悪魔の魔」、「カシマさん、カシマさん、カシマさん」、「カシマ様、カシマ様、カシマ様」等々がある。その他にもカシマさんからの問いにただし答えを返して撃退するというパターンもある。


 カシマさんという都市伝説が確認された現在最古の例は1972年の平凡パンチという雑誌で、ここでは「化神魔サマ」という下半身のない幽霊が紹介されている。ここでは北海道札幌市の中学生が発生源とされているが、同年10月には朝日新聞新潟版にて新潟県糸魚川にカシマという幽霊が出現した話が乗せられている。ここでは顔の半分が焼け爛れた、片足または両足の女幽霊として書かれており、鈴の音を合図に現れるとされた。

 それ以降も様々な噂が語られたが、その多くは体の一部を欠損させ、失ったその体を人間から奪うために現れる幽霊として語り継がれた。また他の都市伝説と組み合わせて語られることも多く、下半身を欠損した怪異という共通点のあるてけてけの本名、また口裂け女の名前がカシマレイコであるという噂もあったようだ。特にてけてけとカシマさんの混同については例が多く、漫画『地獄先生ぬ~べ~』ではてけてけの生前のイニシャルがK・Rとされていたり、2009年の映画『テケテケ』、その同時公開の続編『テケテケ2』ではテケテケの本名がカシマレイコであるとされた。また有名な霊能者の名前であるという噂からか、1998年の映画『新生 トイレの花子さん』では「鹿島玲子」という名の霊能者が登場している。

 その噂はインターネットにおいても語られ続け、ネットロアとしても出現した。「鹿島さん」と名づけられたこの怪談においては、幽霊はアメリカ軍によって強姦され、さらに両手両足を撃たれたことで四肢を切断することとなり、最後には列車へと身を投げた女性の霊として語られており、その姿は手足と頭のない肉片という特異なものとなっている。この霊は殺人事件を起こした家庭を結ぶことで五体のない自身の姿を描くように殺人を行っていた。またこの話において鹿島とは、鹿島神社の神を呼ぶための呪文として機能している。

 このように様々な形で語られるカシマさんという都市伝説だが、名前、性質の似た都市伝説にカヤマさんやキジマさんといったものたちもいる。これらはカシマさんが形を変えて伝わったものとも考えられるが、カヤマさんについてはリカちゃん人形のフルネーム、カヤマリカから来ているとも考えられており、それがカシマという名前の元になったという説もある。またキジマさんについてはカシマさんと同時に語られる都市伝説があり、そこではキジマは男、カシマは女のカップルで、轢き逃げに遭って両足を失い、自殺したカシマとその犯人を殺し、死刑にされたキジマの幽霊が続けて現れるという怪談になっている。

 このように四十年以上も語り継がれている怪談ではあるが、そのカシマという名前がどのようにして生まれたのかは未だ明確には分かってない。しかし彼女は今でも様々な噂として生まれ変わりながら、人々に恐怖を与えているのだろう。

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