四 おにさんこちら
「それで、ひとりかくれんぼってどうやるの?」
洋子が尋ねる。すると、弘樹はリュックを床に置いて中身を取り出し始めた。
「まず、この人形だ」
そう言って弘樹が取りだしたのは、熊の形をした二十センチほどの大きさのぬいぐるみだった。背中には、一度切って縫い合わせたような糸の跡がある。
「それをどうするんだ?」
晶が珍しいものを見るような目でそのぬいぐるみを見ながら尋ねる。
「まず、ひとりかくれんぼの最初の準備として、ぬいぐるみの中身を取り出して代わりにその中にお米と、自分の爪を入れるんだ。それは俺がやってきたから大丈夫」
説明が終わると、弘樹は再びリュックの中をまさぐり、今度は桶を取り出した。風呂場で使う、普通のサイズの桶だ。
「今度はぬいぐるみを水の中に入れるんだ。本当は風呂がいいんだけど、学校じゃ無理そうだから、これで代用。晶、これに水入れてきてくれ」
「はいよ」
晶は素直に従い、手洗い場で桶の中に水を入れて持って来た。
「次は、このぬいぐるみに名前を付けるんだけど、花子、でいいな」
三人が頷くのを見て、弘樹は手に持ったぬいぐるみに向き直る。
「まずこう唱えるんだ。最初の鬼は弘樹、最初の鬼は弘樹、最初の鬼は弘樹」
呪文のように同じ言葉を繰り返したあと、弘樹は花子と名付けられたぬいぐるみを桶に入れた。水の上に浮かんだぬいぐるみは、その光のない目を弘樹の方に向けている。
「そして次は電気を消して十数える」
「ええ?消しちゃうの?」
真菜が心配そうな声で言った。
「仕方ないだろ、そういう手順になっているんだから」
電気が消えた。弘樹の数を数える声だけが暗闇に響く。
「七、八、九、十、と。よし、電気点けてくれ」
スイッチを押す音がして、電気が付いた。トイレの中に明りが灯る。異変は、特にない。
もう弘樹が手順を説明する以外は誰も言葉を発しない。これから起こることに対する恐怖のためか、それとも期待のためか、四人は黙々と作業を続ける。背筋を走る悪寒と、異様な高揚感。矛盾した二つの感覚が四人の体を駆け巡る。
「よし、次はこのカッターをこいつに刺して、こう言うんだ」
弘樹はポケットからカッターを取り出すと、刃を出してぬいぐるみの腹に思い切り突き刺した。
「花子さん、見つけた。次は、花子さんが、鬼」
そうとぎれとぎれに言うと、弘樹は水のような液体が入ったペットボトルを晶、真菜と洋子に渡した。
「これ、なんだ?」
晶が尋ねる。
「塩水だよ、これ持ってどこかに隠れるんだって」
弘樹は答えると、自分のペットボトルをポケットに突っ込んだ。
その瞬間だった。突然、真菜の背後の空間が歪んだ。驚いた真菜が振り返ると、今度は空間が捻じれ、裂けた。
「助けて……!」
恐怖に怯える真菜は他の三人を見るが、皆震えて動けない。ただどす黒い内部をのぞかせた空間の裂け目だけが、機械音のような不気味な音を響かせてうごめいている。まるで化け物の口のようにぱっくりと空いたその裂け目は、急に動いたかと思うと、真菜を飲み込んだ。
ぎぃぃと音がした。三階の女子トイレ、その奥から三番目の扉が、独りでに開いた。ただの噂だと思っていたことが、今三人の眼の前で、現実に起ころうとしていた。体が竦んで、まるで動かない。
「今日はかくれんぼで遊ぶんだ。でも、かくれるのが遅いから、ひとり見つけちゃった」
誰もいないはずの個室から聞こえる、無邪気な少女の声。開いたドアに遮られ、その声の主は見えない。しかしドアと床の隙間からかろうじて赤い靴が見えた。それは、遅い足取りながら、確実に進んでいる。三人は恐怖に固まった四肢を無理矢理動かし、異形のものがその姿を現す前に、一斉に逃げ出した。
「逃げちゃった。鬼ごっこもしたいのかな?」
四人がいなくなったトイレ、その奥から三番目の個室から現れる異形の少女。彼女はにやりと笑うと、水に漬かっている自分と同じ名前を付けられたぬいぐるみの腕を掴んだ。そしてそのまま、持ち上げる。
「いっしょに行こう、花子ちゃん」
ぬいぐるみにそう語りかけると、少女の霊はゆったりとした足取りで、歩き始めた。今日の遊び相手は、まだ三人もいる。楽しい夜になりそうだ。
隠れた子供たちを見つけ出す隠れ鬼。鬼はこの私だ。花子は楽しそうに歌を口ずさむ。
「おにさんこちら、てのなるほうへ」
「なんだよあれ、マジでいるなんて聞いてねーよ!」
走りながら、晶が叫んだ。
「どうしよう!真菜が攫われた!」
洋子が泣きそうになりながら言った。弘樹は走りながら後ろを見た。あの霊は、付いて来ていない。
「隠れよう!」
息も絶え絶えに弘樹が言う。三人は理科室に飛び込むと、机の下に隠れた。
「もういいかーい」
廊下の向こうから響いて来る、楽しそうな少女の声。それに続いて足音が近付いて来る。夜の静けさに満ちた学校では小さな足音でも良く響く。三人は怯えながら、身動きもせずにじっと隠れている。
理科室の引き戸が開く音。そして部屋の中へと入って来る足音。晶は机の下から戸の方を見た。その瞬間に、目の前に現れる逆さまの少女の顔。にんまりとした笑顔っで、花子は口を開いた。
「みーつけた」
花子が晶の腕を掴んだ。振り払おうとするが、まるで手は離れない。泣きそうになりながら晶は二人の友人の姿を探す。だが既にこの教室に彼らの姿は無かった。自分を置いて逃げ出したのだ。
「一緒にいきましょう」
花子が楽しそうに言う。持っていた塩水が落ちた。晶の背後で空間が裂ける。晶は絶望に飲まれながら、その暗い暗い闇に取り込まれた。
走っている内に、洋子は弘樹とはぐれてしまった。花子が教室内に現れたのを見て、慌てて逃げ出したのだ。階段を下り、一階までやって来たのは良いが、いつの間にか一緒に逃げていたはずの弘樹の姿は無くなり、ただでさえ心細い洋子はこの暗闇の中にひとり取り残された。
「とりあえず、外にでなきゃ……」
暗闇の中、僅かな明かりを頼りに、洋子は出口を探し始める。ここから出て、大人を呼べばなんとかなるかもしれない。そんな思いに縋り付きながら、必死で足を進める。だが、そんな希望はあっさりと砕かれた。
「どうして隠れていないの?隠れ鬼でしょう?」
遠い廊下に響く少女の声。自分のものではないそれに、洋子は戦慄しながら振り返る。そこにあるのは、スカートを着た少女をかたどったシルエット。暗いために詳しい姿は分からないが、けたけたと笑い声が聞こえるため、その顔は笑顔なのだろう。背筋に悪寒が走る。洋子は走って逃げ出そうとして、急に足元に出現した空間の裂け目に自ら自分の体を突っ込む形となった。
「誰か!」
叫ぶが、当然誰も助けには来ない。体が序々に黒い空間の裂け目に沈んで行く。洋子は悲鳴を上げた。その声はしばらく校内に響いて、やがて暗い闇に飲み込まれた。
悲鳴が響いた。これは多分洋子のものだろう。弘樹はそう判断して、後ろを振り返った。もう、これで一人になってしまった。真菜は眼の前で連れ去られたし、晶も多分あの理科室で襲われた。そして洋子の悲鳴だ。弘樹はポケットから塩水の入ったペットボトルを取り出して、縋る思いでそれを握りしめる。何としてでも自分が外に出て、助けを呼ばねば。そう考えて前を向いたとき、彼の顔が恐怖に凍った。
「最後の一人、みーつけた」
振り返った一瞬の間に、その異形のものは弘樹の前、彼から数メートル離れたところに現れていた。
「あなたたちも、おんなじなんだ」
少女の霊は囁く。
「遊ぼうって誘うのに、すぐ逃げちゃうんだもの」
残念そうな声で、少女の霊は言う。白いシャツに、赤いスカートを履いた自分と同じか、少し小さいくらいの歳のおかっぱの少女の姿。弘樹は逃げようとするが、腰が抜けて動けない。ゆっくりと、確実に、花子は近付いて来る。顔には満面の笑みをたたえながら、花子は弘樹の顔を覗き込んだ。
「でもこれで、私の勝ち」
空間が裂けた。悲鳴を上げる間もなく、弘樹は裂け目に飲み込まれた。
やはり今日も自分と遊んでくれるものはいなかった。残念そうにため息をついて、花子は振り返る。その時、彼女は初めて廊下の向こうの人影に気がついた。
「あなたは、誰?」
ずっと向こうの、廊下の突き当たりの方。そこに、紫の瞳の女が立っていた。
「幽霊にしては、出て来る時間が早過ぎるのではないかしら」
紫の少女はそう言った。綺麗な青紫の着物を着た少女は、何やら手に黒い棒のようなものを持っている。綺麗な顔だが、その紫の瞳から投げかけられる視線は冬の月のように冷たい。花子は彼女を不思議そうに見た。自分を見て動じない人物は、初めてかもしれない。
「誰?」
花子はもう一度尋ねた。すると、着物の少女は口元だけを微笑ませて、それに答える。
「私の名は美琴。死神よ」
その冷たい笑みを見た刹那、言い知れぬ恐怖が花子を捉えた。美琴と名乗る少女は雅やかな足取りで、ゆっくりとこちらへ向かって来る。その視線の冷たさの中に混じる殺気。この女は敵だ。しかも自分を恐れず、自分以上の力を持った。直感的に花子はそう判断し、抵抗を開始した。
美琴の背後、そして右側の空間が同時に歪んだ。だが、美琴は焦りもせず、それを睨み付けるだけであっさりと空間への干渉を沈めてしまう。
「霊力を形のない空間に作用させて、無理矢理に境界を作っていたということね。これじゃあ霊磁場も歪むわね。でもこれで、あなたが何故全国の学校に出現したのかも説明が付く」
近付いて来る死神に向かって、花子が霊気の塊を放った。何としてでも自分に近付けさせてはいけない。しかし、美琴は着物の袖を振るだけでそれを打ち払う。
「なんで……」
「普通、境界は異界、人間界の境目にしか作れない。でもあなたは何もないところに境界を作り上げ、それを通って境界そのものに入り、また出口を作って別の場所に移動することができる。こんなところかしら」
そう言って、美琴は不敵に笑う。境界や異界などは知らない花子だが、自分の能力が暴かれたらしいことは分かった。焦りながらも花子は再び美琴の周辺に境界を開く。今度は三つだ。しかし美琴は地面を蹴って走り出し、その境界の浸食を避けた。そのまま花子に向かって突っ込んで来る。
「来ないで!」
花子は自分の後ろに境界を開いた。その中に逃げ込めば相手は追って来られないはず。しかしその思惑と裏腹に、美琴は焦る様子も見せず抜刀した。あの黒い棒のようなものは日本刀だったらしい。美琴は閉じかけた境界の前に立つと、その裂け目の中に刀のさっ先を突き刺した。
「残念」
冷酷に言い放ち、美琴がそのまま刀を振り下ろす。すると、閉じかけていた境界が斬撃に沿って再び裂けた。物理的な干渉は受けないはずの花子の境界が再び開かれ、その予想外の事態に花子は慌てて境界の内部へと逃げ出そうとするが、その手を美琴に掴まれた。そのまま人間界へと引き摺り出される。
「観念しなさい」
諭すような口調で美琴が言う。だが花子は抵抗を諦めず、再び境界を開こうとした。だがそれは叶わない。美琴から発せられた霊力が花子の霊力を掻き消した。先ほども美琴の霊力が自分の霊力に干渉して来たせいで、まともに自分の力を使えなかったのか。それを理解すると、もうどうすることもできなかった。
抵抗の術を奪われた花子は、怯えるような表情で美琴を見、その目を何もかも見透かすような紫色の瞳が見返す。そして美琴が振り上げた手が、花子の頬を打った。だがそれ以上の攻撃は加えられなかった。
「自分が悪いことしたのは、分かっているわね?」
諭すような口調で言われ、花子はびくびくしながらも美琴を見た。美琴は幾分か優しい顔になって、花子に言う。
「子供たちを返しなさい」
その声に観念したのか、それとも安心したのか、花子は素直に頷く。そして、再び境界を開いた。腕を掴まれているため、逃げることは叶わない。
境界から行方不明になっていた十二人の子供たちが吐き出された。皆一様に眠っている。
「これで、全員ね?」
「……うん」
花子は、叱られている子供のようにそう言った。暗闇の中、沈黙が続く。花子は再び美琴は見上げた。自分は悪いことをした。きっとこの人は許してくれないかもしれない。
だがその予想に反して、美琴の手が花子から離れた。
「反省したわね」
そう言って、美琴は刀を鞘に戻す。殺されるかもしれない思っていた花子は拍子抜けした表情で美琴を見る。彼女はそんな花子に向かって微笑んだ。先程までのように冷酷な笑いではなく、母を思わせる優しげな表情だった。
「どうしてこんなことをしたの?」
子に諭す母のような調子で美琴は問う。それに安心したのか、花子はぽつりぽつりと語りだした。
「友達が、欲しかったの。ずっと前から、私が話しかけても誰も答えてくれなくなった。でも、あるときから私に話しかけてくれる子たちがでてきたの。遊びましょうって。でも、その子たちは私が返事をすると逃げ出すだけで、私と遊んでくれる子は誰もいなかった。そのときぐらいに、私はいろんな学校へ行けることに気がついたの」
花子はかつてのことを思い出す。二十年以上の間、誰に相手にされることもなく、しかし自分に気付いてくれるものを求めて、全国の小学校を回っていたことを。その努力は、決して報われることはなかった。
「そうして学校を回っていたけど、私と一緒に遊んでくれる子はいなかった。日本のどこにも、私を必要としてくれる人はいなかったの。そうしているうちに、私に話しかけてくれる人はいなくなっていった。私はずっと、寂しかった。それでもずっと、そんな誰かを探していたら、私はものに触れるようになっていたの。そうしたら、ずっと私を無視していた子たちを私の世界へ連れて行けばいい、と思ったの。」
泣きそうな声で、花子はそう話し終えた。初めてこの人は自分とちゃんと話を聞いてくれた。ずっと昔、自分が死んでしまう前に誰かがくれた暖かさを思い出した。
美琴は静かに花子を抱き寄せると、その髪を撫でる。忘れていたその温もりに、花子の頬を滴が流れる。
二十年以上の間、自分を認めてくれるものを探し、さ迷っていた少女の霊。想像できないくらいに寂しかったことだろう。美琴はその哀れな幽霊を抱きしめながら、そう思う。
長い年月を経て彼女は妖怪化して肉体を持ち、自分で相手に干渉できるようになった。二十数年の空白は、彼女が人間に干渉できるようになるまでの期間だったのかもしれない。それまでの花子は、誰かに話しかけられるまで自分の存在を相手に伝えられなかった、噂が終息すれば、そんなことをする者は少なくなる。そうして肉体を持った彼女は、今までの寂しさを晴らすように、彼女は自分を呼び出そうとした小学生たちを攫っていったのだ。しかし、それは終わらせなければならない。
「分かったわ。でも、無関係な人間を巻き込んではいけないの。あなたはもう人間ではないけど、私たちのような仲間がいるのよ。だからもう、寂しがらなくてもいいからね」
美琴の腕の中、花子は安心したように号泣する。少女の泣き声が春の夜空に響く。二十年前、自分が彼女の霊を見つけることができれば、花子にこんな思いをさせることも、事件が起こることもなかった。しかしもう、彼女が人間に被害を与えることは無いはずだ。
「ごめんなさい……」
花子が絞り出すように言った。美琴は、優しく彼女の髪を撫でながら、呟く。
「もう良いのよ」
こうして二十年以上の時を経て、一つの事件は終焉を迎えた。
朝はいつも通りやってくる。
あの昨日の事件から一夜経ち、ニュースでは神隠しに遭った子供たちが帰って来たと大々的に報道された。全員、怪我もなく健康だという。
花子は自分の霊力を形のない‘空間‘というものに作用させ、境界を無理矢理開くことができるという特殊な能力を持った妖怪だった。霊磁場の乱れは、そんな強い霊力が空間に干渉したことが原因だ。普通、境界が開くのは異界と接している場所だけだ。境界自体を移動すればどんな異界へと移動することも可能だが、境界そのものに自由に接続し、空間を移動するというのはかなり珍しい。
花子はあの後、ともに黄泉国へと連れ帰った。この異界ならば、探せば住む場所はいくらでもある。それに彼女の仲間もたくさんいる。寂しい思いをすることは無いだろう。花子はもう妖怪化してしまったため、簡単にその魂が救われることはない。しかし友達が欲しかったという彼女の望みは叶えてあげられる。
美琴は縁側の上に腰掛け、庭で走り回る花子と、それに付き合う恒、小町の姿を見ていた。
「恒ちゃんは、あの子の魂を救いたいのかもしれませんね」
いつの間にか麦茶を持った良介が横に立っていた。美琴は湯呑を受け取り、茶を一口飲む。
恒が初めて会った霊のことは良介から聞いていた。恒はかつて、その霊の魂を救ったことがあるらしい。その際に霊感はそういった魂を救うことができる力だと、そう言われたのだと聞いている。
確かにそれは間違っていない。しかしそれを行うかどうかは個人の意思だ。霊感というものは人間界ではただでさえ疎まれる。そんな中で金銭的利益もない霊の救済など、余程のお人好しがやることなのかもしれない。
「そうね、恒はそういう子みたい」
自分も人のことは言えないか、と美琴は思う。自分たちのようなものが霊を救わなければ、彼らはずっとこの世をさ迷うことになる。そんなものたちの魂を救うことも、能力を持ったものの仕事だろう。
「美琴お姉ちゃんも一緒に遊ぼうよ!」
花子が美琴の方を向き、明るい声でそう言った。子供は無邪気だ。そう、こちらの悩みなど忘れさせるほどに。
「どうします?美琴様」
悪戯っぽい笑みで、良介が言う。美琴は微かに微笑むと、呟くように言った。
「たまには、こういうのも良いものね」
美琴は立ち上がると、花子たちの方に歩き出す。恒も小町も、楽しそうな顔で彼女を待っている。
屋敷の庭には心地よい春風が吹いており、朝の陽ざしが朝露に濡れる草たちを照らしている。いつもと変わらぬ、綺麗な景色だ。そんな庭を歩きながら美琴は思う。
魂を救うなど大層なことを考えるのは後で良い。今はただ、一人の子供の願いを叶えるために一緒に遊ぶことを楽しもう。そして一つ、花子に聞かせたい言葉がある。
ずっと一人の少女が望み、実現されることのなかったその言葉。それは幾年もの時を経て、この日にやっと叶えられる。
美琴は暖かに微笑んで、その言葉を紡いだ。
「花子さん、遊びましょう」
異形紹介
・トイレの花子さん
学校の三階のトイレの、三番目のドアを三回ノックし、「花子さん、遊びましょう」と言うと「はあい」という声がするという都市伝説。声だけで終わる場合と、赤いスカートを履いたおかっぱの少女が現れる場合とがある。また、姿を見せるにしろ見せないにしろトイレの中に引きずり込まれると続く場合もある。
彼女が幽霊となった経緯には諸説あり、変質者に殺された、虐待する母に殺された、いじめを苦に自殺した、戦時下、かくれんぼ中にトイレに隠れていたところ空襲で焼け死んだ、などがあるが、いずれもその死亡した場所が三階の三番目のトイレという共通点がある。
古くは1950年頃からある都市伝説だが、1980年頃に子供たちの間で大流行した。また、メディア作品にも多く登場し、子供の味方という設定も多く見られる。
三に関わるところに現れるというのは「口裂け女」に共通する特徴である。また、水場は怪現象の起きやすい場所とされるため、厠に現れる妖怪は古来より多く、古くは「加牟波理入道」や「かいなで」、現在では「赤マント」や「一寸婆」などがいるが、花子さんの場合は中国において厠の神とされる「紫姑神」がそのルーツではないかと言われることが多い。




