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黄泉夜譚 ヨモツヤタン  作者: 朝里 樹
第三一話 悪魔の戯れ
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四 悪魔が望むもの

 身長二メートル半の筋肉の塊のような鬼の姿となった三吉が、疱瘡婆(ほうそうばばあ)と激突する。そのまま三吉は疱瘡婆の体を掴み、上空へと投げ飛ばすが、疱瘡婆は空中で体を翻し、器用に木の枝に着地した。

 獣の咆哮を上げ、疱瘡婆は木から木へと飛び移る。三吉より一回り大きい、三メートル以上はある巨体には似合わない素早さに河郎が苛立たしげに声を漏らす。

「なんであれの名前に婆なんて付いてるんかね」

 河郎が掌の上に作り出して投げ付けた水の塊も疱瘡婆を外れ、掴んでいた大樹の枝を折るのみに終わった。そのまま下へと降りた疱瘡婆は猿のような動きで四足で大地を蹴り、走り来る。

「河郎、真っ直ぐ来る」

「分かってるって」

 河郎が三叉の槍を握る右腕を後ろに引き、疱瘡婆に向かって投擲する。だが疱瘡婆は自身に突き刺さる直前に片腕を上げてそれを掴み、嘲笑うように皺だらけの顔を歪めた。お前の攻撃など効かぬと、そう言いたいのだろう。

 しかしその直後槍から大量の水が放出され、疱瘡婆の体に降り掛かった。唐突な現象に疱瘡婆が怯む。あの水自体に相手を攻撃する力はないが、雪姫の氷の妖力と組み合わせれば話は別だった。

 その濡れた獣に向かって雪姫が鞭を振う。疱瘡婆は左に跳んで避けるが、疱瘡婆の体毛には河郎の妖力の混ざった水が吸収されている。

 雪姫の鞭の纏う氷の妖気が疱瘡婆の右腕に掠って河郎の水に反応し、直後に疱瘡婆の右腕が一瞬で凍結した。

 氷はそのまま全身へと広がって行く。その浸食を止めようと左手で氷を叩くが、今度はその左手が凍り付く。こうなっては為す術がない。流石の疱瘡婆も二人分の妖力を押し返すことはできぬだろう。数十秒の後には獣の姿を象った氷の像が出来上がっていた。

「引っ掛かってやんの」

 河郎は疱瘡婆が落とした槍を拾い、そう馬鹿にしたように言った。凍りついた獣は何も答えない。ただその体から上がる白い霧が夜に漂うだけだ。

「まだ死んでいないみたい。三吉、頼むわ」

 雪姫は疱瘡婆を見つめ、そう言った。妖気は未だ消える気配がない。ということは、氷の中で生命活動を続けているということだ。流石は百数十年の封印を耐えた妖怪と言うべきか。

「任せておけ」

 凍ったまま砕いてしまえば甦ることもできぬだろう。三吉は鼻を鳴らし、拳を振り上げる。しかしその直後氷の下で疱瘡婆の目が開いた。

 自ら己を覆う氷を破壊し、疱瘡婆は目前の三吉に向かって病の息を吐きかける。三吉は慌てて口を手で塞ぐが、直接体内に入れずとも疱瘡婆の妖気は体を蝕む。疱瘡婆は動きが鈍くなった三吉の体を掴み、後方へ投げ飛ばした。

 木を何本か薙ぎ倒し、三吉が地面に叩き付けられる。疱瘡婆はにやついたような表情を作り、残る雪姫、河郎に一歩ずつ迫って行く。

「ほんとに化け物だなこいつ……」

 少し引き気味にそう呟く河郎を、雪姫は流し眼で見る。

「このぐらいは普段から覚悟しておいて」

 疱瘡婆が再び息を吐こうと口を開くが、立ち上がった三吉が後ろから飛び掛かり、上下の顎を無理矢理に閉じさせた。疱瘡婆は腕を後ろに回して三吉を掴もうとするが、その左腕に雪姫の剃刀状の鞭が巻き付き、それを後ろに引くことで食い込んだ刃を回転させ、腕ごと切断する。それでも疱瘡婆は首を振って三吉を振り払うが、直後に河郎の槍が疱瘡婆の胸に突き刺さった。

「これでも死なんのかい……」

 そう呆れたように言葉を漏らした河郎を、疱瘡婆の右腕が直撃した。若いメドチは軽い人形のように弾き飛ばされ、岩に当って止まった。

 疱瘡婆の目の前に立つのは雪姫一人。雪野國の領主は氷のように冷たい視線で獣を睨む。自分の仲間をこれだけ良いようにされ、黙っている選択肢はない。

 切断された疱瘡婆の左腕の断面は凍り付いており、その再生は阻害される。それでも疱瘡婆は笑い声のような咆哮を上げ、怪我など無視して三本の足で春の真新しい草を蹴り、雪姫に迫る。

「お雪、やっちまえ!」

 倒れていた河郎が苦しげながらも立ち上がり、疱瘡婆の足元に水の塊を投げ付けた。彼の意図はすぐに分かった。幼馴染である河郎と、子供の頃に良くやった悪戯だ。雪姫は小さく笑い、微かな妖力を疱瘡婆の足元に向かって放つ。

 まだ妖力も碌になかった頃に編み出した技であるため、ほとんど妖気など出さずとも実行できる。それが逆に相手の反応を遅らせた。河郎の放った水が唐突に凍り付き、疱瘡婆の足を大地に張り付ける。全身を凍らせるならともかく、動きを止めるのなら河郎の力を借りればこれで十分だ。

 不意に動かなくなった両足を見て、疱瘡婆は怒りに吼える。その首に目掛けて雪姫は鞭を振った。

 疱瘡婆の太い頸部に剃刀状の鞭が食い込むみ、幾重かに巻き付く。疱瘡婆はこれから起こることを予期して一瞬恐怖に目の色を染めるが、その直後雪姫は鞭の柄を思い切り後ろに引いた。

 首に食い込んだ鞭の刃が回転する。それは毛皮を、肉を切り裂き、最終的に骨ごと切断して疱瘡婆の首を落とした。切断面を凍結させられた首が転がり、だらりと舌が垂れる。

「死肉を欲しいのなら、己の肉を食らえば良い」

 雪姫は吐き捨てるように言った。疱瘡婆の首と体は、切断された傷から次第に凍り付いて行く。もう甦ることはないだろう。

「相変らずえっぐいなぁ」

 苦笑しながら河郎が歩いて来る。口の端から血を流しているが、軽口を叩ける余裕があるのだから元気なのだろう。その安堵を表情には出さず、雪姫は横目で彼を睨んだ。

「三吉のあんちゃんは大丈夫か?こっぴどくやられてたけど」

「あんなもんでやられる俺じゃないわい」

 木の根元に寄り掛かっていた三吉が河郎にそう言って口元を緩ませた。どうやらこれで今宵の仕事は終わりのようだ。雪姫は鞭を縮ませ、元の短剣のような形に戻す。

「私たちが無事に済んだのだから、他の方々も大丈夫でしょう。日が昇らないうちに帰る」

「人間に見られたら厄介だもんな」

 河郎は両手を頭の後ろに付け、能天気な声でそう言った。三吉が体を起こし、二人の側に歩いて来る。

 空は青みを増し、もうすぐ太陽が顔を出そうとしている。




 八束脛(やつかはぎ)が美琴を踏み潰そうと足を振り下ろすが、美琴は前に走って逃れる。ただ巨大なだけではなく、手足に金属製の鎧のようなものを付けているせいでただ手足を振り回すだけの攻撃が馬鹿にならない。

 朱音が跳び上がり、八束脛の頭部に向かって髪を伸ばす。しかし巨人はその髪を束にして掴み、逆に投げ飛ばした。朱音の体が宙を舞い、切り立った岩肌に激突する。

 八束脛は続く良介の炎を纏った蹴りを逆の手で防ぎ、そのまま叩き落とした。

「意外と速いですな」

 体に付着した砂と土を払いながら良介が言う。八束脛は血走った目をこちらに向けている。

「寝起きの割に元気ね」

 八束脛が自身の封印されていた岩山からむしり取るようにして掌大の岩を掴み取り、美琴らに向かって投げ飛ばした。だが美琴の薙いだ太刀から発生した斬撃が真っ二つに切り裂き、そのまま八束脛へと向かう。八束脛は鎧を纏った腕を振るい、その斬撃を叩き壊した。姿だけは人間と変わらぬ巨人の口から、野太い咆哮が上がる。

「良い加減にしてください!」

 先程八束脛に吹き飛ばされ、岩肌へと減り込まされた朱音が、髪で岩を砕いて再び現れた。その瞳は赤く光り、髪からは液体状の赤い妖力が滴っている。

 朱音が全ての髪を一つの束にまとめ、巨大な槍として八束脛へ伸ばす。八束脛はそれを防ごうと右腕を上げるが、高速で放たれた髪の槍は金属の鎧を打ち砕き、そのまま腕を貫通して大穴を空けた。

 悲鳴のような吼え声を上げ、右腕を振り回す八束脛。その頭部のすぐ左側に、今度は良介が現れる。

 八束脛は良介を睨み、まだ傷を負っていない左腕を叩き付けようとする。しかし青い炎を纏って妖怪、火車の姿へと戻った良介が迫る左腕を全力で蹴り上げた。

 炎の熱で真っ赤に変色し、溶けかけた金属がぼろぼろと崩れ落ちる。その炎は肉まで焦がす。八束脛は両腕の激痛に唾液を撒き散らし、叫喚が夜に(こだま)する。その巨大な妖目掛けて大地を強く蹴った美琴は、八束脛の頭の目の前で太刀を振り上げた。

 巨人の目が死神を捉える。直後、美琴は落下の速度を乗せて太刀を振り下ろした。紫色の妖力が闇夜に直線の軌道を作り、刃が八束脛を切り裂く。

 八束脛の動きが止まった。美琴が地へと降りた一瞬の後、八束脛の巨体が倒れ込み、死神は太刀を鞘に収める。

「夜が明けますね」

 髪を元の長さまで縮めた朱音が言う。見れば、山の向こうから次第に光を増す空が見える。朝が到来しようとしている。

「妖たちの時間はもう終わり。これからは人の時間ね」

 美琴は言って紫色の瞳を黒に戻した。夜明けは妖と人の時間の境界。ここから先妖が我が物顔で人の世を闊歩するのは出過ぎた行為だ。

 美琴は陽光に背を向けて歩き出す。良介と朱音がそれに続く。




「なんだこの出っ歯野郎!」

 唐突に急降下して来たジャバウォックが鬼童丸に向かって鞭のように尾を振り抜くも、それは鬼童丸の逆手に握られた刀によって叩き斬られ、血を撒きながら地面に落ちる。青い体液を滴らせながら、金属が軋むような呻き声とともにジャバウォックは口から炎を吐き出す。だがその炎も前に出た清姫により片腕で払われた。オレンジ色の炎が散り散りになり、空気中に消える。

「面倒だから、さっさと終わらせましょう」

 その言葉と共に若い女の姿をしていた清姫が変化する。肌は赤みを帯びた鱗に覆われ、目尻と口の端が裂ける。真っ赤な唇の内に鋭い牙が覗き、着物の裾からは蛇体となった半身が現れる。妖としての清姫の姿。その喉が緑色の光を帯び、その光は緑色の炎として放射される。

 清姫の口から放たれた炎はジャバウォックの右翼を焼き焦がし、その機能を失わせた。だが、バランスを崩しながらも落下と共にジャバウォックは二人の清姫の後ろにいる茨木童子へと襲い掛かる。

「邪魔だ」

 茨木はそう言い捨てると、二本の刀を構えた。魚のような顔をした人食いの竜は、長い首を伸ばして顎を上下に開き、鬼を丸呑みにしようと迫る。その牙を潜り抜け、茨木はジャバウォックの首に二本の刃を交差させた。

 青い鮮血を飛び散らし、竜の首が地に落ちる。茨木はジャバウォックの妖力が消えて行くのを感じつつ、悪魔と対峙する朱雀門の鬼の方へ目を向ける。傀儡(くぐつ)を使役する二人の異形は、どちらもまだ傷を負っていない。




「invidia,Schneewittchen」

 ラテン語で嫉妬、ドイツ語で『白雪姫』を表す言葉がメフィストフェレスから発され、その右手に持ったカードは真っ赤に焼けた鉄の靴を履き、全てを怨むような眼差しの女へと変化する。

 女は長い紐のようなものを取り出すと、鬼に向かって投げた。それはまるで生きているように、竹筒を取り出した鬼の両腕ごと腰へと縛り尽き、その身を拘束する。

「栓を開けられない貴方など恐くは無い」

 メフィストは鼻で笑い、ステッキを回しながら鬼へと近付いて行く。

「良いですか?貴方達が何故私の行動を否定するのかは分かりかねますが、私は常に否定するところの霊であり、皆が罪だとか破壊だとか、要するに悪と呼んでおられるもの、すべて私の本来の領分なのです。それも当然のことです。なぜといって、一切の生じ来るものは、滅びるだけの値打ちのものですから。それはこの国も、この国に生じた貴方達も勿論のことであり、貴方達が私に壊されるのもまた、この世の道理」

 そう悪魔は機嫌良くうすら笑いを浮かべるが、逆に朱雀門の鬼が不敵な笑みを浮かべるのを見て、表情が不愉快げに変わる。

「何がおかしいのです?」

「貴様は、私にだけ注意を向け過ぎた」

 殺気を感じてメフィストが振り返る。そこにいるのは頭から布を被った新たな鬼。妖気を消して近付いていたらしいと気付いた時には、その鬼は気味の悪い笑顔を浮かべ、右手に掴んだ大きな百足を悪魔の脇腹に押し付けていた。

 メフィストはステッキを横に薙いでがごぜの腹を打つ。その間にも百足はメフィストの体表を這ってから、まるで穴を掘るように顎でその肉体に噛み付き、体内へと侵入して行く。

 ぐふうと空気が漏れたような声を出してがごぜが後ろ向きに飛び、何度か転がる。だが何とかと言った様子で起き上がり、口の端から血を流しながらもにやりと笑んだ。

「恐らく普通に憑かせようとしても無理だと思ったでな、お前の体に直接蟲毒を叩き込んでやったわい。そら、そろそろ効果が出るぞ」

「何をふざけたことを……!」

 赤黒い沼から巨大な手を作り出そうとしていたメフィストの表情が一瞬固まった。体内を蟲が蠢く感覚と共に、内臓が食い荒らされているのが分かる。それは凄まじい速さで肉を食い、消化し、さらに毒まで分泌している。

 日本の妖怪を多少侮っていたようだ。悪魔は憤怒に顔を歪ませながら自らの体内に腕を突っ込むと、血肉と共に先程の百足が巣食う内臓を引き摺り出し、そして蟲ごとそれを握り潰した。

 取り合えず体を内側から食い尽される危機は脱したが、毒はまだ回っている。体力の消耗が激しい。悪魔はこの状態で五体の妖を相手にするのは無謀だと判断した。

 朱雀門の鬼を縛る白雪姫のメルヘンカルタをカードに戻し、後ろから迫るがごぜを作り出した巨大な腕で一蹴して赤黒い妖力の沼に自らの体を沈めようと試みる。だが、毒による体の痺れで妖力を上手く扱えない。

 そして、そのメフィストに迫るは二本の刀を構える鬼の姿。ジャバウォックを切り裂いた打刀(うちがたな)のさっ先が悪魔に向けられる。

「貴様の戯れに殺される程、俺たちは弱くは無い」

 振るわれた二本の打刀は、異国の悪魔を三つに分断した。足、胴、首に分かれた悪魔の体が妖力の沼に落ち、沈み行く。やがて沼は中心に向かって萎むようにして消えて行った。

「妖力ないとこういうとき便利だよな」

「何を!?これは妖気を完全に隠すという高等な技術でな……」

 鬼童丸とがごぜが言い争いながら茨木の方へ近付いて来る。鬼童丸がふと立ち止まり、悪魔の残したシルクハットを見て茨木に尋ねた。

「殺した?」

「いや、死んではおらんだろうな。妖気は消えていなかった。しぶとい奴だ」

 茨木は刀を左右の鞘に納め、言う。

「だが、当分はまともに動くこともできんだろう。予想外のことで時間を食った。急ぐぞ」

 鬼たちの目的は異国の悪魔を倒すことでは勿論ない。千年の間に、各々が各々の目的を持ち、それに向かって強くなった。異国の悪魔にそれを阻止されるような生半可な覚悟は持ってはいない。

 言葉も少なに、茨木童子率いる妖たちは異界を再び歩き始める。




 荒い息を吐きながら、悪魔は人の世界を歩いている。体の再生に残された妖力をほとんど使ってしまったせいで、今は何もできない。ならば異形と出くわす可能性が高い異界よりも異形の存在さえ知られてはいない人間界の方が安全だと判断したのだ。

 道行く人々は、その奇妙な風体の異国の男を奇異な目で見ても誰も話し掛けようとはしなかった。その方が今はありがたいが、同時に口惜しくもあった。普段ならばそんな人間がいれば良い玩具になるのに。

 やがて人気(ひとけ)のない路地に入り、メフィストは立ち止る。苦々しげに歯を噛み締め、後ろに現れた異形に向かって言葉を放つ。

「何か用ですかな?この国の神」

「あれ程のことをしておいて、用がないとでも思いましたか?異国の悪魔よ」

 天宇受賣命(あまのうずめのみこと)の声に、メフィストフェレスは振り返る。

「貴方の目論みは妖たちによって阻止されました。そして、貴方自身も」

「ええ、私もこの国の魔物たちを、少し侮っていたようですね」

 メフィストフェレスはステッキで支えていた体を、ビルの壁にもたれかかせた。そして天宇受賣命に目を向ける。

「それに私はねぇ、神と呼ばれるものが大嫌いなのですよ。まるで自分たちの創造に価値があると疑わないものたちが」

 悪魔は鋭い目で神を睨む。

「この世は創っては壊し、創っては壊す堂々巡りの繰り返し。貴方達神が創ったと豪語する世界は、破壊無しには存在し得ない。にも関わらず神は賛美を求め、支配者の顔をする。その矛盾が醜く、また小賢しい」

 苦しげに息を吐きながらも、悪魔は掠れた笑い声を上げる。

「それは(いにしえ)のこと。今のこの地を創るのは地の民たち。我々は関与せぬことです」

「ならば、私がこの地で何をしようとも神である貴方達には関係がない」

 悪魔は言い、神は頷く。

「そうなるでしょうね。だから私は貴方に直接手を下すことはしない。今の貴方ならば簡単にその命を奪うこともできましょうが」

「それを、後悔せねば良いですがね」

 メフィストはステッキの先で一度アスファルトを叩き、そう天宇受賣命に言葉を投げる。その悪魔に対し、天宇受賣命は強い語気で言葉を返す。

「この国を幾度狙おうとも、地の妖たちが貴方のことを許すことは無いでしょう。覚悟しておきなさい」

「楽しみですねぇ」

 悪魔は邪悪な笑みを浮かべ、再び神に背を向けた。その背に天宇受賣命は語りかける。

「異国の悪魔よ、貴方は何を望むのです」

 その言葉にメフィストフェレスは一度だけ立ち止まる。

「永遠の虚無を」

 そして悪魔はそう、振り返ることもなく答えた。



異形紹介


三目八面(みつめやづら)

 名前には三目八面(さんめやづら)三目八面(みつめはちめん)三目八面(みめやづら)など様々な読みを与えられている。

 四国地方高知県に現れたという妖怪で、申山(さるやま)という山に住み、通行人を襲って食らっていたと伝えられている。その姿は三つの目と八つの顔を持つ怪物ということ以外は分かっておらず、村上健司氏が同じく高知県に伝承される八つの頭の大蛇・八面頬やつらおとの関連性を指摘しているぐらいである。

 申山を拠点に暴れ回ったが、土佐山の豪族・水野若狭守みずのわかさのかみの弟である注連太夫しめだゆうという者がこの妖怪の話を聞きつけ、山鎮めの御幣を立て、申山に火を放ったために三目八面は炎の中で暴れに暴れまくり、その末に焼け死んでしまったという。このとき山は焼けたが、注連太夫が立てた御幣だけは残っていた。その死体は隣村へ跨る程の大きさであったとされている。



・イデモチ

 九州地方熊本県球磨郡に伝わる妖怪。さかま淵と呼ばれる淵の主であり、その名は球磨郡で「淵の王」を意味するという。淵の底には障子が立ててあり、その中に住んでいるとも伝えられる。

 腹部には吸盤があり、それで人間を捕まえてその命を奪うと伝えられるが、それ以上の外見上の特徴は分かっていない。魚の中には腹部に吸盤を持ったものがいるため、その妖怪とも考えられる。



・ジャバウォック

 イギリスの児童文学作家、ルイス・キャロルの『鏡の国のアリス』という作品中において語られる、『ジャバウォックの詩』の中に現れる怪物。作中でのその姿は「The jaws that bite, the claws that catch(食らいつくその顎、かきむしるその爪)」「The Jabberwock, with eyes of flame(らんらんたる眼〈まなこ〉燃やしたる)」とあり、性格は「manxome(=ひとごろしき)」と形容されている。その動向については「Came whiffling through the tulgey wood(おぐらてしき森の奥より、ひょうひょうと風切り飛びきたり)」「He took his vorpal sword in hand(けしにぐの剣〈つるぎ〉、手に取りて)」「He left it dead, and with its head(横たわる死体より、刎ねたる首をば小脇にかかえ)」と語られ、全体がどのような姿をしているのかは不明だが、挿絵を寄せたジョン・テニエルは細長いドラゴンのような姿でジャバウォックを描いている。

 その姿は魚のような頭部に、額と顎にはそれぞれ二本の触覚状のものが生え、口には鋭い門歯が確認できる。首は細長く、体は爬虫類の鱗に覆われ、手足にそれぞれ鋭い爪と、蝙蝠のような翼を持つというものである。

 そのため、ジャバウォックを扱う作品ではドラゴンの一種とされることが多く、この怪物を主役にしたイギリスの映画『ジャバウォッキー』(原題『Jabberwocky』1977年)や『不思議の国のアリス』、『鏡の国のアリス』を原作とした『アリス・イン・ワンダーランド』(原題『Alice in Wonderland』2010年)ではテニエルの絵を元にしたジャバウォック(劇中ではどちらもジャバウォッキーと呼称)が登場した。

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