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あすちるべ  作者: 瑞雨
初恋
10/30

松田の御隠居様(後)



あれから、慶二はすぐに松田家へと向かった。そして、父の伍助に華雲を見受けしたいと告げた。勿論伍助は怒涛した。そして、口論の末、金はやるから出ていけと言われた。花魁でもなんでも、好きにするが良いと。慶二は最後まで自分を見てくれなかった父を好きにはなれなかった。だが、自分を育ててくれたことに対しては感謝している。背をむける父にありがとう、と呟くと頭を下げた。

 


そしてすぐに菊乃屋に向かい、華雲を身請けする準備をした。島田の旦那は松田家が取引する先の一つで、松田が島田を支えていると言っても過言ではない。松田の名に逆らうことはできなかった。松田の名はそれだけ大きなものなのだ。慶二は松田の名を使うことを嫌ったが、この時ばかりは大いに活用した。



それからトントン拍子に事は進み、華雲は慶二とともに、大きな門をくぐったのである。





「そういやぁ、華雲」

「なぁに?」

「お前……」

立ち止まって真剣な顔をする慶二に華雲は不安な顔を作った。



「お前……本間の名前何て言うんや?」



慶二の言葉に華雲は、キョトーンと目を開くと、腹を抱えて笑った。


「何をっ、言い出すんか、とっ、思ったら………!!あはは!!今更名前が何かやって……っ!!あははは!!」

「な、なんや!名前は大事なんやで!!」


華雲があまりに笑うものだから慶二は腕を振り上げ、顔を真っ赤にした。


「いつまで笑っとんねん……!!」

「はははっ、ふふ、お鈴や。お鈴。それがうちの本間の名前や」

「お鈴……えぇ名前やな!!」


八重歯を出して、にかっと笑うと、慶二はお鈴の手をとって歩き出した。






「おじい様とお鈴さんは、それからどうなさったの?」

「お小夜、さっきと同じこと聞いとるで」

ははは、とご隠居は笑った。




それからなぁ……、お鈴のおっかさんの所に行ったんや。

まぁ、残念なことにおっかさんはすぐ死んでしもたけどな、お鈴は死に目を見れて良かったって言ってくれたんや。

それからしばらくして娘が生まれた。


それでな、どうしたと思う?


松田家にお鈴と娘連れて帰ったんや。嫌いや思てんけどな、やっばり自分の父親やから。どうしても離れることなんかできひん。向こうもな、素っ気ないながらも受け入れてくれたわ。一人息子やったから、厳しい育てよう思った矢先に妻が死んでもて、どうしたらえぇか分からんなったんやろな…。そら不器用な人やったさかい母親役なんかでけへんしなぁ。もうとっくに父親は死んだけど、ちゃぁんと仲直りはしたで。あんなんかて孫娘は可愛いみたいや。あんなに無愛想な顔やったのにかよ見た途端にでれぇ~って顔してなぁ、ははは。ほんのちょっとの里帰りやったはずやのに『孫おいてけ』とか言うからそら困ったわ。でまぁ、それからいろいろあって江戸に来たわけや。



「ふぅん。おじい様は幸せ者ね。だってとっても素敵なお嫁さん貰って、とっても素敵な娘を授かったんですもの」

「あぁ、そうやな。それで、とっても素敵な孫ももらったっちゅうわけや」



    な、お小夜



そう言って、松田のご隠居様はお小夜の頭に優しく手を載せた。お小夜はにっこりと笑って、その手の上に自分の手を重ねた。


「ふふふ、おじい様大好き」

「じいちゃんもや。ほら、もう帰りぃ。今日は左助と会うんちゃうんか」

「うん!!おじい様、今度はお小夜の左助さんのお話聞いてね!!さよなら!」





お鈴……お鈴に出会えて本間に幸せやった。わしらの孫は、幸せな恋をしとるみたいや。わしはお小夜の話をようさん聞かなあかんからまだまだそっちに行けそうにないわ。もう少し待っとってな。そっちに行ったら山ほど時間はあるから、全部の時間をお鈴にやるさかい。やから、今ここでの時間はお小夜にあげてもええやろ?そっちに行くまで一人で寂しいやろうけど、待っとってな。




    お鈴、一緒になってくれてありがとうな


松田の御隠居様は関西出身ですが、娘が生まれ、江戸にうつり、娘は江戸で育ったため、江戸の言葉を喋ります。そのためその娘であるお小夜も江戸の言葉です。

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