ホラ穴事件 ―残業帰りのサラリーマンが遭遇した、足の生えた地蔵の怪― 2話
翌朝、ちょっと早起きをして会社へ向かう。
朝6時、軽めの朝食をとって準備万端だ。
昨日のことは忘れよう。何かの間違いだったのだ。
駅へ向かう道を歩いていると……
あれだ。あの足跡だ。昨日見た地蔵の足跡がしっかりと地面に刻み込まれていた。
穴のようなものが転々と駅へ向かう道すがらに残っていた。
「いったいなんだていうんだ」
◇
コンペは大成功だった。
おそらくうちの会社が仕事を受注できるだろう手ごたえがあった。
コンペのメンバーと何人かを合わせてささやかな宴会をすることになった。
帰りの時間は22時だ。
少しだけ酔って気分がよかった。
しかし、その気分の良さに冷や水が浴びせられることとなったのだ。
ゴウンゴウン……
「またあいつか!ちくしょう!いい気分だったのに!」
なんだかムシャクシャしていた。
今日は回り道しないで真っすぐ帰路を歩いてやる!
そう心に決めたのだった。
オーホーオーホー
声が聞こえる。
地蔵の歩みはゆっくりだった。
地蔵、地蔵か。笠地蔵の話は知っている。
何か声をかけてみようか。
「おい!お前!道に穴をあけるな!迷惑だろ!」
オーホーオーホー
「聞いてんのかこの野郎!」
オーホー……
「聞いてんのかって言ってんだよ!!」
オー……
「おぎゃあ!おぎゃあ!」
「赤ちゃんの声を出したって許さないからな!」
ポロリ……ポロリ……
「涙を流したって!!」
地蔵は言葉を持っていなかった。
「くそう!オレが悪者みたいじゃないか……」
ふと思った。どうせなら善行を積みたい。いいことをしてやろう。
「おい!お前!寺の位置を教えてやるからそこに行けよ!」
スマホで近場の寺を調べて画面を地蔵に見せてやる。
オーホー……
こくりと地蔵が頷いた。ように見えた。
◇
後日聞いた話では、近所で亡くなった赤ちゃんの霊を供養するために
お地蔵さまが手助けしてくれた。と言うことになっていた。
与太話に落ちをつけるのが得意な奴もいたもんだな。
その事件の名はホラーな穴事件、略してホラ穴事件と呼ばれた。
穴は春まで残っていた。もう増えることはないだろうが。




