ホラ穴事件 ―残業帰りのサラリーマンが遭遇した、足の生えた地蔵の怪― 1話
道に穴が開いていた。
地盤沈下だろうか?
何の変哲もない裏路地
転々とこぶしだいの穴が真っすぐ開いていた。
まるで足跡のように。
これはまだ誰も知らない非存在の話。
◇
ゴトウダ。男性。32歳。
未婚。サラリーマンとして5年目だ。
「この仕事は明日までに終わらせたいんだ」
そう言って今日は珍しく残業をしていた。
最近の世の中ではいわゆるサービス残業と言う旧世紀の概念が
遺物とされていて早く家に帰るのが出来るサラリーマンだとされていた。
ゴトウダもいつもそうしている。
しかし、明日はコンペティションだった。
仕事に追われ、しっかりと給与をもらって残業をするのだ。
だれに何を言われるまでもない。
正当な仕事と対価だ。
コンペに受かりさえすれば、だが。
「明日のコンペに通らなかったらここ3か月の仕事が無意味になる」
仄かに燃やした闘志を隠して資料を作成していくのだった。
◇
「ふう。一服一服と」
ゴトウダは一休みしてコーヒーを飲んでいた。
「この後は……プレゼンの確認をしなくちゃなあ。誰か残っているだろうか?」
居残っていたメンバーを3人ほど集めてプレゼンの確認をした。
「いいんじゃないかな?」
「コンペ!頑張ってね!」
「俺たちの30分を無駄にするなよ!」
準備は万端だ。
22時、家に帰って明日のコンペに備えよう。
ガタンゴトンガタンゴトン
電車で最寄り駅まで30分。我が家は割と都心に近いと思う。
都心部は何かと便利だ。何でも手に入るしイベントも多くある。
そんな都心部に住んでいることを少しだけ誇らしく思っていた。
そして帰路につくその道すがら……出会ってしまったのだ。
ゴウンゴウン、ゴロゴロゴロゴロ
何の音だ?
何気なく家の近くの裏路地を歩いていると、不思議な音がした。
工事でもしているのか?こんな時間に?まさか。
その後ゴトウダは目にすることとなった。
地蔵に足が生えている……?
目の錯覚かと思った。
目の前には田舎にいたころによく見たお地蔵様が足を生やして
歩いていた。足跡を残しながら。
オーホーオーホー
地蔵が近づくと何かをささやいているのが聞こえてきた。
逃げるべきか?そうだ。少し遠回りして帰ろう。
ゴトウダは逃げた。




