ドッペルゲンガー~ミコト教授の増殖、そして非存在が終わる日
「あら?これは…?ケースログ32?こんなもの存在するはずが……」
ミコトは助手が整理してくれた資料の山を読み直していた。
するとそこには、見覚えのない書類が紛れ込んでいた。
「前教授……先生の物かしら?」
疑問に思いながら中身を読んでいく。
内容は確かにミコトが非存在を確定させて挑んでいくというものだった。
その中で際立った描写がある。
超能力者の出現。
そして世界の崩壊。
発達しすぎた人間の異能を社会が支えきれなくなるという事件だ。
「ははは。まるで与太話、ね。世界規模の非現実事件だなんて。
常に非現実とは地域に根付いたローカルなものだと思うのだけど」
世界を変えてしまうほどの非存在、か。
そんなものから今の常識を護って生きていけるのだろうか?
「これを書いた私を見つけないといけないわね」
◇
「助手くん頼んだわよ」
「はい。わかってますよ。写真を撮ればいいんですよね」
「ええ!そうよ!手振れしても構わないでとり続けて」
約30枚の写真を撮影して検証する。
「北、かしらね」
「こんな残像が非存在の手掛かりになるんですか?」
「ええ、なるわ。本体である私を基点して存在している限り、ね」
ミコトとタツは北の小大陸へと非存在観測の旅に出るのだった。
「駅弁は確保したかしら?旅行を楽しむ心の余裕を持つことも非存在には有効よ!」
◇
大昔は宿場町として栄えたとある街につく。
「ここね!ダウジングの針もここだと言っているわ!」
電車を降りて駅から出た。
突然、老婆に話しかけられた。
「ミコト様。先日はありがとうございます。お礼も言えませんで……」
「そのミコト教授について詳しく教えて頂けますか?」
「え、ええ?」
ミコトは事情を説明する。
ドッペルゲンガー。私と瓜二つの偽物が出回っているという話をした。
「そうなんですか?分身の人は私たちが困っていた問題を解決してくれたのに……」
「私にとっては、仕事を奪われた気分です」
「はあ……」
老婆はそうなんですか。と繰り返した。
「お話ありがとうございます。コーヒー代はこちらが持ちますよ」
「ありがとうねえ」
◇
「決まったわね。近くにいるわ」
ピピピピピと電話が鳴る。
「はい。非存在観測部隊ナンバーワン、ミコトです」
「ミコト教授!先日は助かりました。今回はお礼の電話です」
「ははあ?」
「貴方のおかげで危機を未然に防げました。謝礼は必ずします。後日伺いますね」
ピピピピピ
「ありがとうミコト教授!おかげで明日の試合に出られるよ!」
ピピピピピ
「ミコト教授ですね!娘が大変お世話になりました!」
ピピピピピピピ……
電話が鳴りやまなかった。
全て事件が解決したというお礼の電話だった。
場所もバラバラ、時間もバラバラで整理がつかなかった。
「非存在を丸ごと否定する非存在が発生している……」
「いいことじゃないですか。犠牲者が減って」
「今はいいわ。でもこれが誰にも観測されていない非存在も消し始めたとしたら?」
「先生、失業しちゃいますね」
「これは……もう手に負えないわ。仕方がない。アレは使いたくなかったのだけど」
ミコトは一本の電話をかけた。
「決戦術式、国民投票を使うわ、承認して」
「承認」
◇
「審判。非存在を犠牲者が出る前に消し去る非存在対、
非存在を2割の犠牲者を出しながら撃退してまわる人間」
アナタはどちらの方が生き残るべきだと考えるか?
約一億人に問うアンケート用紙の発行
公表はテレビと新聞が協力して行われ、投票はスマホで行われる。
この国を支える人々の理性を利用した大儀式術式。
祭壇はこの国そのものだ。
結果は果たして……
「くっ人間である私よりも、不気味な非存在を見えなくしてくれる機構を選ぶだなんて……
忸怩たる思いだわ。でも、結果は結果かしら。私はこの世界に必要なかったんだ」
キラキラと指先が溶けていく。
「あとは任せなさい」
そうどこかから聞こえた気がした。
非存在による犠牲者がが存在しない10割の世界は実現したのだ。
「夢がかなったじゃない……泣くなよミコト」
もう顔がどこにあるのかもわからない。手で涙を拭うことすらできなかった。
「でも、非存在を追いかける日々……すこしだけ、楽しかったな」
サッー!
砂でできた城が風に吹かれて解けていくかのように、ミコトは消え去った。
研究室にコーヒー牛乳と白衣だけを残して。
ミコト教授のケースログ。これにて完です。
約一週間、追いかけてくださった方。ありがとうございます。
ミコト教授は消え去りましたが、ドッペルゲンガーは元気に非存在を撃退し続けています。
世界のどこかで、ね。
評価とブックマークをお願いします。
作者は充電期間に入ります。
評価が多かったら2部の構想も?
全ては観測次第です。
改めまして、ありがとうございました。




