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魔物領のはしっこで、飯屋はじめます  作者: もちのき


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18/19

森のかまど計画と一つの牙

 このあたりに行商人が回ってくるのは、早くて十日おき。村長はそう言っていた。


 だから、荷車のきしむ音を聞いたとき、最初は別の商人だと思っていた。


 テントの前で鍋をかき回していると、森の小道の向こうから、見覚えのある荷馬車が現れた。


「これは、森の料理人殿」


 がらりと布が揺れ、見慣れた外套姿が降りてくる。ライナーだ。


「……早いですね。ここを出たの、三日前ですよね」


「三日もあれば、ひと仕事には足りるものでして」


 軽い言い回しとは裏腹に、荷台の土埃を見る限り、この三日間ずっと走り回っていたのは間違いなさそうだった。


「城下まで行ってこられたんですか」


「いえ、途中までで失礼いたしました」


 ライナーは手綱を結びながら、短く答える。


「街道で顔なじみの連中と会いましてね。森猪の牙を一本、試しにお見せしたんです」


 そこで言葉を切り、ちらりとこちらを見る。


「少し話をしてみましたら、いったん戻ってきたほうが得だなと分かりまして」


 何がどう得なのか、それは言わずにライナーは人好きのする柔らかい笑みを浮かべた。


 多分、森猪の骨と牙の値が、思っていたより動いているのだろう。前に村長と話していた「安く買い叩かれていた頃」とは、もう状況が違うのだと、なんとなく察しがついた。


「村長さんたちとは、うまくやってるんですか?」


「ええ、話は通しました。骨と牙の扱いとかその他諸々について。これで少しは暮らしやすくなるんじゃないでしょうか」


 ライナーはご機嫌な笑みを浮かべる。


「森の料理人殿にも、少しはお役に立てそうなものを持ってきたつもりなんですよ」


 そう言って、ライナーは荷台の後ろをぽん、と叩いた。


 布をめくると、中には赤茶けた塊がいくつも積まれている。四角く整えられた焼き固めた土。


「レンガ……ですか」


「そうですね」


 素っ気ない言い方のわりに、どこか得意げだ。


「倉に余っていたものを、森猪の牙と、少々の品物とで替えてきました。重いのが難点ですけど、火のそばで使えそうでしょう?」


「使えそうどころか、ありがたすぎますよ。ちゃんとしたかまど、作れそうだ」


 喉の奥がひとりでに鳴った。パンや、ピザを焼いたり、考えただけで胸が踊る。頭の中で、やれることが一気に増えた。


「こちらの粉も、どうぞ」


 ライナーは別の樽の蓋を軽く叩いた。ふわりと、小麦の匂いが漂う。


「近くの街で売れ残っていた粗挽きでしてね。骨と牙のお話をしたついでに、少し分けてもらいました」


「わざわざ、ここまで運んできてくれたんですか」


「早いうちがよろしいかと思いまして。これについては私の好意なのでお代はいりません。前言った通り、ユウさんとは仲良くしていたいので」


 どこまで本音なのかは分からない。ただ、荷物の選び方に無駄がなく、ユウのことを考えていることは確かだった。森で価値の出るもの、ここでしか作れないもの、そのあたりをもう計算に入れて動いているのだろう。


「レンガと粉、好きにお使いください」


 ライナーはそう言って、荷台からレンガを一つ抱えてみせる。


「美味いものができれば、森の連中も、村の方々も、少しは楽になりますしね。そのついでに、私も少々儲けさせていただければ」


 口調は軽いが、目は笑っていない。やり手の商人という感じがする。親切に見せかけて、実利をちゃんと考えているのだろう。


「じゃあ、ありがたく。ちゃんと形にしてみせます」


「お願いします」


 ライナーは頷き、シロの頭を一度だけ撫でると、用事があるのでと言い残し、すぐに去っていった。

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