ホワイトトライアングル
「んなっ! どうしてだよ?! おい水野! このパンツお前ので間違いないんだよなぁ?!」
「間違いないよ! 大事なジンクスパンツだもん! 間違える筈ないよ! もうっ! 何で……どうしてぇ……」
水野は益々顔を赤くしてそれは自分のパンツだと大声で主張したが、どうして良いか分からないこの状況に、何故……と声をしぼませてくしゃくしゃのプリントで顔を隠してしまう。
「私達には触れない……でも水野さんには触れる。おそらく彼女のパンツで間違いないんじゃないかしら」
そう言った蓮宮に、俺も触れるんだけどなぁと思ったけど黙っとく。
「さっきは助けを求める為に水野さんの元へ飛んだのでしょうけど、でも、持ち主の元に戻るのは拒んでいる様ね」
「そんな……どうして……」
俺が聞きたい……。
「何か気に入らない事したんじゃないのか? 何日も洗濯しなかったとか、干し方が雑だったとかさー」
原田がまたどうしようもない事を言ってやがる……と思ったが、もう自分の常識で考えるのはやめた方が良さそうだ。もしかしたら本当にそんな可能性があるのかも知れないと考え直して水野の言葉を待つが、答えはノーだった。
「ちゃんと毎日洗濯してるよ! 柔軟剤も使うし! 干す時もウエスト部分を上にして洗濯バサミ三個使ってる! それも跡が残らない様に丸型の洗濯バサミだよ!」
「おお~、凄いな、パンツ一枚に洗濯バサミ三個かよ。じゃあ何が気に食わないんだろうなぁ?」
学校の渡り廊下で、男女四人がう~んと頭を悩ませる。何やら青春の一ページっぽいが、議題は何故水野鈴音のパンツは家出をしたのか、だ。
「埒が明かない」
ジャキッ!
突然、蓮宮がとりあえず収めていた裁ちバサミを鳴らす。俺も驚いたが、それ以上に水野が素早く反応した。
「やめてっ! お願い蓮宮さん! 何とかするから切ったりしないで! 本当に大事なジンクスパンツなの! お願い!」
言いながら俺に抱き付く様な形になってしまうのは、俺の胸ポケットにあるパンツを守る為であって……。
「離れて水野さん……。ヒデ君スメルの良さを知ってるのは私だけで良い……」
などと、怖い顔で蓮宮が言うような理由では決してない。
「ダメッ! じゃあ切らないって約束して! お願いだから!」
「……水野さん……あなた一体、そのパンツにどんなジンクスがあると言うの?」
あまりにも必死な様子の水野に蓮宮が押されている。
「そ……それは……特に……何ってわけじゃないんだけど……」
「……本当に……?」
「うん、本当……」
もともと身長の低い水野が、俺の胸ポケットにしがみ付きながら更に小さくなっていく気がした。
「じゃあどうしてそこまで拘るの?」
「ずっと大事にして来たし……、何となくもう、水曜日はこのパンツじゃないと何も出来ないって言うか……蓮宮さんならこう言うの分かってくれるよね?!」
ここまで言われて蓮宮は言葉を失った。
俺にはさっぱり分からないが、占い好きの女子や、それこそオカルト同好会会長なんてやっている蓮宮には分かり得るのだろう。
少し考えた様子の蓮宮とは違い、俺と同じ感覚であろう原田が何の悪意もなくまた爆弾を落とす。
「あれ? 今日って水曜だよな? じゃお前今日パンツどうしてんだ?」
「っ!!」
原田の言葉にドキリと心臓が鳴った。そのままドキドキと鳴り続ける心臓に焦る。
なにせ水野が今ちょうど俺の心臓付近に顔を近付けている状況なんだ。聞こえやしないだろうか。そしてどうしてこんなに動揺してるのかバレやしないだろうか。
いやだって動揺するだろう! 俺は確信してしまったのだから!
やはり……今日の水野はノーパンだったのだと!
「きききき今日は……違うパンツ、はいてるよ!」
はいていない。
知ってるからなのか水野の嘘が物凄く分かりやすい。
「なぁんだ、何とかなるんじゃん。じゃあそのパンツが戻って来なくても良くね?」
良くない。
このままだときっと水野は来週の水曜日もノーパンである。
「そっ……れ……は……でもっ、出来ればやっぱり、戻って来て欲しい……し……だからっ! だからお願い! 何とかっ! 戻って来るまで預かっててくれないかな?!」
「はっ……はあ?!」
何で俺が水野鈴音のパンツを預からなければならないんだ?
「戻って来るまでって……何か方法でもあるの?」
蓮宮が裁ちバサミをジャキジャキさせながら問う。
「分からないけど……何か原因があるなら一生懸命考えるし、英彦君に本当に危険が及びそうだったら切っても構わないから!」
水野が俺にしがみ付いたまま、上目遣いで必死に訴えてくる。正直、女子にこんな顔をされるのは辛い。
実際のところ、ただ俺の胸ポケットに入り込んでいるだけで特に危険な目にはあっていないが……。
「しゃーねぇな!」
「いや原田! 何でお前が承諾してんんだよ!」
まだ危険な目には確かにあっていない。いないが万が一ばれたら俺の社会的地位が危険なんだが!
「だってお前、どうせ蓮宮がどんだけでかいハサミ振り回しても切れねぇし……もう昼休み終わっちまうよ! 弁当食おうぜ?」
「私はヒデ君が望むなら何としても切ってあげるけど……」
結局は蓮宮も俺に判断を任せてくれるらしい。
パンツの持ち主が現れて、その持ち主はそのパンツを物凄く大事にしてて、毎週水曜日はこのパンツじゃなきゃダメで、こだわり過ぎてノーパンで登校するほどで……ああ、さすがに目の前で蓮宮に切ってくれとは言えない……。
そして俺は結局、さっき原田に取られた台詞を言ってしまうのだった。
「しゃーねぇな……」
とりあえず、何かあったらすぐ連絡出来るように無料通話アプリのIDの交換をした。お前は関係ないだろうと思ったが、原田が自分を含め四人がチャット出来るグループを作成。
グループ名は『ホワイトトライアングル』だってよ。
絞り出すような溜息が出た。




