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ジンクスパンツ ときどきノーパン  作者: 焼肉一番


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「切り刻んであげる」

「分かったよ!」


 何だか興奮状態の蓮宮に急かされ、俺はとうとう今まで守り通した胸ポケットの中身を白昼堂々晒してやった。

 そしてこれで満足かと蓮宮の顔の前に垂らしてやる。


「ほらよ」


「な……何これ……」


「言っただろうが、パンツだよ」


「ぱ……パンツって……これ……女性物……!」


「へっ?」


「私はてっきり……何の事情かそこにヒデ君の使用済パンツが入っているのかと……」


 し……しまったあああああ!


 そうか! 原田は一言も女物のパンツだとは言っていない! 

 自分のパンツだって事にして恥ずかしいから見せたくないで済んだかも知れないのにバカ正直に中身を見せてしまった!

 それにしてもこいつ……俺の使用済のパンツだと思って軽く興奮してたワケ? 引く。


「それに……そのパンツ……何だかとても……」


 蓮宮は慎重に、俺が目の前に垂らしたパンツに手を伸ばした。


 今は動いたり飛んだりしていないので見た目にはごく普通のパンツである。そのパンツに慎重になると言う事は、蓮宮には何か感じる力があると言う事はもう疑い様がないのでは……。

 そして蓮宮の指がギリギリパンツに触れるかどうかと言う瞬間、パンツはひらりと動いてその指をかわした。端っこを俺に抓まれたまま。


「!」


 無言のまま目を見開いて、それでも蓮宮はまたパンツへ手を伸ばす。しかし蓮宮の手が左右へ動けば動いただけ、パンツもそれとは逆の方へひらひらと動き続けるのだ。


「これって……」


「うわぁ~! やっぱりすげぇなそのパンツ! 良いなぁ英彦、そんなパンツ拾えるなんてよ!」


「俺は拾ってない!」


 原田にそう言われて俺は抓んでいた指を離した。パンツはその場所から少しだけ落下したが、そのまま地面には落ちずに、両端をパタパタさせて空中に留まった。


「ははっ! 可愛い!」


 信じられない感想を口に出して、原田も触れようと手を伸ばすが、やはり軽くかわされるのである。


「うーん、やっぱそのパンツお前の事が大好きなんだ」


「……ヒデ君にしか……触れないって事……?」


「うん。見つけた時俺も何度も触ろうとしたけどダメなんだ。そんで無理やり英彦の胸ポケットに潜り込んで行ったんだ。な、英彦」


 意外にも原田が状況をキチンと説明してくれて助かった。


「そう! 無理やりなんだよ無理やり!」


 俺は原田の言葉に乗り、望んだ状況ではない事を激しく蓮宮に訴える。


「……なるほどね」


 それにしても蓮宮は空飛ぶパンツを目の前にして随分と落ち着いているように見えるんだが……。先ほど俺の使用済パンツと勘違いしていた時と比べてこの差は何だ。


「そのパンツ、少なくとも私にとって良くない物だって事は分かった。そしてそのパンツのせいでヒデ君が困っているのなら私が……」


 そう言うと蓮宮はおもむろに制服のスカートのポケットをまさぐり、中から巨大な裁ちバサミを取り出した!


「切り刻んであげる」


 そして一応刃の部分に巻き付けていた白い布をくるくると解くと、ジャキッ! と、工作用のハサミでは到底聞く事の出来ない重い音を響かせて、開いた裁ちバサミを空飛ぶパンツに向かい下から上へ振り上げる。

 パンツはまたもギリギリでその攻撃をかわし、俺の目の前を巨大な裁ちバサミがビュンと通り過ぎた。


「ひっ……!」


 俺の情けない声とは対照的に原田がマイペースな声を出す。


「へぇ~っ。蓮宮って案外女子っぽいところあるんだなぁ? 裁縫セットとか持ち歩くタイプとは思わなかったわ~」


 アホか原田! これが裁縫用に持ち歩くサイズのワケないだろうが! とツッコミを入れようとしたら蓮宮は少し顔を赤らめてこう言ったのだった。


「いつヒデ君の服のボタンが取れても良いように裁縫セットは必ず持ち歩いてる」


「本当に裁縫セットのハサミかよ?!」


 ハサミがこのサイズなら一体どんな針を仕込んでいやがるんだ。畳でも縫えそうな極太の針を隠し持っているんじゃないだろうな。


「ボタンではなかったけど、ようやくこの裁ちバサミが役に立つ時が来たのね。待っててヒデ君、今、その呪いを……裁ち切るっ!」


 ジャキッ!

 ビュン!


「ひっ!」


 ジャキッ!

 ビュン!


「うおっ!」


 パンツが俺の周りでパタパタと飛ぶので蓮宮の裁ちバサミがいちいち俺を掠める。


「おい落ち着け蓮宮! 俺に! 俺に当たりそうだ!」


 パンツと共にハサミをギリギリでかわしながらそう訴えるが、蓮宮は止まらなかった。


「大丈夫よヒデ君! 万が一服を一緒に切ってしまっても縫う準備はある」


「いやいや皮膚も切り裂かれそうなんだよ、うおあっ!」


「大丈夫よヒデ君! 絆創膏だってちゃんと常備してる」


「絆創膏で済むかなぁ?! あああーっ!」


「昼休み終わっちまうから俺先に食うぜ~?」


 この状況で原田は低木の脇に座り、カレーパンに噛り付く。

 つまりこいつに俺を助ける気はない……まずいぞ、このままじゃ本当に一緒に切り刻まれる!

 そう思ったのは俺だけではなかったらしい。パンツは俺の周りを飛ぶのを止め、この秘密基地へ来る為の玄関的な位置にあった渡り廊下の方へ向かって飛び始めた。


「逃がさない!」


 蓮宮がパンツを追い掛け、俺が蓮宮を追い掛ける。


「おい! 校舎の方へ行くな! 誰かに見られたら……! なっ!」


 言いながら前方の渡り廊下を見ると、そこを歩く女生徒の姿が飛び込んできた。


 あれは……水野鈴音だ! 

 手に何かプリントの様な物を持って見ながら歩いているのでまだこちらに気付いてはいない様だったが、蓮宮が「待ちなさい!」と大声を出したのをきっかけに、当然の流れでこちらを振り返る。


「あっ……」


 まずは俺に気付き、なんだか少し嬉しそうな顔を見せる水野。


「えっ?!」


 次に全体の状況が正常ではないと感じたのだろう。急に顔色が変わる。

 交通事故現場にでも遭遇した様な顔だ。

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