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ジンクスパンツ ときどきノーパン  作者: 焼肉一番


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ポケットの中見せて

「あーっと! そう言えば俺! 生意気だからって体育館の裏に来いって先輩に言われてたんだったー! すっぽかしたら面倒だから行って来るわ!」


「あっ! ヒデ君!」


「ええっ! 今から?!」


 二人の声を振り切って俺はその場凌ぎで教室を飛び出した。

 ちょうど出入り口のところで遅れて来た原田、平岡とすれ違う。


「あれ? どこ行くんだよ英彦?」


「カレーパン食いたかったら約束忘れんなよ?!」


 すれ違い様、俺を不思議そうに眺めた原田にそれだけ言って走り去る。

 もちろん先輩に呼び出されてるなんて嘘だ。そんな怖い先輩もいなければ俺も目立つ様な事をする生徒じゃない。

 だけどとりあえず今だけでも蓮宮から逃げ切れば、休み時間にあいつが来る前にどこかへ隠れてしまえば良い。


 朝のホームルームはすっぽかす事にして、渡り廊下から上履きのまま校舎の外へ飛び出し校舎沿いの適当な低木の脇に座って隠れた。

 そしてまだ始まったばかりの今日に深く溜息を吐く。


「はあああぁ~」


 まさか……蓮宮に気付かれるとはなぁ。


 自分の胸ポケットに軽く視線をやると、白い布がチラリと見えた。

 やっぱり、入っている……。

 もし……蓮宮が本当にこのパンツが何なのか理解してくれるのなら、あいつにだけは事情を説明しても良いのかもしれない。

 そして更に対処法を知っているのならありがたい話だ。


 だがしかし、俺はあいつの事を信じる事が出来ない。

 裏切られると思うわけじゃないし、人にわざわざ意地悪をしてやろうってなタイプではないと思うが、それが好意にしろ悪意にしろどっちに転がるか分からない恐ろしさがある。

 今まであいつに付き纏われて来た自分の勘と蓮宮葉子なら、当然自分の勘を信じよう。


 そうして、一時限目が始まるギリギリの時間までそこに座り、教室に戻って何食わぬ顔で授業を受け、休み時間のチャイムと同時にまた同じ場所に隠れ、また授業開始ギリギリに教室に戻る……を繰り返した。


 幸い、隠れ場所に決めた低木付近に生徒が近寄る事もなく、蓮宮がここを探し当てる事もなく、パンツが再び空へ舞い上がる事もなく、無事に昼休みまで過ごす事が出来た。

 原田以外、まさか俺の胸ポケットにパンツが入っているとは思って居ない。


 よし! あともう半分やり過ごせば家に帰れる! 

 同じ場所でボッチ飯と極め込もう。そう思って弁当を持ち、またダッシュで教室を飛び出そうとした所を、原田に腕を掴まれた。そう、唯一、俺の胸ポケットの秘密を知っている原田に……。


「英彦! カレーパンの約束! 俺! 約束守ってるぞ! だからお前もカレーパンの約束!」


「わっ……分かってる! 分かってるから明日じゃダメか? 今急いでるんだ!」


「ダメだよ! 今日は俺昼休みに弁当とカレーパンが一個食べられる感じで居たんだから! その予定が壊れたら俺の胃袋が変なんなっちゃう! 胃袋が反乱起こす!」


 何だよそれ面倒くせぇぇ! 自分の胃袋くらい自分でコントロールしてくれよ! しかもカレーパン一個分くらい!


「明日なら二個! 二個買ってやるから!」


「おっ前悪い奴だなぁ~。カレーパンは購買の一番人気だぞ? 一人で二個も買ったら他の人が可哀想だろうが! 平岡さんだってたまに買ってるんだからな! その一個のせいで平岡さんの分のカレーパンが万が一なくなったら俺は……」


「わーっかったよ! 買ってやる! 買ってやるから購買までダッシュな!」


「おう!」


 ここで言い争う方が危険と判断し、原田と購買まで走った。

 猛ダッシュで来たけど俺達二年生の教室は二階。購買は一階。その一階に教室がある三年生達が並ぶより前にはさすがに着けない。

 周囲に気を配りながら並び、カレーパンを引っ掴んで購買のオバちゃんに百円玉を押し付ける様に支払う。


「これね! 袋要らない! よし行くぞ原田!」


「ははっ! サンキュー英彦~!」


 結局、ボッチ飯にはならず、原田と一緒に今日の秘密基地に落ち着いた。


「なんだよ英彦? お前こんなとこで食べるのか? 日当たりも悪いしケツ痛ぇし、いつもみたいに屋上行こうぜ?」


「そうよヒデ君。食事をする時には美味しい、幸せ、と思って食べなければ栄養にならない。それには当然食べる環境も大きく影響して来る。ポケットの中見せて」


「うわあぁっ!」


 まるで最初から居たみたいな雰囲気で自然に会話に参加した蓮宮に驚き、大声を上げてしまう小心者の俺。


「おう蓮宮、すげぇないつから居たんだ? 全然気付かなったぞ」


 全然気付かなかったと言いつつ大して驚いた様子はない原田。


「ポケットの中見せて」


 それぞれのリアクションに特に反応する事なく、もう一度見せてと右手を差し出す蓮宮。

 くっそ……やっぱり購買に寄ってたのがまずかったか!


「昼休みまで待ってあげたのよ。さぁ……」


「何でお前が譲歩するみたいな言い方んなってんだよ? 何でもないって言って……」


「なぁんだ! 蓮宮もパンツの事知ってたんだ~。俺約束守って誰にも言ってねぇのによ! なぁなぁ! 俺ももう一回見たい! 見せろよパンツ!」


 原田の発言に、俺は頭が真っ白になるのを感じた。そしてさすがの蓮宮もポカンとして原田に聞き返す。


「……パンツ……?」


「え? 知ってたんじゃねぇの?」

「え?」

「ええっ?」


 俺は、左手で胸ポケットを抑えつつ、右手で自分の頭を抱えた。


 そう……だよな。

 胸ポケットに何か入っている事を知っているイコール、パンツの事を知っていると思うのは当然の流れかも知れない。そうかも知れないけど……。


「原田……、お前カレーパン返せよ……」


「ええっ! 蓮宮パンツの事知らねぇの?! じゃーなんでポケットの中なんか見たいんだよ? 新しいフェチか?」


「ひっ……ヒデ君……どういう事なのか、ポケットの中を見せて……はぁはぁ」


 そう言う蓮宮の顔は、珍しく表情が崩れている様な気がした。何だか顔が赤いし、変に息遣いも荒くなっている。


「もう仕方ねぇよ英彦! ここまで来たら見せちまえって! そんで明日蓮宮にカレーパン奢ってやれば良いじゃん!」


 完全に他人ごとの顔をして原田が俺の肩をポンと叩く。


「ちくしょう! お前が奢れよ!」


 そんな原田に苛立ちながらも、俺は逃げ場なしと判断し、そろそろと胸ポケットに手を突っ込んであのパンツを掴んだ。そしてまたそろそろとパンツを引っ張り上げる。


「早く! 早く見せて! はぁはぁ」

「分かったよ!」

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