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ジンクスパンツ ときどきノーパン  作者: 焼肉一番


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最終回

 どれくらいそうしていただろう。

 誰も言葉を発するものは居なかった。

 そして徐々に、俺達を覆っていたイチゴパンツが小さくなっていったのだった。少しずつ少しずつ。

 やがて本来の大きさまで戻ったイチゴパンツは、ぽとりと地面に落ちた。傷付き倒れた様に。

 水野はただ、うつむき加減で立ち尽くしていた。

 蓮宮は両膝を付き、悔しそうに両手を握りしめている。

 平岡は呆然自失、表情を無くしたまま周りを見渡している。

 原田は寝ていた。

 俺はイチゴパンツに近付き、拾い上げる。その下には、すっかり普通のパンツに戻った紐パンと白いパンツも落ちていた。


「終わった……」


 イチゴパンツはその身を犠牲にして、すべてを制圧したのだ。きっと、そう言う事だ。

 それぞれが、この神聖なる戦いの余韻に浸っていた。


「はっ! ……あれ? 寝てたぁ! 俺寝てたぁ! なんかすげぇ気持ち良くなって一瞬寝ちまったみたいだ!」


 本気で寝ていた原田が急に目を覚まし余韻をぶち壊す。


「あれ? パンツはどうしたんだパンツは? おっ、おい英彦! それパンツじゃねぇか! 何全部ひとり占めしてんだよ! ……て? あれ?」


 俺の手の中でくったり動かなくなっているパンツに気付き、原田が顔を近付けた。


「もう、動かなくなっちまったのか?」


 あくまで通常運転の原田に、全員がその余韻から解放され始める。


「な……何だったのよ今日は! ちょっと徳丸君! なんであたしのパンツ握ってるのよ変態! それとも何? やっぱりこういうセクシーなパンツがお好みっ?」


 平岡がつかつかと近寄り、俺の手からピンクの紐パンを奪い去る。破れてはいない様だが、その紐部分はかなり痛んでいて、よれたりほつれたりが目立つ。


「あーもう……こんな汚れたパンツはけないし、ノーパンで授業なんか受けたくないし、今日は帰る! いつか跪かせてあげるからね!」


 ザ・捨て台詞を吐いて、平岡は去って行った。


「平岡さ~ん! じゃあ俺が先生に言っておいてあげるね! 早退だって言っておいてあげるからね! 平岡さんまたね~! ねーっ!」


 平岡の背中に原田がずっと手を振っている。平岡の本性はこいつだって見た筈だ。それなのに変わらないこの平岡への忠誠心はなんなのか……。まぁ、こんな奴が増えれば、平岡のパンツがまたあんな風に暴走する事もないのではないか。そう考えれば原田はじめ、平岡梨紗ファンクラブの皆さんには是非とも頑張って行ってもらいたい。

 その前に、もうあんなに大事にしているパンツはないだろうが。


「それにしても……ノーパンで授業なんか受けたくない……か。ここにノーパンでも学校に来たやつが居るけどな」


「はわっ?!」


 いつまでも立ち尽くしたままの水野に、俺は少し意地悪くそう言ってみた。


「だだだって……だってさ……水曜日は放課後に図書委員の会議があるじゃない……英彦君いつもサボって来ないけど、万が一出たら……一緒に居られる時間を逃す事になっちゃう……から、絶対休みたくなかったし、どうしてもジンクスパンツ以外ははきたくなかったんだもん」


 言いながらまただんだん下を向いてしまう水野に、愛しさを感じている自分に気付く。

 そりゃ……パンツに包み込まれながらあんな大告白をされたら、俺じゃなくても多少絆さるってもんだろうが。


「本当は私も分かってた」


 その場に膝を付いていた蓮宮も立ち上がり、水野にそう声を掛けた。


「そのパンツに込められた念が何であるか……でも、それが呪いの類ではなく、純然な想いであればあるほど、私には悪だった。私だってヒデ君を想っている。その想いであなたに負けたくなかった」


 だから、斬り刻んでやろうと思った。

 そう続けた蓮宮に、水野は怒る様子はなかった。


「ごめんなさい蓮宮さん……。私も、すぐに分かったんだよ、この人も私と同じなんだって……ううん、きっと誰でも分かるよ。蓮宮さんは、私みたいにいつまでも想いを隠したりしていないもんね。でも私だって、もう抑えられない」


 そう言って蓮宮を真っ直ぐに見つめると、蓮宮もその視線を受け止めて返した。


「宣戦布告ってワケね。受けて立つ」


 古典的な表現をするならば……両者の視線がぶつかったところで火花が散った。しかしそれはどこか爽やかでもある。この戦いに巻き込まれるのは、もしかしなくても俺なんだろうなぁと、今はどこか他人事の様に思えるからだ。


「宣戦布告って何? 今度はお前らでまたパンツファイトするのか? 蓮宮のパンツも飛ぶのか? やる時絶対呼んでくれ!」


 アホか、そうそうパンツが簡単に空飛びまくってたまるか。まぁやる気になれば水野は全部で七枚……つまりあと五枚のパンツを飛ばせるだけのポテンシャルを秘めているわけだが……。


「そうね、早速今晩からこのパンツをお爺ちゃんの仏壇に捧げるわ。お爺ちゃんの力を借りればそこまで年月を掛けなくてもあるいは……」


「やめとけバチ当たり! その方法しかないのかお前ら!」


 俺の強めのツッコミに気分を害したのか、急に蓮宮が冷めた目付きで俺に向かってこう言った。


「ところでヒデ君、さっきからずっと気になっていたんだけど……」


「うん?」


「あの日水野さんがノーパンだったって、どうして知っているの?」


「……へ?」


 あれ?

 俺さっき何かとんでもなく大事な秘密を喋っちゃったか?


「あの日水野さんは、違うパンツをはいていると言った筈……。それなのにヒデ君はノーパンだったと言い、水野さんもそれを否定しなかった」


 まずい……。非常にまずい……。


「ひっ……ひっ……ひっ……英彦君っ……まままさか……」


「ちっ……ちがっ……あのっああっ!」


「おーおーおーそう言う事か英彦ぉ~お前最低だな~」


 あれは不可抗力だった!

 しかし、事実だけが取り上げられ俺は悪者だ!


「くそう! 違う! 違うってーっ!」


 たまらずその場を逃げ出す。

 両手に一枚ずつ、水野のパンツを持ったまま。


「返して英彦君! それは私の大事なジンクスパンツなの~!」


 水野が情けない声を出して追い掛けてくる。


「これはもうさすがにボロボロだ! これ以上無理させたら可哀想だから新しいのを買え! てか買ってやるから諦めろ! 他の五枚も全部変えろ!」


「ヒデ君それは容認出来ない。私にも買ってあげるべき」


 その後ろを蓮宮が続く。


「えー何々? これからパンツ買いに行くのか? 俺も俺も! 俺も行く! 空飛ぶパンツ買おうぜ!」


 原田も何故か加わり、へとへとな筈の俺達は、無駄に校庭を駆けずり回る。

 これが、青春と言うやつなのか。

 この地に現れたと言うフンドシの神様よ、教えてください……。


 あれからしばらくして水野に聞いたのだが、俺が途中で読むのを止めてしまったフンドシの神様の続きにはこんな事も書かれていたそうだ。


 あれはきっと、男の魂が戻って来たのではなく、大事にされたフンドシに女の願いが宿った小さな神様だったのろうと、村人たちは口々に噂しました。

 真実はどうであれそれは、死んだ者に縋るのではなく、何かを変えるのは生者の強い想いでなければならないと言う村人たちの願いでもあったのでしょう。


 何かを変えるのは、強い想い……か。

 水野の強い想いに触れ、何かが変わったと言えば変わったし、相変わらずだと言えば相変わらずな日々を過ごしているが、おとぎ話の締め方としては悪くないな、と、俺はそう思うのだった。

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