神聖なるパンツ同士の戦い
「す……すげぇ……何だよこれ……凄過ぎるよお前らのパンツ……」
「言ってる場合じゃない」
蓮宮が紐パンドリルに向かって例のナイフを突き出す。
「やめろ蓮宮! 神聖なこのパンツ同士の戦いに人間が水を差すのか!」
「何バカな事を……」
そうは言った蓮宮だが、原田の言葉にあからさまに動揺を見せた。
神聖な戦い……蓮宮の目にもそう映ったのだろう。そしてそれは俺にとってもそうだった。
「もう……いい加減にしてよ……何なのよさっきからこれは……神聖な? パンツ同士の戦い? バカバカしい! なんであたしがそんなのに巻き込まれなきゃならないの! あたしのパンツは一体どうなったの?! どいつもこいつも! 何で思い通りにならないのよ! とっととこんなの終わらせてよーっ!」
とうとう平岡が限界を迎えた様に喚き散らした。するとそれを聞き届けたのか、紐パンドリルに黒いオーラが纏わり付く。それをエネルギーにしたのか、さっきから原理なんかちっとも分からないが、こう着状態だった二枚のパンツが動き出した。
ミシリミシリと少しずつではあるが白いパンツが紐パンドリルに巻き込まれていく。
「そうよ……そう……さっさと終わらせてよ……そんなダサいパンツさっさと突き破って終わりにしてよ……」
それが現実になれば、その紐パンドリルの次の標的は俺だ。
「どけ水野、危ないぞ」
「ダメだよ! 危ないのは英彦君だよ! 狙われてるんだから……今度は私が守ってあげるんだから!」
何を言っているんだとその場で押し問答する。体を入れ替えようとするが水野が凄い力でしがみ付いていて離れようとしない。無理やり引きはがしても良いのだが、この水野のパワーに対抗しうる力を出せばかなり乱暴な事になってしまうに違いなかった。
「またあたしの目の前で……あたしをほったらかしにして……女の子といちゃ付くんだねぇ徳丸君は……」
ギュルン!
一気に紐パンドリルが白いパンツを更に巻き込んだ。もうギリギリ、元は三角形だったんだろうなと分かるくらいにしか布が残っていない。後はドリルの先端にグルグルに巻き込まれている。いつ破れてもおかしくないぞ。
「蓮宮! やってくれ! もう限界だ破けちまう!」
「う……う……」
呻きながら蓮宮は後退り、とうとうその手に持つナイフをぽとりと落としてしまった。
「蓮宮?!」
そして蓮宮は、紐パンドリルと白いパンツが戦っている空間と俺の間に躍り出る。
「出来ない……どっちを斬る事も私には出来ない……これは神と神の戦いと言って良い。だったら私に出来る事は水野さんと同じ」
「蓮宮さん……」
水野と蓮宮が何とも言い難い表情でお互いを一瞬見やった。それは仲間を見る目とは違う、と言って、敵を見る目でもなかった。
「おいおいお前らやめろ! 大丈夫だ! あんなドリル当たったって俺は死なねぇよ!」
「優しいんだぁ~? 徳丸君は。ねぇどうして? あたしには優しくないくせにどうして他の子には優しいのよ!」
ギギ……ギ……!
平岡はもはや正気じゃない。情けない、男の俺が、二人の女子に守られているなんて。乱暴にしたくないとか、そんなお上品な事はもはや言っていられなくなったよなぁ!
俺は遠慮なく、力任せに水野を引きはがし、上半身を起こして俺の前に立っている蓮宮の腕を掴んでこれまた強引に引っ張った。
「ヒデ君っ!」
時々ビックリする様な身体能力を見せつけはするが、所詮は女子だ。蓮宮はさほどの抵抗も出来ずに俺の方へ倒れ込んで来た。そしてそのまま、俺は二人を組み敷き、両手を地面に突っ張って覆い被さった。パンツには背を向け、壁の代わりに地面で二人まとめてドンするかたちだ。
「あ……ああ……ダメ、ヒデ君、こんな至近距離で、こんなかたちで、ヒデ君の必死な匂いを嗅がされたら私もう……動けな……い……」
「動かなくて良い、じっとしてろ! 水野もだぞ?」
「ひ……英彦君……また私を守って……」
また? 記憶にないが、俺はいつか水野を守った事でもあったのか? それともあの階段での事を言っているのか?
「こんな状況なのに嬉しい……ごめんね、嬉しい……でもこれじゃあ、英彦君が……もうあのパンツはもたないよ……」
パンツがもたない。確かに時間の問題だ、そう思って後ろを振り返ると、そんな水野の言葉とは真逆の事が起こっていた。
「おおお、すげぇぞ水野! またお前のパンツが復活して来てるぞ!」
原田が興奮気味に言うのも仕方ない。ほぼ紐パンドリルに巻き込まれていた白いパンツが、少しずつではあるがその形状を元の三角形に戻そうと逆回転して巻き込まれた部分を解いている!
「しぶといわね! どうしてまた復活するのよ!」
平岡の苛立った声とは対照的に、蓮宮が落ち着いた声でその答えを水野に促す。
「水野さん、そろそろあの白いパンツを動かした念の正体を自覚しても良いと思う。いえ、たぶんもう、分かっているんでしょうね」
「……うん」
「どう言う事だよ? 俺にも教えてくれよ」
そう言う俺に、この状況に相応しくない様な穏やかな微笑みを浮かべた水野はこう続けた。
「教えるよ。でも、この神聖なるパンツ同士の戦いが終わってからだよ」
水野までが、この戦いを神聖な物として捉えた。そしていつもどこか俺に対しておどおどしていた水野が、戦いが終わったならばとハッキリと決意を伝えた。
そして俺に組み敷かれたまま、水野はするりと両手をスカートの中へ滑り込ませ、さっき蓮宮がやった様に、今はいているパンツを脱いでしまった!
「神聖なパンツ同士の戦いに手は出さないよ! でもパンツなら良いでしょう!」
そう言って左手に握られた脱ぎたてのパンツは、やはり白いパンツであったが、そこには無数のイチゴ柄がプリントされていた。
「水野さん、無理! さっき私も試したのを見てたでしょう? パンツを動かすには条件が二つ要る。想いだけではダメ、その想いを宿すに相応しいパンツでないと動かない!」
蓮宮の言葉を聞いてもなお、水野の顔は落ち着き払っていた。
「問題……ないよ!」




