紐パンドリル
「あっ……あのなぁ、汚れちまったから少し触っただけだし、別におかしな気持ちでお前のパンツ触ってるわけじゃ……」
「わっ……分かってるっ! ごめんなさい!」
「それにしたってヒデ君……手付きが優し過ぎる」
「はぁっ?! 蓮宮お前妙な事言うな!」
せっかく弁解したのに、蓮宮が余計な事を言うもんだから水野はとうとう顔から湯気を吹き出した。そして同じタイミングで、手の中にあった白いパンツが暖かくなり、ふわりと俺の手を離れた。
「えっ? お前……大丈夫なのか?」
「おおっ!? そっちもまた飛んだのか?! すっげぇ! 空飛ぶパンツが二枚だ! 共演だ!」
平岡の紐パンに釘付けになっていた原田が気付いて浮かれた声を上げる。そんな原田を横目で見て、一瞬平岡の顔が醜く歪んだ。
白いパンツははしゃぐ原田に構う様子は微塵も見せずに、ただ俺の顔の周りをパタパタと飛んでみせた。たぶん、嬉しそうに。
「念が増幅された。こう言う事よ水野さん。そして……」
蓮宮が言い終わる前に、突然猛スピードであの紐パンの紐が伸びた。そして俺の周りではしゃぐ白いパンツをバチンと弾き飛ばす。
「あっちのパンツの念もまた増幅してしまった様ね。原田君、あなたには心底ガッカリしたわ」
「へっ? なになに? 何が? 俺何かした?」
自分にだけ向けられていると思っていた原田の関心が、水野の白いパンツにも向けられた事が気に入らなかったんだろう。
平岡のパンツの動力は、俺への個人的な恨みではなくて自身の承認欲求そのものだと言う事か。だから誰彼構わず邪魔をしてくる奴は攻撃する。女である蓮宮の顎も容赦なく跳ね上げる。
でもやっぱり一番は俺への恨みなんだろう。白いパンツをふっ飛ばした後で、紐パンは俺に対して威嚇する様に紐の部分をユラユラを揺らした。
ピシャッ!
そしてそれを鞭の様にしならせ、俺の顔面を狙う。しかし俺はちっとも怖くなかった。
「おお? 白いのが……!」
原田が感嘆の声を上げる。
そう、力を取り戻した水野のパンツがまた守ってくれると俺は分かっていた。
白いパンツは先程までの様に貧弱ではなかった。形を変えながらなんとか受け止めていた紐パンの攻撃を、今は顔色……布の形状一つ変えずに受けきっている。まるでカチカチに硬質化した様に、その美しい三角形が崩れる事はなかった。
「やるわね、水野さんのパンツ」
「おう! 水野のパンツすっげぇ!」
「い……い……言わないでそう言う事……私何もしてない……」
何もしていないつもりでも明らかに白いパンツは水野の影響を受けて強力になったのだ。これが想いの強さ……。一体どんな想いなんだ。
紐で殴ろうが引っぱろうが、体当たりをしようが、何をしても一切水野のパンツはぶれなかった。
しかし、その様子を見て水野のパンツ凄い凄いとギャラリーが沸けば沸く程、平岡の顔が強張って行き、紐パンの威力は徐々に上がって行くのだった。
「今なら……」
蓮宮が紐パンに弾かれ、地面に落ちたままだったたナイフを取りに走った。慣れた手つきで拾い上げ、パシンと右手に持ち変える。
そして二枚のパンツの攻防を睨みつける様に見据えた。
紐パンの方は決してどこうとしない白いパンツに業を煮やしたのか、両サイドの紐部分を中央で一緒に捩じり、まるでドリルの様な物を作り出したではないか!
「なっ……なんだよあれ! 平岡さんのパンツすっげぇぇ!!」
「た……確かに凄い! 明らかに進化しているじゃないか! 平岡のパンツすごい! 認めざるを得ない!」
俺も原田に賛同する。
素直に凄いと思って声に出てしまったのだが、こうやって褒めてやれば平岡の自尊心が刺激され、結果紐パンの威力は落ちるだろうと気付き後半は少し盛った。
「当然よね! あたしのパンツなんだから!」
効果があったかは微妙だが、平岡が気持ち良くなったのは見て取れた。やっぱ単純。
しかしそれでも、なんと紐パンはグルグルと高速で回り出し、紐で作られたドリルは本物のドリルと同じ効果が期待出来そうな程だった。
「す……凄まじい」
ナイフを手にした蓮宮がどうにかしようとジリジリ近付くがドリルにたじろぐ。
「ダメ……やめて危ないよ!」
ずっと自分のパンツが俺の盾になっていたのをただ見ていた水野。いくら硬質化したとは言え、大事なパンツが何度も打ちのめされるのは悲しいだろう。
「傷付けないでお願いだから!」
水野の叫びに応える様に、そしてドリル攻撃に備える様に、白いパンツは一瞬輝きを放ち、次の瞬間に一回り大きくなった!
「うわっ! すげぇ! またまた水野のパンツがパワーアップした! もうどっちのパンツも本当にすげぇよ! 欲しいよ!」
そう言っている事だし出来れば原田にまとめ持って行って欲しいもんだがそうも行かないらしい。
紐パンドリルの方は白いパンツに苛立って居る。更に回転速度が上がった。
「平岡さんお願い、お願いだから……」
「だからあたしじゃないんだってば!」
涙ながらに訴える水野に冷たく言い放つ平岡。とは言え、この状況は他人ごとではない。紐パンドリルが、空気中のエネルギーを一緒に巻き込むかの様に回りながら威力を蓄えてる。やばい。これを見てもすげぇとはしゃいで居られるたのは原田一人だ。
「平岡さん! お願いだからぁーっ!」
本当は水野もこれをコントロールするのは不可能だと分かっている筈だ。現象は同じだからな。それでも叫ばずのは居られないのだろう。
紐パンドリルが回転する音。風が起こりスカートがはためく音。新校舎の校庭から聞こえてくる体育の笛の音。原田のすでに言葉になっていない様な奇声。
それらが、一瞬すべて無音になった様な気がした。
そして……。
「やめてぇぇっ!」
ギュルッ! シュドッ! ギギギギギ……!
「水野っ? バカお前! 危ないぞ!」
視界がぶれて俺の目の前に地面が迫った。
水野が俺をタックルする様な形でしがみ付いて来たのだ。それも低い、足元を狙う様な的確なタックルで、あまりにも不意と言う事もあり俺はまんまと倒されたのであった。
水野はそのまま、俺を庇う様にしがみ付き、叫んだ。
「英彦君を傷付けないで!」
お願いだから傷付けないで。それは水野の大事なパンツに向けられたものだと思っていた。違うのか?
「水野さん……あなた!」
水野の行動に蓮宮が信じられないと言った声を出す。
そして急発進した紐パンドリルと白いパンツは激しくぶつかり合い、白いパンツにめり込んだドリルが、その布を渦巻き状に巻き込んでいた。そしてそのままこう着状態になっている。
突き破りたい紐パンドリルと、何とかこの場を守ろうとする白パンツ。お互いがお互いのエネルギーを激しく放出しているのが可視化された。




