攻防
「バカ! 危ないだろ!」
シュドッ……!
紐パンの攻撃は、またもや白いパンツによって防がれた。
「また……」
水野の白いパンツも、平岡の紐パンも、まるで……持ち主の意志で動いているかの様だ。そうなのか? いやまさか……。
そんな疑惑の中、紐パンは水野のパンツに包み込まれる様な格好になる。まるで白いパンツが紐パンを拘束しようとしているみたいに。
「お願い平岡さん落ち着いて! それはっ……その紐のパンツは平岡さんの大事なパンツなんでしょう? 人を傷付けるなんて……こんなひどい事させないで!」
胸の前で祈る様に組んだ両手は震えている。しかし、そんな水野の訴えを平岡はこう突っぱねるのだ。
「変な事言わないでよ! 確かに徳丸君にはあり得ないくらいムカついてるけど、別にあたしがコントロールしてるワケじゃない! まさかそのダサいパンツは……水野さん、あなたが動かしているとでも?」
「ちっ……! 違うよ!」
ひと際大声で水野が否定する。そして俺に向き直ると顔を真っ赤にしてこう続けた。
「信じて英彦君!」
「あ……ああ」
確かに、妙に持ち主の意志に反応している様に感じたのは事実だが、もしパンツをコントロール出来るなら、水野はあえて俺にパンツを纏わり付かせていた事になる。大事なジンクスパンツをだ。それはあり得ない。
俺達がそんな言い合いをしている間もパンツ達は空中でモゾモゾ動き続けている。このまま拘束したい白いパンツと、体制を立て直したい紐パンの力比べだ。
「ふん! もうどっちだって! 何だって良いって言ってんのよ!」
平岡の気持ちが昂ると、紐パンがそれに応える様に白いパンツからすり抜け素早く上空へと舞い上がった。
マズい……とそれを目で追うと、上昇中の紐パンに何者かが真横から迫る。
手にはキラリと、ナイフ。
「蓮宮さん!」
先に気付いた水野が叫ぶ。
紐パンは蓮宮の攻撃をかわす為に、人間には不可能な動きを見せて対応する。急激に空中で方向転換をして、蓮宮のナイフは空を斬ったのだった。
「チッ……!」
一発で仕留めきれなかった事に蓮宮は小さく舌打ちしたが、着地と同時に俺に向き直り、俺の首筋の匂いを一嗅ぎしながら言った。
「ヒデ君……遅れてごめんなさい」
「おっ……おい……」
空に浮かんだ紐パンは蓮宮を警戒したのか、闇雲に突進して来る事はなかった。蓮宮はそんな紐パンに鋭い視線を向け、ナイフを持ち直す。そうして紐パンとしっかり対峙しながらも言葉だけは水野に投げた。
「水野さん、私はどんな災いからもヒデ君を守る。どうやらあっちの方が先なのは分かるけど、その後であなたのパンツも切る」
「もし本当に私のパンツが災いなら、もちろんそれで構わないよ!」
「分かってて教えたなら良い」
どうやら水野は先に俺達を発見し、すぐに異常事態と判断して蓮宮に応援を頼んでいた様だ。蓮宮から逃げてここへ隠れていたワケだったが、今は味方って事で良いんだよな?
「それにしても何て強い念なの……まずい……これは本当にヒデ君に対して恨みを持ってしまっている。呪い殺されるわ」
何気なく呟いたであろう蓮宮の言葉に引っ掛かる。
「……本当に? 本当にってどういう事だよ? そもそも動くパンツは呪いのパンツなんじゃないのか?」
「っそれは……」
明らかに蓮宮の顔色が変わった。こいつ、何か隠してる。
知っている事は全部言えと詰め寄ろうとしたが、水野登場のタイミングでどうにも壊れてしまった平岡がまたおかしな事を言い出すではないか。
「蓮宮さん、あなたまでこんなところへ何しに来たのよ。随分徳丸君にご執心なのは知ってるけど、結局のところそいつは女の敵よ!」
何故そうなる?!
いわれのない誹謗中傷を受けた可哀想な俺は動揺したが、蓮宮は冷静だった。
「なるほど、あの紐パンは平岡さんのと言う事ね」
「ああ、なんと平岡の紐パンだ」
「平岡さんって紐パンをはくタイプだったみたいなの」
「全員で言わなくて良いわよ!!」
蓮宮に的確な情報を伝えようと、俺も水野も良かれと思っての補足だったのだがまた平岡が声を荒げる。空中の紐パンからの敵意が強くなった気がした。しかし蓮宮のナイフがあの紐パンを鎮めてくれるなら、男として情けないが正直それに頼りたい。怪我をするのが俺だけならまだしも、水野だって居るのだ。
「ヒデ君には指一本触れさせない」
乾いた風が吹いて、校庭の砂埃が舞い上がった。いつだったか深夜に見た古い西部劇のワンシーンの様だ。




