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ジンクスパンツ ときどきノーパン  作者: 焼肉一番


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血の匂いも……嗅いでみたい

「み……見えた……?」


 そりゃあんな屈み方すればね。


「いや?」


 これくらいの嘘は簡単だ。


「あはっ、良かった!」


 そう言う平岡が一瞬つまらなさそうな顔をした様な気がしたが、好きでもない男にわざわざパンツを見られたいなんて思う女子も居るまい。

 そう思うとやはり気になるのはあいつらの事だ。見られるどころか、水野の大事なジンクスパンツを俺が持ち続けているんだからな。

 一体今どんな話をしているのか、蓮宮はあの後ちゃんと調べて、何かしらの情報を得たのか……。気になる!


「ごちそうさま」


 早々に結構な量を平らげ、俺は立ち上がった。


「えっ? どこ行くの?」


「うん、ちょっとあいつらに話しがあるから、まだちょっと昼休みあるし行って来る」


「どっ……どうして! 今行ったらあたし一人になっちゃうよ!」


「うん、そうだけど……平岡ならすぐにどっか適当なグループ入れるんだろ?」


 なんで女子ってこう、一人になる事を極端に嫌うんだろう。

 それを見て誰かが笑うとでも思ってるのかな。だとしたら自意識過剰だし、サッパリ理解できないので、俺にはこの行動が酷い事だって自覚はなかった。

 だいたいだ、もともとの約束を断ってまでこっちに付き合ったんだぞ。本当はそんな場合じゃないんだこっちは。


「お弁当……美味しくなかったの……?」


「なんでそうなるんだよ? 美味しかったって言ったじゃないか」


「じゃあどうして?」


「いやいや、何が? 何がどうして?」


「…………」


「……?」


「もうっ……良いっ!」


 平岡は乱暴に、広げていたお弁当箱やら水筒やらをかき集め、それを両手を抱える様にして先にその場を去って行ってしまった。


 あれ? 俺はまた何かやっちまったのか? そんなに酷い事だったのかな。

 ま、いっか。それより早く約束の場所へ行かなくちゃな、本当に昼休みが終わっちまう。

 そう思い直し、俺は昼休み中は開きっぱなしになっている屋上の扉へと向かった。そして校舎内に入ると、屋上が明る過ぎたので目が慣れない。急に暗闇に入ってしまったかの様な感覚になる。まぁ屋上で昼を過ごした後はいつもこうなるし、すぐに慣れるのも知っているので別段慌てなかったのだが……。


 ビッビリィィィィィ!


 その一瞬の暗闇を突いて、俺の胸ポケットは真横に切り裂かれた。


「んっ……なっ……!!」


 何が起きたのか一瞬理解が追い付かない。

 布の裂ける様な音がしたと思ったら、その暗闇の中から蓮宮が現れたんだ。蓮宮は真横からまるで行く手を阻むように俺の胸の辺りに真っ直ぐ腕を突き出していて、その腕の先には裁ちバサミ……ではなく、鈍い光を放つ銀色のナイフの様な物が握られていた。

 まるでスローモーションの様に、握られたナイフの先を見ていた蓮宮の眼球が、ぎょろりと俺の胸を捕らえた。


 尋常じゃない目付きだった。イっちゃってるってああ言う目の事を言うんだろう。良く知っている同級生の筈なのに、まるで別人かと思う様な狂気を感じる目。


「おっ……おい! 何するんだよ!」


 とっさに胸ポケットを抑える。そこにはパンツの感触があった。ギリギリポケットのみを切り裂いたみたいで無事だが、気のせいか小刻みに震えている様に感じる。


「チッ……!」


 パンツの無事を知ってか、蓮宮はあからさまな舌打ちをして俺に向かい合う。


「平岡さんが走り去って行った事に驚いて少し集中を切らせてしまった」


「お前、ずっとここにスタンバイしていたのか? 水野と原田と一緒に居たんじゃなかったのか」


「水野さんが一緒に居たら……そのパンツを切り裂いてあげられないでしょう。平岡さんが今日もヒデ君を誘ってくれて良かったわ。不本意だったけど」


 言いながら握っていたナイフをこちらへ突き出す。


「そのすばしっこいパンツを切り裂くには、ヒデ君ごと不意打ちをするのが一番だと思ったのだけれど……ごめんね、でも大丈夫よ、必ず仕留める」


 じりっ……と一歩、こちらへ近寄る蓮宮に恐怖を感じで後退った。


「やめろ蓮宮……俺ごとって……殺す気か」


「まさか、ヒデ君は私が守ってあげる。昨日あれから一人で調べた。その呪いをとく方法を。これはお爺ちゃんが残したナイフよ、これならすべてを無に帰せる力がある」


 蓮宮は突き出していたナイフをなんだか愛おしそうに一撫でした。

 そうか、つまり調べた結果、やっぱりこのパンツは呪いのパンツであると言う事なのか? それともこれは呪いのパンツと最初から決め付けていて、ただこいつを切り裂く方法だけをを調べたのか? もし後者だとしたら……と、昨日の帰り道の出来事を思い出す。


「なぁ蓮宮、一旦そのナイフを置いて聞いてくれ。昨日の事なんだけど……」


 言うかどうか迷っていた事だったけど、俺は昨日の出来事を踏まえてこのパンツが悪と決め付けるのは早いのではないかと手短に話した。蓮宮はその間は黙って聞いてくれて居たがナイフはこちらに向けられたままだった。


「ヒデ君……それ、本気で言っているの?」


「本気と言うか……どっちなんだろうなって、迷っている段階で、別に味方だって思ってるワケでもないんだが……」


「どう考えても目の前でそんな事故を目撃する事自体が不幸。呪いの一つに決まってる。それなのに助けられた……そんな事を言い出すなんて、すでにヒデ君はそのパンツに心を侵蝕され始めている証拠。事は一刻を争う事態になった」


 思った通りの反応か。

 俺だって最初はそう思った。けど沙月が言った様に、万が一俺を助けてくれたんだとしたらこいつを悪と決め付ける方が悪なんじゃ……。

 そう思ったら、胸がじんわり暖かくなって、間違いなくパンツが震えてる様な気がした。


「その手をどけてヒデ君」


「ダメだよ、もともと水野の大事なパンツなんだ」


 そう言ったら、蓮宮の目が一瞬見開かれ、据わった。


「……ヒデ君の血の匂いも……嗅いでみたいと思っていた……」


 ゾクリと全身に鳥肌が立つ。


「……ヒデ君がそのパンツに呪い殺されるくらいなら、私はヒデ君の手を一緒に切り刻む方を……選ぶっ!」


 ヒュッ!

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