ピンク
翌日、やっぱり枕元で一緒に寝ていたパンツを眺めながら……俺は迷っていた。
昨日の出来事を蓮宮や皆に言うべきか……。
もしも蓮宮に話したら間違いなくこのパンツの呪いだと言い出すだろう。蓮宮に何らかの霊能力があるのも間違いないんだろうが、俺の匂いに執着している蓮宮個人にとって、俺にまとわり付くこのパンツはそもそも悪だろうしな。でも万が一、沙月が言う様に俺を助けてくれた……そう、神様的なパンツだとしたら……。
そうして答えが出ないまま、昼休みとなった。またあの場所で作戦会議をする予定だ。
「徳丸君♪ 今日は徳丸君にお弁当作って来たよ。一緒に食べよ!」
「え?」
平岡梨紗。どうしてまた俺を誘いに来るんだ? しかも何で俺のお弁当作って来てるんだ? ワケが分からないがとりあえず、
「ごめん、良いよ、また皆で食べる事になってるから……」
「女の子に恥をかかせてはダメよヒデ君」
「うわぁっ!」
と、相変わらず気配を消して背後に蓮宮が立っていて、俺の首元の匂いを嗅ぎながらそう言ったのだった。
「昨日平岡さんを断ったのは知っている。しかも今回はお弁当を持って来てくれていると言うのに、これで断ったらヒデ君はうじ虫以下になってしまう」
俺の匂いに執着している蓮宮がここまで言うなんて意外だな。これを断るのはさすがの蓮宮も引くくらいに酷い事ってワケなのか。
確かに少し申し訳なくは思うが……勝手に作って来て急に一緒に食べようとか言われてもなぁ。何を考えてるのか分からない。
「みんなで話し合っておくから今日は平岡さんと食べるべき」
蓮宮にそこまで言われて、俺はようやく考えた。
確かに、怪我した平岡をほったらかしたり、昨日も謝って来たのにお昼断ったり、酷いっちゃ酷いからな。今日付き合って、もう気にしてないしこれからお弁当も要らないってちゃんと言っておく必要があるかも知れないな。
「分かった、じゃあ原田がうるさそうだし、あいつがトイレから戻る前に行くわ」
「了解ヒデ君」
そして俺は渋々平岡と屋上へ上がった。
「はい! どうぞ遠慮しないで食べてね!」
平岡は満足そうに俺の前に持って来た弁当を広げた。量もだいぶあるし、うん、味も悪くない。
「美味しい? 少し味付け濃かったかなって思ったんだけど」
「いや、ちょうど良いよ」
「良かった!」
ああ、本当はこう言うの聞かれなくても言ってやらなきゃダメなんだろうな。うーん、何だか平岡と居ると、この間の事がトラウマになっているのか、何かにつけダメ男認定されそうで居心地の悪さを感じるな。こんなのは俺の被害妄想で、平岡はそんな事を考える子じゃないって思うけど。
「本当に良かった……」
そうしみじみと言う平岡に俺は不思議な気持ちになる。
「大袈裟だなぁ。何もそこまで……」
「だって! 徳丸君がじゃあみんなと一緒にって言い出したら嫌だなって思っての。あたし、今日はどうしても徳丸君と二人っきりが良かったから」
意味深にそう言う平岡が何を考えているのかますます分からなくなる。
俺に気があるとは到底思えないし……ファンクラブに入っていない俺が他生徒と比べて自分に興味がない事も知ってるよな。
何故なら平岡梨紗ファンクラブは本人公認だから誰が入っているか把握している筈だ。
学校全体でかなりの人数が居るが毎月リストが更新され、平岡本人がそれをチェックしていると言う。そしてそのリスト全部を覚えていて、たまに声を掛けてくれるのだそうだ。
あの量を覚えて居るところが凄い、優しいと評判になりどんどん会員は増え続けている……と、一年の時に早々にファンクラブに入った原田から聞いた。
「あ、ねぇこれも食べてみて」
平岡が俺の前に広げている弁当箱に近寄り、あんかけがかかってる肉団子を自分のフォークに刺した。こちらに体を向けるので不可抗力で平岡の胸が腕に当たる。気付いてないのかなこれ。
「あんかけもミートボールもお手製なんだよ。はいっあ~ん……」
なっ……。
「いっ……良いよ、自分で食べるから」
「あははっ! 照れてるの? 良いじゃないこれくらい。あたし……反省してるんだ……徳丸君にちゃんとごめんなさいしたいの。大事な物をしつこく見せろって言ったり、絆創膏を買って来てくれたのに友達とさっさと帰っちゃったり……。もし自分が同じ目にあったらって考えたらすごく悲しかった……。だから……ね! あ~ん」
何がだからなのか分からない。ごめんなさいなら口で言うだけで良い。でもこれ以上ぐいぐいと肉団子と胸を俺に押し付けられるのは困る。ので、
「あ……あ~ん……」
パクッ。お、美味い。
「ふふっ、どう? 美味しい?」
「うん」
「じゃぁもう一つどうぞ! あ~ん」
屋上で昼休みを過ごす他の生徒たちがこちらをチラチラ見ているのが分かる。
平岡は有名人だ。その平岡が無名の男子生徒と共にお昼ご飯を食べ、そいつに、まるで恋人の様に振る舞っていたらそりゃ見られるよ。平岡にはそこんところを自覚して欲しい。あと胸を押し付けている事も自覚して欲しい。
「もうさ、大丈夫だから、こう言う事しなくて良いよ」
「……え? どうして? 迷惑だった?」
「違うって。もうお詫びなんて口で言えば十分だし、俺も悪かったし、ファンクラブの連中に殺されてもおかしくないだろうこの状況」
「あっ! 大変!」
話の途中で平岡がフォークに刺そうとしたうずらの卵がつるりと滑って弁当箱から飛び出してしまった。そのままコロコロと前方に転がって行く。
「逃げられちゃった」
平岡は困った様な笑顔を俺に向けた後、膝の上の弁当箱をどかしてうずらの卵を拾いに行って無防備に屈む。
ピンク。
そう思った時に平岡がハッとお尻のスカートを抑えながら素早く立ち上がった。




