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ジンクスパンツ ときどきノーパン  作者: 焼肉一番


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18/35

本当に……知りたい?

 ふーん。


 フンドシってつまり今で言うパンツみたいなもんの事だよな。今は祭りでもなければ誰もフンドシなんかはかないし関係なさそうだな。

 俺はまだ続きがあるそれに興味を無くし、途中でその本を閉じた。


「英彦君、何か分かりそうな本あった?」


 水野が両脇に小難しそうな本を抱えながら俺に聞いて来た。


「いや、昔空飛ぶフンドシがあったんだとさ」


「空飛ぶフンドシ?! すっ……凄いね……」


「なー。でも今更フンドシとか言われても関係ないよなー。時間の無駄だったわ。次あたるから水野も外れ引かないように頑張れよ?」


「う……うん」


 えーっとこっちは……。

 強い思念の具現化について……か。

 強い思いはそれにふさわしい器、憑代を介す事によって具現化する……意味分からんな。もっとこう呪いについての本はないのかな。


 その後、各々黙々と本を手にとっては何か役に立ちそうな文献はないかと探したが、特に発見はなかった。

 いやそれどころか、真面目に探していそうなのは水野だけで、原田は早々に寝てしまったし、蓮宮は気が付くと俺が触った本を鼻にこすりつけて匂いを嗅いでいた。


「おいっ、何やってんだよ……」


「もともと大好きな本の匂いにヒデ君スメルが合わさってとんでもない事になっている。止められない。今日はもう暗くなるから帰って。早く帰って。ヒデ君が触った本を一刻も早くすべてスメリングしたい。ちゃんと調べてもおくから! 早く帰ってよ!」


 蓮宮が壊れてしまったので、どうする事も出来ずにその日は解散した。

 結局……何の成果も得られなかったわけだ……。


「じゃなー! 英彦! また明日パンツ見せろよ?」


 見せろと言い放っているのは水野のパンツで、その水野は今隣りに居るのだが……。デリカシーの欠片もないとはこの事だな。

 原田と別れ、方向的にしばらく水野と二人きりになる時間があった。何だか水野は落ち着かなさそうにしているが、まぁそれは割といつもの事である。


「蓮宮さんの蔵、すっ……凄かったよね」


「ああ」


「すでに色々と把握してるみたいだし、蓮宮さんは、本当に、凄いし……、本当に、英彦君の事、大好きなんだね……」


 蓮宮本人以外からこんな事を言われるのは初めてではない。誰が見ても好意があからさまなんだろうが、正直俺自身はピンと来ていなかったりする。

 だって匂いが好きって……。

 香水なんて興味ないしシャンプーだってどれでも良い。そんな俺からしてみたらそれが恋愛に繋がるとは思えないのだ。


「まぁ今回はちょっと……、ちょっとだけ頼もしくもあるけど、空飛ぶパンツなんて、オカルト同好会会長にとっちゃ垂涎のネタってだけだろ」


「そっ……そうかな……」


 小さく、だったら良いなと水野が続ける。


「?」


 何がだと聞こうとしたら、おもむろに水野は話題を変えた。


「あ、ねぇ英彦君、あの、ね、英彦君が読んでたフンドシの神様の事なんだけど……」


「あー」


「あの後気になって、私も読んじゃったんだ。それでね……」


「関係ないの読むなって言ったのに……それで?」


「ごっ……ごめん、それでね、あれってつまり大事にしていたものに持ち主の想いが宿って、それで小さな神様が生まれたんだって話しだったよね?」


「うー? うん」


 そんな話だったっけ?

 一応区切りが付くまでは読んだけど関係ないと思ったから正直あんまり覚えていないな。死者の魂が宿ったんじゃなかったのか?


「似てない?」


 俺が曖昧な返事をしたにも関わらず、水野は熱心な目でそう俺に続けた。


「似てる?」


「うん、蓮宮さんはこれは呪いだって言ってるけど……もしかしたら、私が大事にしてたから、それでフンドシの神様みたいに、動き出して……」


 思わず吹き出す。

 フンドシの神様とか言うおとぎ話を真面目に語る水野がおかしくて。


「ぷはっ! フンドシの神様ならぬ、現代版パンツの神様だってのか?」


「うん! そうそう!」


 あるわけないじゃないかと言うニュアンスをふんだんに含んで言ったのに、水野にそれは通用しなかった様だ。うんうんと更に熱を込める。


「そうそうってお前……もしそうだとしたら動かしたのは水野、お前だって事にならないか? だってそんな話だったんだろう? 何か特別な持ち主の想いってのがなければ動かない筈じゃないか」


「うん! そう!」


「だろ?」


「うん!」


「……だからさ……」


「うん」


「何か思い当たる事でもあるのか? パンツを動かす程の想いに」


「……そ……れは……」


 ちっとも俺の言いたい事が伝わらない水野にそう言うと、さすがに歯切れが悪くなった。

 どうやら懇切丁寧に説明しなくてもいかにその説が突拍子もないか分かってくれたらしい。


「だろ? そうだったとして、それで持ち主の水野の元を離れて俺に纏わり付いているのもおかしな話だしな」


 水野が見て取れるほど意気消沈している。

 大事なパンツを呪いのパンツではなくて神様のパンツだと言いたい気持ちは分からないでもないが、あのフンドシのおとぎ話と繋げるのはいささか無理があるってもんだ。


「仮にだけど……もし私にパンツを動かす程の想いがあったとしたら、それで飛んじゃってるんだとしたら、英彦君はどう思う?」


「どう思うって……気になるかな」


「気になる?!」


「ああ、何をどんなに思ったらパンツ飛んじまうんだよって……思う……ふ」


 言ってておかしくなって少しだけ笑ってしまう。笑い事ではないのに。


「つまり……その……想いの正体を、知りたい……って事?」


 隣りで俺の顔をちらちら見上げながら、いまいち良く分からない事を聞いて来る水野。そう言う言われ方をすると何だか違う様な気もするが間違いではない。


「まぁそうだな」


 言いながら水野の方を見ると、水野は何故か真っ赤になったその顔をサッと逸らしてしまった。そのまま俯き歩き、何やら「ううう」と呻っている。


「水野? どうかしたか?」


 制服のスカートの裾を両手でギュッと握りしめてのろのろ歩いていた水野はとうとう、その足を止めてしまった。

 俺も立ち止まり、もう一度どうしたのか聞こうとしたところで水野が口を開く。


「おい水……」


「本当に……知りたい?」

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