表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ジンクスパンツ ときどきノーパン  作者: 焼肉一番


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/35

平岡梨紗

 ――翌朝。

 まったく妙な夢だったと眠い目をこすりながら目覚まし時計をとめると、枕元でパンツが一緒に寝ていた事に気が付いた。


「はぁ……お前なぁ…………はあぁ……」


 自由なパンツの行動に溜息、そんなパンツに「お前」と話し掛けてしまった自分に深い溜息。朝から憂鬱な気分になった。

 しかもだ、パンツは何をどうしても絶対に俺に付いて来ようとして暴れた。

 部屋に閉じ込めてみてもドアに体当たりして騒音を出すし、紐で机の脚に縛り付けてもあっさり縄抜けする。

 仕方がないので俺はそれ以上頑張らずに、昨日と同様、パンツをブレザーの胸ポケットに入れて登校した。


 学校に行けば事情を分かっている人間も本来の持ち主も居る。

 今後どうするか考えなければならないし、やはり持って行くしかないだろう。そう考えながら、昨日よりも随分とこの非日常に慣れてしまっている自分に驚く。


 パンツをどうにか部屋に置いて来ようと少々手間取ったので、また早めの登校は出来なかった。前後左右、同じ学校へと向かう生徒たちに囲まれ落ち着かない。そしてあろう事か、昨日「ひどい男」認定をされた平岡梨紗を斜め前方に発見してしまう。

 昨日はごめんね等と自分から声を掛けてやれば少しは緩和できるのかも知れないが、昨日同様、胸ポケットにパンツが入っているのだ。そんな危険な真似をする必要はなし。まぁ気付かないふりで良いかと視線を逸らそうとした瞬間に、ふと平岡が俺に振り返る。

 何と言うか……勘の良い女だ。

 うっ……と思って視線を下げると、膝にはまだ絆創膏が貼られていた。少しだけ胸が痛んで、覚悟を決めて平岡に声を掛ける。


「あー、おはよう。膝、だいじょう……ぶ……」


 全部言い終わる間に、平岡にプイッてされた。プイッて。

 はは。女って本当にこんなんするよな。沙月も良くやるもんな。あ~あ。やっぱ話し掛けなきゃ良かった。


 教室に入ると、水野はやっぱりすでに席に着いていて、俺を見つけるや否やハッと立ち上がった。どうやらずっと教室の入り口を見張っていたみたいだ。

 そしてつい立ち上がったものの、俺がちゃんと水野の隣である自分の席へ向かって来るのを確認すると恥ずかしそうにもう一度座った。


「おはよう英彦君! よ……良かった、今日来ないかもって思っちゃった」


 平岡と違って歓迎されている。まぁ大事なパンツを持ってるわけだからな。母さん曰く、宝石みたいなものだと言う大事なパンツをな。


「正直……あんまり来たくなかったよ」


 そう言って俺は自分の胸ポケットを指した。ここに、入ってるぞと教える為だ。


「ご……ごめん……」


 水野はすぐに理解し、下を向いて小さな声で謝った。


「良いよ、それより何か原因なり取り戻す方法なりは思い付いたのか?」


「ごめん……」


 俺の質問に、水野は先程と同じ単語で答えた。


「はぁっ……。とりあえず昼休みまたあそこで話そう。俺も一緒に考えてやるから」


「了解よ。私も今日は良い提案を持って来たの。スンスン……グッドスメル……」


「なああっ!! やめろ蓮宮!」


 いつもの様に音もなく背後に現れ、おもむろに匂いを嗅ぐ蓮宮に俺は慣れる事が出来ない。毎回そこそこのリアクションをしてしまうし毎回やめろと言う。しかし慣れてしまったら何だかおしまいな気がするから俺は絶対にやめろと言い続ける覚悟なのだ。


「良い提案? それって?」


 水野がそこに食らい付く。


「勘違いしないでね水野さん。あなたの為じゃなくてあなたのパンツに振り回されているヒデ君を……」


「わーわーわーわーでかい声で言うなそう言う事をーわー」


「分かってる……でもありがとう、ごめんね」


 素直にそう言う水野を見て、蓮宮はそれ以上は言わなかった。まぁ良いわと捨て台詞を吐き、昼休みにあの場所でと約束をした。


 学校にも家にも、このパンツの理解者を持った事によって昨日の様に休み時間の度にこそこそ逃げる様な事はしないで済むのは救いだ。

 ……ところがだ、何故かいざ昼休みと言う時間になり、俺が席を立つとパタパタと平岡が走って来てこう言うではないか。


「徳丸君っ、お弁当一緒に食べよっ?」


「……え?」


 今まで一度も、俺は平岡と一緒に昼休みを過ごした事などない。

 人気者の平岡は俺なんかと一緒に居なくてもいくらでも他のグループに入れる。そもそもお昼を一緒に過ごす奴は何か事情がない限りは突然変わるものではない。


 事情……ああそうか、事情なら、ある。


 今朝のあの平岡の態度、あれは昨日の事を根に持っているで間違いないんだ。俺は昼休みに女子軍団に囲まれて謝れだの何だのと責められるのでは……。


「ごめんね、今日も持ってきてるんでしょ? あのハンカチ。きっと妹さんのとかじゃなくって、大事なものだったんだよね?」


「……」


 そう微笑む平岡の言葉に、俺は面食らった。

 俺が今日もハンカチ……まぁパンツなんだが、昨日と同じものを胸ポケットに忍ばせていると見抜く洞察力。そしてその事情を自分なりに解釈して素直に謝れる柔軟性。昨日の事を根に持って集団で俺を責めるだなんて、俺は平岡梨紗を見くびり過ぎていた様だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ