表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ジンクスパンツ ときどきノーパン  作者: 焼肉一番


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/34

揉み洗い

 洗濯機の中には他の洗濯物も少し入っていて、すでに入っていた洗濯物の上にふわりと身を横たえている。


「おい、お前は今日役目を果たしていない。誰にもはかれていないんだからな? だから洗濯する必要はない」


 なに俺はパンツに話し掛けてんだ。

 だいたい、こんなものを一緒に洗ってもらったらおかしな事になる。大人しく干されるとも思えない。そう思って取り出すが、ポケットにしまおうとするとまたするりと抜け出して洗濯機の中へ飛び込む。


「くっ……!」


 非常にまずい事になった。こんな事沙月にばれたら今後一生白い目で見られる! 

 両親は息子が女物のパンツを隠し持っていたと知ったらどんな気持ちになるだろう!


「……分かった、洗ってやろう……。ただしそれはダメだ。俺が今から手で洗ってやるからそれで納得してくれ。良いか? 手洗いだぞ? 洗濯機で洗われるよりずっと贅沢な事だ。な? 良いな?」


 こいつと意思の疎通が出来るかどうかは賭けだが俺は必死にパンツに訴えた。

 開けっ放しだった洗面所の引き戸をそっと閉め、先に洗面台に水を溜めて、そこに洗濯用の洗剤を流し込む。そしてそれを泡立たせてからパンツを掴み、


「ほぅら、こいつで洗ってやるから……な? よーしよし良い子だ……」


 優しく話し掛けながらそこへ誘導する。


 ちゃぷっ


 パンツに言葉が通じたのかどうかは分からないが、何とかパンツは大人しく俺に手洗いされてくれる気になったらしい。

 そして俺は出来るだけ丁寧に……丁寧に丁寧に、水野鈴音のパンツを、揉み洗いした。

 別におかしな気分にはならない。

 それよりも今誰か来たらどうしようと言う焦りの方が大きくて到底そんな感情は……。


「おにぃ~? いつまで手ぇ洗ってんのぉ~?」


「あっ」


 さっき閉めた洗面所の引き戸がガラリと開いた。

 こいつの足音に気付かなかったなんてどうかしている。

 誰か来たらどうしようって、そっちの方に気持ちは集中していたはずだ。決して水野のパンツに集中していたワケじゃない……はずだ!


「ん? ん? んんん~~~??」


 沙月がぐいぐいと洗面台の中に突っ込んだまま動けなくなっている俺の手元に顔を近付けてくる。


「……おにぃ……何で女物のパンツなんか洗ってるの……?」


「いや……これは……ちが……」


「お母さ~~~ん! おに……むぐぅ!!」


 思ったよりも冷静そうに見えたのでゆっくり事情を説明しようとした瞬間に沙月は大声を出した。

 思わずパンツをそのままに、濡れた手で沙月の口元を抑える。もちろん洗剤だらけだ。


「ぷあっ……にがっ……お母さ……」 

 

 沙月は大いに暴れて母親に助けを求めようとする。

 俺は必死で沙月を抑えつけながら耳元で言ってやる。こいつが大人しくなる呪文を。


「大人しくしろ沙月! クールピンキーの新刊見たくねぇのか?! 来月発売だぞ!」


 案の定、沙月はピタリと暴れるのを止めてくれた。

 それを確認し、ゆっくりゆっくり手を離す。沙月はそのまま大人しくしていたが、俺の手が完全に離れると、掛けてあったハンドタオルですぐさま口元をゴシゴシ拭いた。


「悪い……苦いの飲んじゃったか?」


 そう声を掛けたが沙月は無言だった。そうしてゆっくりと俺に向き直り、真っ直ぐに俺を見る。一瞬流れる、不毛な時間……。


「……」

「……」


 これはおそらく、どういう事なのかと説明を求めているのだろう。そう思って俺が洗面台の中のパンツに視線を戻した途端に沙月は絶叫した。


「うぉ母さあぁぁ~~~~~ん!! お兄ちゃんがああぁぁ~~~~~!!」

「うわああああああああ!!! お前! 騙したな!」


 騙してない! 騙した! と、良く分からない言い合いをしている所へとうとう母親がやって来てしまった。クールピンキーも通用しないとは!


「なになになにもう~~何なの~~? ご近所迷惑になりますよそんな大声を出して~」


 智子、四十一歳、専業主婦登場。得意料理はオッソブーコ。もともと女の子が欲しかった様で沙月を甘やかしている。


「お母さん! おにぃが変態なの! 洗面台の中見て!」


 沙月は言いながら母さんの懐へ飛び込んだ。


「どうしたのよ沙月ちゃん……え? 洗面台の中?」


 洗面台の中を漂うパンツは、すっかりその姿を広げ、一目見てそれと分かる状態であった。


「あらお兄ちゃん、沙月ちゃんのおパンツ洗ってくれてたの? 何か変なシミでも付いてた?」


「お母さんのバカ! バカバカバカ! シミなんて付いてないよ! それにそれ沙月のパンツじゃない!」


「まぁ……沙月ちゃんのじゃなかったら一体誰のおパンツなの?」


「知らない! だから変態なの! おにぃが変態なの~~!!」


 沙月のパンツだとして、妹のパンツを手洗いする兄ってのも十分変態だろうが。


「お兄ちゃん? 沙月ちゃんが怖がっているわ。どう言う事なのか説明して? お母さん男の兄弟が居なかったからあなたの気持ちを分かってあげられないかも知れないけど……もしお母さんに言いたくなかったら夜お父さんに……」


「あああもう~~違う違う違う違う! だから大袈裟な事にしないでくれよ!」


 洗剤の付いた手で思わず頭を掻きむしりたくなる。

 ぎゃーぎゃーうるさい妹に、思春期の男の子だから……と、なんか気を使ってる感じの母親。もうどっちも止めてくれ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ