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病室ラブコメは、俺をいじめてた美少女を膝に座らせるところから始まった。  作者: 創綴世 優


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01 いじめっ子との再会


 俺、黒瀬(くろせ)颯太(そうた)は精神科病棟に入院していた。


 原因は、いじめだ。通っていた高校で、俺はある一人の女子に目を付けられ、長期間にわたって激しい嫌がらせを受けていた。


 俺をいじめていたのは、白石(しらいし)柚奈(ゆな)

 暴力はもちろんのこと、机や黒板に悪口を書く、嘘の噂を流すなど、いじめの方法は多岐にわたっていた。

 他のクラスメイトとの会話や交流は全て妨害され、白石はとにかく俺が孤立するように仕向けてきて、実際に俺は孤立した。

 

 いじめは高校に入ってすぐに始まり、二年生になっても続いていた。

 そして、長期に渡る凄惨ないじめに精神を病んだ俺は、ついに不登校になり、総合病院に入院したというわけだ。


 ――しかし、話はここで終わらない。

 俺には、不登校になった時点で、とある計画があった。

 むしろ、それを果たすために入院した、と言っても過言ではない。


 というわけで、計画のために『その日』を待つ俺は、今日もベッドで病室の扉を眺めているのだった。


☆★


 その日は、思ったよりも早くやってきた。


 病室の入り口に立つ、大人しそうな可憐な顔立ちと清楚な佇まいの美少女。

 黒くさらさらな長い髪をなびかせ、こちらを見つめている彼女は――紛れもなく白石柚奈だった。


「ごめんなさい……本当に、ごめんなさい……」


 病室を訪ねてきた彼女は、開口一番に謝罪の言葉を口にした。


 扉の枠を掴む指先は、白くなるほど力んでいる。


「……私のせいで、こんなことに……ひぅっ……ぇぐっ……全部、ぜんぶ私が……っ」


 嗚咽(おえつ)に近い声で自責と謝罪を繰り返す彼女の言葉は、消え入りそうなほどに細く痛々しかった。


 自分のいじめが俺を入院まで追い詰めたと知って後悔し、ここに来るまでの間、よほど思いつめたのだろう。


 こちらを見る彼女の目には、申し訳なさの色以外にも、拒絶されることに対する「怯え」のようなものが滲んでいた。


「許されるわけないって分かってる……でも、私なんでもするから……一生許してもらえないとしても、黒瀬くんが元気になるまでずっとそばにいて支えるから……ぐすっ……」


 目尻に涙を浮かべながら、祈るように手を胸の前で組む白石。


 そんな贖罪(しょくざい)の言葉を口にする彼女の目は、怯えの裏に、確かな決意を孕んでいた。


「ねえ、おねがい……何か言って……」


 そのままの瞳でこちらを見つめながら、近づこうとして一歩踏み出しては、また足裏を引き戻す。

 同時にしている手を伸ばしかけては引っ込めるような動作にも、彼女の心が強く映し出されている。


 ……許されるつもりはなくても、〝拒絶されるのは怖い〟のだろう。


 俺は彼女がこういう反応を見せる()()を知っているから、不思議には思わない。


 俺は短くため息を吐いて、ここで初めて口を開いた。

 

「まあ、とりあえず座れよ」


 俺の言葉を聞いて、白石は驚いたように目を見開いた後、少しだけ表情を明るくした。


 「帰れ」と言われるのを予想していたのか、それともこのまま無視されると思っていたのか。

 ひとまず、ここにいることを許されたというだけのことが、彼女にとっては救いになったようだった。


「うん……ありがとう……ごめんなさい」


 涙をぬぐう白石。病室をきょろきょろと見回すと、部屋の隅に置かれていた丸椅子を見つけて座る。


 その動作を見終えた俺は……即座に抗議の声を上げた。


「違うだろ」


 白石の肩がびくりと跳ね、椅子の脚が床を擦る。


「……えっ? あっ、違ったかな……ごめんなさい……えっと……」

 

 白石は焦って立ち上がり、再び周囲を見回す。

 間違えてしまったという焦りと、他にどこがあるんだろうという困惑。


「えっと、えっと……。……あっ! そうだよね、私が椅子なんかに座っていいわけないよね……! ごめんなさい、私ったら調子に乗って……っ」


 そんな、まるで「間違いないこれだ!」というような声色と共に、床に座ろうとする白石。


(……なぜそうなった)


 スカートの裾をそっと押さえ、膝を揃えてしゃがみかけている。

 俺は静止の声を、今度は座りきるよりも前に上げた。


「違う、汚いからやめろ」


 正解を見つけたと思っていたらしい白石は、少しの間キョトンとしたあと、また焦った様子で立ち上がった。


「えっ、違うの……? ごめんなさい、えっと……えっと……」


 今の彼女には、俺の言葉を疑うという選択肢はないようだ。言われたままに自分が間違っていると信じ、とにかく真剣に正解を探している。


「……あっ! え、その、もしかして……え、でもいいのかな……?」


 何かを思い当たった様子の白石が、ためらいがちにこっちを見る。


「思いついたなら、とりあえず試してみれば?」


「う、うん……じゃあ……その、間違ってたらごめんなさい……」


 謝罪が多いな……なんて考えながら、白石の行動を見届ける。

 白石はおそるおそるといった感じでこちらに近づくと、俺が座るベッドの、少し離れたところに腰を掛けた。


「ど、どうですか……合ってますか」


「違う」


「だ、だよね……っ!? こんな近くに座るなんて許されるわけ……ごめんなさい、離れます……」


 跳ねるように立ち上がる白石。


 ……何か誤解しているようだが、まあいい。


「で、どこに座るんだ? まだ分からないのか」


「え、えっと……でももう他にないような……」


「はぁ……」


 俺はわざとらしくため息を吐いて、


「もっとよく探してみろよ、本当にもう座れるところはないか?」


 まるで「座るべき場所が他にある」とばかりに問いを続けた。


 俺の言葉を聞いた白石は、再度辺りを見回す。


 ――おそらく今の彼女は、今度こそ正解を導き出そうと頭をフル回転させているだろう。


 部屋中を駆け巡った視線が全ての物を確認し終えると、彼女の目線は――最後に、俺に結ばれた。


「…………えっ?」


 白石の喉から、間抜けた声が漏れる。


「……え、えぇっ!?」


 続けざまに漏れた声は、驚きを隠す気がない声量だった。


「……いやいや、そんなわけないよね……でも、他にはどこも……」


 混乱した様子できょろきょろと辺りを見回しながら、真っ赤になった顔を再びこちらに向けてくる。


「どうした? 分かったなら座れよ早く」


 俺の催促に、彼女の喉が一度だけ上下する。


「っ……! で、でもその、もし間違ってたら……」


 白石が恥ずかしさと困惑が混じったような表情でこちらを見てくる。


「けど、他の可能性思いつかないんだろ?」


「~~っ、うぅ……でも、私がばかすぎて思いついてないだけかもしれないし……。

 ……あの、今考えてる場所は、なんていうか、その…………」


「あーもううるさいな。なら試してみろよ、間違えても怒らないから」


「あぅ……じゃ、じゃあ、その…………し、失礼します……っ」


 ついに観念した白石は、震える足取りでこちらへ近づいてくる。

 その顔は湯気が出そうなくらい赤く染まっていて、彼女の心境を分かりやすくさらけ出している。


 やはり、白石は俺がそんなことを言うわけがないと思っているのか、目前まで来てもまだ躊躇った様子でもじもじとしている。


 しかし、俺が何も言わないのを見て、本当に合っている可能性も見えてきたのか――白石はゆっくりと後ろを向き、「どうにでもなれっ!!」という感じで、ふるふると震える腰を下ろした。


 ――肩が触れそうなくらい近い距離で、俺の真横に。


 その肩はぷるぷると震えていて、一目見ただけでも緊張していると分かるほどだった。


「ど、どうですか……っ」


 震える声で、絞り出すように確認をしてくる。

 俺はまたわざとらしくため息を吐き、呆れたような口調で、


「違う。そんなわけないだろ」


 そう言って、彼女の答えを一刀両断した。


「あっひゃいっ!! ごめんなさいいぃっ!」


 否定された瞬間、白石は今までで一番の勢いで飛び上がって、そのまま部屋の隅まで跳び退いていった。

 そのまま、部屋の隅で顔を真っ赤にして震える白石は、


(やっぱそんなわけないよね……うぅ、やっちゃった……)


 と、いうような顔をしている。

 俺はそんな白石に――さらに追撃をかける。


「まだ分からないのか? ……というか、もう選択肢は一つしかないだろ」


 病室の隅でしゃがんでいた白石の顔が上がる。


 俺の言葉を聞いて目をぱちくりとさせる白石の脳裏には、きっと大量の「?」が浮かんでいることだろう。


 ――なぜなら、白石はさっきので全ての選択肢を試したと思っている。有り得る選択肢は全部考えて、恥ずかしいことでも勇気を出して実践した、と思っているはずだ。


 ――だが、違う。


 これは嘘をついて白石を弄んでいるわけでも、いじめの仕返しに嫌がらせをしているわけでもない。


 俺の中にある答えは、最初から一貫して変わっていないし、白石はその正解に一度も辿り着いていないのだ。


 ……いや、一部だけ訂正しよう。嘘はついていないが、弄んではいるかもしれない。


「え? え?」


 きょろきょろと、困惑した様子で再度病室を見回す白石。

 彼女の視線はしばらく宙を彷徨(さまよ)って、完全な迷子状態になっていた。


 ――しかし、ふと、彼女の視線が止まった。

 止まった視線は、一つの場所に結ばれている。


 そして、その瞬間――白石の顔が、みるみると赤くなっていった。


「えっ、えっ……えぇっ!?」


 茹ダコのように赤くなった彼女から、驚きの声が飛び出す。

 どうやら、新たな可能性に辿り着いたようだ。


 いや、選択肢自体は既に思いついていたものの、それだけは絶対にないだろうと思考から除外していたのかもしれない。


 それを、俺が「あと一つしかない」なんて断言するものだから、再び選択肢に浮上してしまった――といったところだろう。


(……まあ、最初からそれが狙いだけど)


 白石の驚きはまだ続いている。


「えっ、えっ……えええええぇ!?」


「なんだ、分かったのか?」


 混乱状態の白石に、俺はわざとらしく問いかける。

 

「え…………これ、合ってるの……?? 合ってるなら私は大歓……じゃなくて!! ……いや私なんかがそんなのダメに決まって……、うぅでも黒瀬くんがいいって言うならいいのかな……? いや、でもそんな……っ」


 ぶつぶつと念仏のように呟いて思考を巡らせる白石。

 何やら自分の中で葛藤をしているようだ。


「ふーん」


 ここで俺は、元より計画していた、とどめの一撃を刺す。


 困惑が続いて、完全に混乱しきっている白石に対して、俺は――


 ――膝をぽん、と叩いてみせた。 


 部屋を行ったり来たりもじもじしたりぶつぶつ呟いたりと、挙動不審だった白石が完全に止まる。


 そして目を見開いたまま、仕草が終わった手を凝視している。


「来ないってこと? 来ないなら……」

 と、動作をやめるような空気を出す俺に対し――予想通り、白石がすぐに反応した。


「やっ!! あの、ちがっ……!! ……ううぅ~~……!! ……い、いきます…………」


 そんな面白い反応と共に急いで目の前まで戻ってきた白石は、真っ赤な顔を両手で覆うと、おそるおそる後ろを向いた(つまりお尻を向けてきた)。

 指先が裾を探り、スカートがかすかに震える。


「……ほんとに、いいの……?」


 ぷるぷる振るえる腰を、既にじわじわと下ろしながらも、最後の確認をしてくる。


 ……が、俺はあえて何も答えない。


「うううぅ~……」


 俺の意地の悪さを理解したであろう白石は、抗議のような声を上げながら……


 ……そのまま、ちょこん、と。


 白石の尻が、俺の膝の上に乗った。


 膝の上で一瞬、スカートがふわりと開き、白石が小さく息を呑みながらそれを押さえる。体温が布越しに移り、俺の膝にはわずかに沈む感覚が残った。


「うぅ…………合ってますか、これ…………っ」


 恥ずかしさで爆発しそうな様子で確認してくる白石。


 ――また「違う」と指摘される可能性ももちろん考慮していただろう。


 ……だが、ここでそんな返しは用意していない。


 ――そう。

 紛れもなく、正解はこれである。


「……? ……?? ……???」


 俯いた頭の上から「しゅうう……」と音が聞こえてきそうな白石は、完全にショート寸前のご様子だ。

 俺の膝の上で借りてきた猫状態になった白石の顔は――頬どころか、耳の端まで赤く染まりきっている。

 そして、石のように体をこわばらせ、膝の上で小さく丸まっている。


 そんな白石が面白いので――俺は、その赤くなった耳を指先で軽くつまんでみた。


「――ひゃっ!! ご、ごめんなさいっ……」


 耳を触られた白石は、膝の上でびくっと跳ねたあと、なぜか謝ってくる(が、降りはしない)。


 今の「ごめんなさい」は、入室してきたときとは声色もトーンも全然違っている。


 まあ、〝なんとなく謝っちゃった〟といった感じだろう。


 俺はその反応が心地よくて、


「なにが? てか座り心地はどう?」


 とぼけてそう尋ねた。


 その質問に、白石はさらに顔を赤くする。 


「……えっと……あの……さ、最高です……」


「そう、ならいいけど。……てかここまでたどり着くのにめっちゃ時間かかったけど、他の場所に変えてもい――」「いいえここでおねがいします!!!!!!」


 ……場所を変える提案をしてみると、食い気味に断られた。

 まあ、今の提案自体は嘘なんだが。思った以上に反応がいい。


「……そ」


 短い了承と共に、俺は白石の頭に手を置いて、少し引き寄せた。

 白石はびくっと反応するが、そこに拒絶の色はない。


 そのまま俺に体を預け、大人しくなった白石は……自然に、ある言葉を口にした。


「――」 
















































 ――好き、と。



 もしこの一連の流れを見てる人がいたなら、白石の一言は突拍子のないものに感じたのかもしれない。


 なにせ、白石は一年もの間俺をいじめ続け、不登校と入院に追いやったいじめっ子――なのだから。


(――まあそれを言うなら、この膝の上に乗せてる状況が既に突拍子もないわけだが)


 そして、この状況を一番理解できないのは、現在進行形で俺の膝に乗ってる白石だろう。


 ――けれど。今の告白に対する俺の返答は、決まっていた。


 一呼吸だけ視線を落とし、言葉の重さを整える。



 真っ赤に染まって俯く白石を傍らに、俺は一言、


「知ってる」


 そう呟いた。

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