美男美女しか赦されない王族
ズラリと並ぶ肖像画。
歴代、この国の王族には、美男美女しか存在しない。
肖像が、美化されているわけではない。
絵では、表しきれぬほどの美貌を持つ一族。
当然といえば、当然。
彼らは、美のためだけの存在でもあるからだ。
初代の王は、聖女の恋人で、村長だった。
かつては不毛の辺境であったこの土地を、聖女とともに、豊饒の楽園へと変えた。
二代目は、女王だった。
魔王降臨による混乱に、終止符を打った勇者。
そんな彼と結婚した王女が、そのまま女王となった。
以降、飢饉や魔王の再臨に直面するたびに、時の王子や王女たちが、聖女や勇者に輿入れし、その伴侶として王となった。
聖女や勇者は、異世界召喚によって呼び出される。
彼らの多くは「容姿至上主義者」であったため、この国に繋ぎとめるのは、容易なことでもあった。
◇
私は、捨て子である。
この国の王族に生まれながら、今は貧民街で生活している。
赤子の頃は、歴代でも屈指の美しい顔立ちをしていたらしい。
だが、三歳あたりから、容貌が崩れはじめ、今では街のどこにでもいる、平凡な見た目となっていた。
母は、この王国のミスコンで、三年連続で優勝するほどの美女であった。その容貌を買われ、王族入りした元・町娘だ。
私の美貌が崩れはじめた頃、母の立場も危うくなった。
美男子を生む才能がないのではないか、と内外から誹謗中傷を受けた。
しかし、弟が生まれ、順調に育ち始めたことにより、彼女の立場は安定し、私は晴れて、城外へと捨てられることになった。
次は「飢饉が訪れる順番」なので、召喚する聖女のために「美しい王子の準備」は絶対であった。
◇
「ねえ、貴方ひょっとしてアーデルハイト?」
雨の中、うずくまっていた路地裏。
頭上から、猫なで声の女の声が聞こえた。
見上げると、歴代聖女が身にまとっていたローブを羽織る、見るからに異世界人の風貌(平たい顔)の女が立っていた。
「あー、やっぱり!ステータスに<呪いをかけられた元・王子>って、ビンゴだわ!」
「えっ、あっ……(呪いをかけられた、っていったい何だ?)」
「まあまあ、このくらいの<状態異常>。お姉さんにかかれば、ちょちょいのちょいなんだから。えーと、なんだっけ……そうそう、<ブレイク・カース>!」
―― バキ、ボキボキ。
顔面が、音を立てて、変形を始めた。
痛みはなかったが、自分の顔が別の生き物かのように、数瞬、暴れ続けた。
「ちょっ……うはー、まじか!ちょっとヤバすぎなんですけど♡ 弟君もヤバかったけど、これは段違いですわ(ハァハァ)」
聞けば、弟もかなり美男子であったが、ステータスに<この国で二番目の美男子>とあったため、この女は、必死に私を探して回っていたらしい。―― 「どうせ呪いかなんかで、あれなんでしょ?」と、王城の制止を振り切って。
「で、どうする? このまま、また城に戻る?」
「えっ……」
「お姉さん的には、この国のことなんてどうでもいいし、アンタに呪いをかけた犯人も知ってるんだけど、アンタはどうしたい?」
「え、あっ……はい?」
私に呪いをかけたのは、腹違いの姉の・ヒルデガルトであった。次が勇者の番ではなく、聖女の番であったため、彼女自身には直接の価値はなく、女王になれぬことに立腹しての、逆恨みであったという。
ヒルデガルトは、私の初恋の相手でもあった。
王族は、その美貌を保ち続けるため、腹違いや種違いであれば、美男美女と認められる者たちに限り、親族間の婚姻も認められていた。
◇
―― 五年後、王国崩壊の報が、耳に飛び込んできた。
全土を覆う大飢饉の爆心地となり、ほとんどの人間が餓死したという。
私は聖女に従い、貧民街の者たちを数十名ほど連れ、帝国へと移り住み、村を作っていた。もちろん、皇帝からも聖女は歓迎され、私もまた歓待を受けた。
帝国でも、王国の消滅を受け、<今後の政策>として、皇族は美男美女を積極的にもうけていくことに決まった。
私は<種馬>として、聖女には内緒で、皇女たちを次々と抱き、子をなすこととなった。
聖女との間にも、子が生まれたが、彼女の血を色濃く受け継ぎ、平たい顔をしている。この子では、次の召喚勇者を繋ぎとめることもできないので、仕方のない話でもあった。
―― Fin.
主人公と聖女が最初に出会ったのは、主人公が12歳、聖女が30歳の頃の話である。