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231  作者: Nora_
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01

「ない……」


 どうしても明日持っていかなければならない物があるのにそれが見つからない。

 お店だってもうやっていない、それにこんなことを母に知られたら大爆発だ。


「なにをしているのー?」

「しーお母さんに見られたら怒られ――」


 いきなりやって来た母はこちらの頭に手を置いてから「まさか今頃になって探し物をしているとか言わないよね?」と、いますぐにでも逃げ出したいけど無視なんかをしたら酷くなるし、嘘なんかついたら冗談でもなんでもなくご飯が消えるからそのまま吐くしかなかった。


「はぁ、なんでゆきはお姉ちゃんみたいにできないの」


 なんでできないかと言われても姉ではないからと答えるしかない。

 ちなみに探していた物の方は母が場所を知っていて持ってきてくれたから大丈夫になった。

 しっかりお礼を言って出ていこうとしたところでもう一度頭に手を置かれて座り込みそうになった――のは大袈裟だけど、身長差があるせいで似たような風になるのはいつものことだ。


「なにかがあったらちゃんと言って」

「うん」

「話はそれだけ、風邪を引かないようにね」

「お母さんも気を付けて」

「私は風邪なんか引かないよ、もう四年は熱が出ていないからね」


 強い、こちらは一ヵ月前に風邪で学校を休んでしまったから勝てない。

 部屋に戻ると姉の桜里おうりが「大丈夫だった?」と聞いてきてくれたので頷く。


「探していないときはあるのにいざ必要なときには見つからなかったりするんだよね、何故なら奥の方にしまってしまうから、つまり自分のせいでね」

「うん、今回もそう」

「見つかってよかったね」


 本当にそうだ、できれば忘れ物なんかない方がいい。

 探したのに結局入れ忘れたなどということになったら嫌だからちゃんと済ませた。

 もう時間も遅いからそのまま電気を消して寝てしまうことにする、姉と一緒だけど寝る時間は話し合いをしなくても一緒だから喧嘩になることはない。


「ゆき、今日も先にいくからね」

「わかった」

「学校ではいくからね」


 僕達は昔から仲良くできている姉妹だけど一緒に登校をするということはあまりしていなかった、何故かは早起きタイプの姉とは合わないからだ。

 だから遅れない程度にゆっくりと起きて、ゆっくり母のご飯を食べてからいくようにしている、この時間に母としっかり会話をしておきたいのもある。


「ゆき、ご飯粒がついているよ」

「ん、ありがと」

「じゃ、今日もお互いに頑張ろう」

「うん」


 さあ、いくか。

 出る前に再度確認をしてから鍵を閉めて歩き出す。

 学校に着くまでの時間は考え事をしたりしなかったりという繰り返しだった。

 大食というわけでもないけどご飯を食べたばかりなのに今日の夜ご飯はなんだろうと考えるときはある、人並み程度の欲求しかないというのも自分が勝手にそう判断しているだけなのかもしれない。


「おはようございます」

「壁」


 母相手以上に身長差が凄くて目の前に立たれると一瞬で暗くなる。

 我妻がさいこはく、今日もお堅い顔で「壁ではありません」と返してきた。

 大きいのに髪は短く、体が細い子だ。


「はぁ、ゆきさんが羨ましいです、私もあなたぐらい小さい方がよかったです」

「でも、百七十四センチもあれば舐められることもなくなる」

「そうでもありませんよ、それに他に面倒な事が増えますからね」

「それはなに?」

「あなたみたいにからかってくる人が多くなるということです」


 大きい人を見て大きいと言うことは普通だと思う。


「急に目の前に現れなければ言う必要もなくなるけど」

「そう難しいことを言わないでください」


 彼女はこちらの腕を掴んでから「あなたはどうせ後ろから話しかけても同じことを言いますよね?」と、個人的にはそれよりも後ろから急に話しかけられると飛び上がりそうになるからやめてもらいたかった。


「それと歩くスピードを合わせるのが結構大変なんですからね?」

「ならこはくがおんぶをしてくれればいい」

「嫌ですよ、小さいゆきさんとはいっても疲れるんですから」

「なら気にせずにいくとか? 一緒にいかなければいけないルールなんてないんだからこはくの自由だよ」

「はぁ……」


 え、そこでため息をつかれても困るけど……。

 合わせるのが大変、なら疲れてしまっても嫌だから気にせずにどうぞと言うのは普通だ。


「こうしてあなたの姿を見つけられたのに別行動なんかしませんよ」

「でも、疲れちゃうなら――」

「いいからいきましょう、いって終わりではないんですからね」


 そうやって遮ってしまうぐらいならとは言えなかった。

 前を歩かれるとどんな表情をしているのか気になって駄目になる、そういう点でも一人がいいならそうしてもらうのが一番だった。




「お弁当を食べましょう」

「今日もこはくが作ったお弁当?」

「そうですよ、自分でやらないとお昼ご飯がなくなりますからね」

「いいお嫁さんになれるね」


 気になる男の子ができたらそっちにばかり意識を向けるようになる。

 だけど合わせるのも大変らしいから彼女のことを考えるならそうなった方がいいか、恋をすることが全てではなくてもなにかに興味を持つことは大事だから。


「自分が誰かと結婚をしているところが全く想像できません、モテませんからね」

「こはくは興味を持たれているのにはっきり拒絶するからだと思う」

「その気になれませんからね」

「矛盾しているよ?」

「いいんです、私はあなたのお世話係をしなければならないので」


 延々平行線になるだけだからお弁当を食べよう。

 広げて母作のお弁当を味わって食べているとじっと見られていることに気が付いて卵焼きを彼女のお弁当の蓋に置いた。

 彼女はすぐに「狙っていたわけではありませんがありがとうございます」と言って食べて、「美味しいです」と口にして柔らかい笑みを浮かべる。


「可愛い」

「ぶふっ――ふぅ、い、いきなりなんですか?」

「本当のことを言っただけだよ」


 あれ、なんか急に怖い顔になってきたから急いで食べて片付けた。

 歩きにいってくると言っても止められなかったから適当に歩いているとどたどたと足音が、振り返るともっと怖い顔になった彼女がいた。


「お、落ち着いて」

「なんのことですか?」

「だってこはくは怒っているよね?」

「怒っていません、私も歩きたかっただけです」


 なんだ、勘違いか。

 慌てていた心臓もゆっくりと元に戻った、そしてゆっくり歩きながら話せる時間もよかった。

 残念な点はお昼休みが短いということだ、だから少し寂しい気持ちを抱えつつ午後の授業を受けることになる。


「こはく……」

「なんですかその顔は」

「お昼休みに一緒に過ごせるのは嬉しいけど寂しくなる」

「そんな付き合ったばかりの女の子じゃないんですから我慢をしてください」


 確かに言われても困るか。

 放課後になっているから荷物をまとめて帰ろうとしたらぐいっと腕を引っ張られた。

「拗ねないでくださいよ」と言われたけどそういうのではないから首を振る。


「今日、桜里さんは来ませんでしたね」

「あ、そういえばそうだ」


 でも、これもまたいかなければならないなんてルールはないから気にならない。

 一緒にいたいならどうかと言ってみたら「来ない限りはいいですよ」と、姉も積極的に求めるわけではないから不仲ではないけど仲がいいともはっきり言えない関係だった。


「私の家に来てください」

「うん」


 彼女の家は学校から割とすぐのところにある。

 僕の家よりも大きくて、家具やゲームなんかもよく揃っている、ご両親も優しい人達だから何回もいきたくなる魅力がある。


「どうぞ」

「ありがと」

「それとこちらも」

「足が疲れちゃうよ」

「どうぞ」


 どうして今日はこんな感じなのだろうか。

 心配をしなくても強いわけではないからすぐに甘えるし、なにより先程弱いところを見せたばかりなのに彼女の方が余裕のないように見えてくる。


「なにかあったの?」

「はい? お昼休みもその後の休み時間も一人では教室から出ていませんが、同じ教室にいるんだからあなたはわかりますよね?」

「でも、いつものこはくらしくない」

「別になにもありませんから気にしないでください」


 怖い感じはしないけど気になる、言えないということならそれも気になる。

 自分のせいだとしたらほとんど意味はないとわかっていても謝罪をしたいし、せめて彼女のために動きたい。


「はぁ、まだ気にしていますよね?」

「うん」

「あなたは側にいてくれればいいんです」

「告白をされちゃった」

「はい、その調子でいてください」


 駄目だ、もうこのまま寝てしまおう。

 正直に言ってしまえばいまのこれこそ拗ねてしていることだった。

 姉もそうだけど毎回、いてくれればいいとかなんとかで躱そうといてくるのが気に入らない。


「桜里さんにはちゃんと話していますか? 我慢をしていませんか?」

「弱いから我慢なんてできないよ」


 それでも一緒のお部屋で寝られることで毎日付き合ってもらっているから我慢をしているところは多い。

 できれば登下校は一緒にしたかった、が、甘えすぎてもあれだからと姉が自然と来てくれるまで待っている状態だ。

 

「それならよかったです、これからもちゃんと頼ってください」

「こはくにもいい?」

「当たり前ですよ」


 拗ねていたのなんかすぐにどこかにいっていまはぽかぽかとお風呂に入っているときみたいなテンションでいた。

 彼女はすごい、その体の大きさと同じぐらいの包容力でこちらを支えてくれている。

 

「ですが一つ条件があります、嫌いな人参を食べてください」

「え、あ、ほら、人参も好きな人に食べてもらえた方が嬉しいと思う」


 かと思えばこおうして一気に恐ろしい存在になるのがこはくだった。


「あとはピーマンですね、ぷぷ、ゆきさんはおこちゃまです」

「なんでこんなに有名どころばかり嫌いなんだろ」

「食べず嫌いなんじゃないですか? ちなみに、この前作った料理の中には言っていませんでしたがピーマンが入っていましたよ」

「おお、こはくすごい」

「ふふ、でしょう?」


 いい笑顔だ。

 だからいけると判断をして他の人に云々と言ったらほっぺたをむぎゅっとされて困った。

 だけどそんなことをしてもいい笑みのままだったから強気には出られなかった。

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