表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/9

第五話「あいつ、誰だよ」


 バリバリキンゴコンガア。


 

(先生は先に帰ったけど、鍵は閉めなくていいのかな。)


 木目のある大きな木製の扉を引いて閉じる。俺は廊下に出た。扉の上に設置されたプラスチックの札を見る。

 


 「第三相談室か。面白いところだったな。」


 さっきまで部屋の中にいた俺は、驚きの過去を思い出した。

 

 大量の書類が敷き詰められた金属製の棚には埃がかぶっていて、人が出入りするようには見えない部屋。けれど、湯沸かしポットから湧き出る白い湯気が、生活感を滲み出していた。


 全体的に金属が剥き出しの部屋。パイプ椅子や角の尖った冷たい印象の机。そこにはやはり生活感なんてなかった。あの部屋は少し奇妙だったと思う。


 (それに、先生もいつもと違っていたし。ガチっぽくてちょっと怖かったし。)


 「まあ、とりあえず政府からの疑問について考えようかな。」


 俺の独り言は、やはり独り言で俺以外の耳に届くことはなかった。


 一人、廊下を歩きながら、自分のクラスを目指す。とっくに授業は始まっているはずだ。


 俺の足音にかぶさる音はなく、俺の鼓膜には律動的な一つの音しか聞こえなかった。足音という名の音だけ。


 周りの気配はなかった。誰もいない、そんな気がした。俺の足音以外何もない。


 いつもなら扉越しに聞こえてくる教師の声も、休み時間に聞こえてくる談笑も、今は何もなかった。


 (どうなってんだ。)


 グラウンドが見えてきた。このまま進めば自分のクラスにたどり着く。けれど俺の足は進むことを拒絶していた。


 それ以上に何かが俺の頭に入り込もうとしていた。


 (なんなんだ。これ。)


 「ゴホッ、ガハッ。」


 (嘘だろ、なんだこれ、赤いというより、黒い。)


 「ゲホッ。ゴッゴッ。」


 (あ、これ、血じゃん。)


 俺の視界は次第にぼやけ、何もかも、ピントが合わなくなる。朧に写っていた視界は反転し、天井の弱々しい電灯を捉えた。


 (これ、本格的にやばいな。俺、死んじゃうのか。嫌だ、死にたくない。)


 希薄になる意識の中、覆い被さるようにマスク男を見た。


 マスク越しに見えたそいつの目は確かに笑っていて、下卑たその表情を最後に、俺はついに意識を失った。


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ