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巨乳「をばさん」

〈春眠や人の命を養へり 涙次〉



【ⅰ】


 テオには猫として、もつと詳しく云へば雄猫として、困つた嗜好があつた。

 彼は「巨乳」好きだつたのである。

 よくアニメなどに出てくる「猫人間」の少女たちは、猫耳を着けた人間のなりをしてゐて、しかも巨乳である。でゞこがさう云ふ姿であつたらよいが、生憎彼女は普通の猫である。

 作者のガールフレンドも胸は小さい。「日本女性らしく、清楚でいゝよ」などゝ云つたりするが、心の奥底では、巨乳への憧れはある。


 テオは裸身の悦美などは見飽きて(?)ゐる。彼女はテオの事は、彼が特殊な猫である事も意識せず、たゞの「猫」として扱ふ。彼の前で裸になつても平氣なのは、さう云ふ事情に依る。


 テオは久し振りに「をばさん」の夢を見た。「をばさん」は、しよぼくれた老婆のショッピングバッグ・レイディーなどではなく、中年の女盛りの爛熟した色氣を振り撒いてゐた。そこで彼女は巨乳を誇つてゐた。悦美がボインだとしたら、「をばさん」‐こゝでは老婆ではないので、砂田御由希の名で呼ぶか‐ 彼女はボインボイン(なんぢやそら?)なのだつた。


 テオちやん、「をばさん」の胸、好きだろ? と彼女は云ふのだ。おつぱいを吸ひたいかい? テオちやんなら、いゝよ...

 いくら猫と人間であつても、越えてはならない一線と云ふものがあらう。テオは、涎を垂らしながら、は、と目醒めた。



【ⅱ】


 時は10年ほど前に遡る。じろさんがカンテラにヘッドハンティングされた頃の話だ。彼の初仕事の一件である。砂田御由希‐ 前回「をばさん」が登場した時の事、じろさんは覺えてゐた。何か、聞いた事のある名前だ- あゝさう。さう云へば...


 じろさんの初の【魔】退治に、「をばさん」は濃密に関はつてゐたのである。



【ⅲ】


「蕩らし【魔】」と云ふ魔が、ゐた。彼の魔性は、「結婚詐欺」の形で現れた。彼は、人間女性と子を成し、【魔】と人間のハーフを造り上げる【魔】。その子らが、人間側に付くか、それとも【魔】の側に付くかは、彼らの自由だが、大抵が【魔】側に行つてしまふのが、世の常なのである。そして、「蕩らし【魔】」は、魔性の後継者たちを續々と「生産」してゆく...「をばさん」=御由希は、その男「蕩らし【魔】」と暮らした事があつた。


「蕩らし【魔】」も男であるからして、若かりし御由希のおつぱいは魅力的だつたのだ。顔は十人並みの御由希だつたが、その胸は光り輝いてゐた。

「蕩らし【魔】」は所謂「いゝ男」ではない。然し女を惹き付ける何か、が彼にはあつた。だうしやうもないろくでなしを好むのは、女の習性としては不思議な事である。


 御由希は、ご多聞に漏れず、彼と一子を成した。名を「雪太郎(ゆきたらう)」と云ふ(初春の雪降りしきる日に産まれたのだ)。玉のやうな男の子であつたが、成長するにつれ、【魔】の特性を露はにしていつた。野良猫を虐める、自分より弱い者には手酷く当たる... 御由希は、彼に悩まされた。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈魔の子種宿した女亭主見るわたしに似たか男に似たか 平手みき〉



【ⅳ】


 その【魔】、生かしては置けぬ。【魔】の者をこれ以上量産されては、困るではないか... カンテラは挑戦狀を叩き付けた。

 始め「蕩らし【魔】」は、カンテラと云ふ、魔界に名だゝるアンドロイドの剣士が、出てくるのだと、戦々兢々だつた。だが、出張つてきたのは、生身の人間の、しかも小柄で痩せつぽちときていたから、舐めてかゝつた。然しそれも、じろさんの「古式拳法」に、首を捻ぢ曲げられ、再起不能にされる迄の事。【魔】「あわゝ、た、助けてくれえ」じろさん「色男、カネと力はなかりけり」。

 試しにじろさんを「使つてみた」カンテラも、大満足の仕事ぶり。「流石だよ、此井さん。霊長類最強だな!」



【ⅴ】


 その日から、御由希の胸は萎み出した。男と云ふ、謂はゞ「張り合ひ」なくして、女の胸は意味を為さない。おつぱいは、子供の為に付いてゐるのだが、それは男の為、でもある。故・月亭可朝師匠の歌、『嘆きのボイン』の通りだ。


 以上、じろさんの回想。後はショッピングバッグ・レイディーたる「をばさん」の、長い長い日々の物語...


 テオは「をばさん」の住んでゐる施設に、彼女を訪ねた。「『をばさん』、萎んでも素敵なおつぱいだよ。まだまだイケる」「何云ふんだらうねえ、この子は」「をばさん」嬉しくもあつたが、困惑の(てい)であつた。

 因みに雪太郎の身は、杳として知れず、今ではテオがその「代はり」だつたのである。お仕舞ひ。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈垂乳根の我が母の差す春日傘 涙次〉


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