夏に手を振って
夏が手を振っている。
鈍感な私でもわかる。
あれは、私を呼んでるんじゃない、私に別れを伝えているのだと。
暑くて、綺麗で、うっとうしくて、でも楽しくて。
そんな夏が私は好きだった。
私の好きな私はもういないけど、私の好きな夏は変わらずここにいる。
夏が来ると、変わってしまった私が少しだけ戻るような、そんな気がする。
純粋に、ただ夏を楽しんでいたあの頃の私に。
子どもは大人になれるけど、大人は子供には戻れない。
でも、夏だけは私をほんの少しだけ、子供に戻してくれる。
そんな夏が終わりを迎える。
思い出と熱そして、ヒグラシの鳴き声を背に去っていく。
今年もありがとう、来年また会おうね。
私は夏に手を振った。