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6-1


 なぜだ? なぜ、奴には効かない……。

「僕の……師匠の技がなぜ、効かないんだ!」

 焦っていた。

 森の樹の下で影を潜めつつ、相手の動きを探る。


 もう、夜が明けてしまった。

 戦闘中に何度も、地面に転んだせいで顔は泥だらけ。手にも血がこびりついてとれない。

 せっかく、師匠からもらった黒いスーツもボロボロ。


「満身創痍か……」

 ドラムとの戦いは何時間も続いた。


 奴には月花流の術が全く効かない。

 僕は自分のことを、まだ未熟だと思っている。

 少なくとも、自惚れてなどいないと思う。


 でも、師匠の術は……自分で言うのもなんだが、数ある仙術の中では最強だ。

 月花流は暗黒術。


 化け物を退治するような仙術などは基本的に封印術が多いものだ。

 だが、そのような正道と呼ばれる術とは違い、月花流は抹殺術が大半を占める。

 抹殺術とはその名の通り、化け物を封印するなどという生半可ものではなく、終わらない。

 その命を強制的にこの世から葬る技である。


 つまり、化け物には一切の情けをかけないということだ。

 僕は残り少ない符の中から三枚を取り出し、その符に長い針を一本ずつ刺した。


「先生、僕にお力をください……」

 祈りながら、針の刺ささった符を、誰もいない森の闇へ放り投げた。

双頭邪(そうとうじゃ)……吸震撃(きゅうしんげき)!」

 投げられた符は地面に落ち、針が土に突き刺さって震えた。

 やがて、針がもぐらのように土の中へと潜り、「もこもこ」と音を立てると、二本の首を持った大きな蛇が地面から出てきた。


 蛇は符と同じ数だけ、現れた。

 僕はそっと足音をたてずに動いた。


 しばらくすると、ある一点から強い邪気を感じた。


「そこか!」

 僕は三匹の蛇をその邪気が感じられる場所に走らせた。

 すると、木の影からドラムが現れた。

「蛇は嫌いだ……」


 今だ!


 軽く息を吸い込んで、唱える。

「ひゅう……爆!」

 ドラムの体に、一斉に噛みついた蛇達が風船のように丸く膨らんで爆発した。

 森が震え、燃えた木が地面に倒れる。

 辺りに黒い煙が濛濛と立ち昇った。


「これじゃ、何も見えない……」

 僕は目を覆って一歩、後退りした。

 その時だった。ドラムが黒い煙からその大きな身体を見せた。

 咄嗟に拳を突き出したが、遅かった。


 僕の拳よりも先に、ドラムの光る腕が僕の胸を突き破った。

「ぐわああああああ!」

「今一度、問う。なぜ、そうまでして魔族を嫌う、憎むのだ?」

 口からたくさんの血を吐きながらつぶやいた。


「お、お前に何が分かる……。ぼ、僕の妹はまだ、小さかったんだ。僕はあの日、妹を引き取った日、必ずこの子を立派な大人に育てようと誓ったんだ。僕に残された夢だったんだ。たった1つの生きがいだった。それを……お前は……お前らは!」

 ドラムは自身の腕を空に掲げた。

 それと同時に僕の足も宙に浮ぶ。

 じっと、僕の目を不思議そうに見つめている。


「それは少し、おかしいぞ。お前はそういう風に考えていたかもしれんが、本人は違う考えを持っていたかもしれん。例え、短い時間でも、お前と一緒に同じ時を過ごしたというだけでも、幸福だったと……」

 ドラムにそう言われて、僕は心のどこかで安心していた。

 確かに、ホッとしていた自分がいた。

 だが、僕はそう思ったことを許せなかった。

 歯痒い気分でドラムを睨みつける。


「お前なんかに分かってたまるか!」

 僕は残り全部の符を、自らの口の中に放り込んだ。そして、飲み込む。

「これで終わりだ!」

 くるみ……すまない。兄ちゃん、途中で諦めてしまうけど、許してくれ。

 術を唱え始めると、全身に経が浮び上がった。


 絶対に使ってはならないと教えられた術……。

 師匠との約束をこんなに早く破ってしまうとは思わなかった。

 先生、ごめんなさい……。

 僕は目をつぶった。


止錠命(どじょうめい)……自砕(じさい)……」


 しかし、術は途中で、強制的に止められた。

 目を開くと、大きなドラムの拳が僕の口の中に入っていた。

 それが術を唱えるのを邪魔している。


「やめろ、自害など、無意味だ」

「ううう……じなぜでぐれ……ぼ、ぼがぁ、バガだっだんだ……」

 気がつくと、僕は泣いていた。

 一年ぶりの涙だった。


 師匠と初めて会った日以来のことだ。

 しかも、一番こんな情けない姿を見せたくない相手に……化け物に見られるなんて……。


 ドラムは依然、無表情のままでいる。

 しばらく、黙って僕の目を見つめたあと、こう言った。


「お前が弱いわけではない……お前の使う術が未完成なのだ」

 僕は耳を疑った。

 なぜ、ドラムがこの術のことを知っているかは分からない。

 だが……確かに、彼は僕のことを気遣ってくれているように見えた。

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