表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/138

75:小さな悩み

「で、あんた、ここで何してるの?ミレナにちゃんと謝った?」

アイシェはまなじりを吊り上げ、ぬいを指さした。


「……ごめん、まだなんだ。言いたかったんだけど、止められるし。会いに行こうとしても、見つけられなくて」

しゅんとしながら言うと、アイシェは手を下ろす。


「あー……今、色々勇者さまがらみで忙しそうだったわね」

「それって、女の子絡みのこと?」


「そうよ、あっちこっちに走り回ってる。ミレナは陰ながら手伝ってるみたい」

言いつけ通り、すべてを清算しようとしているのだろう。立ち止まっていた彼の時間が、確実に動いているらしい。


「で、魔道具店で何してるの?あんたには、何の縁もないと思うけど」

アイシェは別の何かを見透かすような目で言った。


「もしかして、アイシェちゃんは見抜けるの?わたしに全く魔法の才能がないって」


「当然よ!あたしは魔法国の貴族なんだから。測定器がなくても、大体のことは分かるわ」

アイシェは腰に手を当てて、胸を張る。


「おおーそれはすごいね!アンナとシモンを助けてくれてるのも、アイシェちゃんかな。まだ小さいのに偉いよ」

ぬいが頭を撫でようとすると、軽く避けられた。


「気安く触らないで。そもそも小さくないし、褒めたってなにもでてこないわよ」

「うん、そう思ったから言っただけだよ」


「あ、あんたねえ……」

アイシェは顔を赤くすると、そっぽを向いた。


「それより!説明なさい!話をそらさないで」

「おっと、そうだったね。わたしが空腹で行き倒れそうになったとき、助けてもらったんだ。で、それ以降ここで働いてた」

過去形ということから、アイシェは察したのだろう。しばらく気まずい沈黙が生まれた。


「ま、まあ、あんたはこの国の貴族になるんだし、もうその必要ないわよね」


「……ん?アイシェちゃんなんのこと言ってるの?異邦者は特別扱いされてはだめなんだよね?そもそも功績どころか、迷惑しかかけてないし……」

自身の所業を思い出し、後半は自重するように言う。


「なんのことって、もしかしてまだなにも言われてないの?」

「なにもって、そもそもそれ誰のこと?」

話がかみ合わず、二人の頭は疑問符で埋められていく。


「そりゃあ……あ、名前知らないわ……その、なんか呪われてて、悪そうな赤髪の人」


「改めて口にするとすごい人みたいだね。あってるけど、もう呪われてないよ。ノルくんのことだよね。ノルベルト・イザーク・スヴァトプルク」


他者から見ても、ノルは悪人顔にみえるらしい。この先あまり言うのはやめようと、ぬいは思った。


「その人と結婚してスヴァトプルク夫人になるんでしょ?そうなったら、他のことなんてしてられないじゃない」


「んんんんっ?え?アイシェちゃん?」

ぬいの声は盛大に裏返る。


「あんなに熱っぽく見つめて、嫉妬して……まだ言われてないの?だったら、これ以上言うのは野暮ね。もう黙っておくわ」

顔を赤くしていくぬいを見ると、アイシェは笑う。


「本当にこの国は面白いわ。その様子だと、うまくいきそうね」

「あのね、アイシェちゃん。なんて言ったらいいのか……その」


彼女はどんなことが起こったのか、細かく知っていない。そもそも相談するような仲でもなく、ためらわれた。


「おかしくなって、たくさん迷惑かけて。しかも、わたしずっと年上だし」

その結果、無難な悩みをこぼす。


「どのくらいかは知らないけど、三十歳差とかではないでしょ?だったら、そんなのただの誤差よ。なにも悩む必要ないと思うけど」

アイシェはなんてことないように、さらっと返す。


「魔法国ってさ、その……」

「そのくらい年が離れた人に嫁がされるのは、まあ地域によるけど、ない話じゃないわね」


弟はきっと、意図してこの国にぬいを送ったのだろう。なんてことのないように言うアイシェから、他国の厳しさが察せられた。


「ちなみに男女両方ともあるわ。それが嫌で逃げ出して、領土間の争いが起きたり」


次々とあげられる恐ろしい話にぬいは身を震わせる。以前気軽に世界を旅したいと言ったが、かなり危険であることが分かったからだ。御業も今一つで魔法は使えない。簡単な護身術のみでは、あっさり命を落としてしまうだろう。


「とにかく、そういうことだからあんたはクビよ。あとは全部あたしに任せなさい。貴重な腕のいい職人だもの、全力で支援するわ」

そう言うアイシェは、先ほどの話とあいともなって、かなりたくましく見えた。


「いつでも遊びに来てくれていいからね」

「勉強。また来る」

アンナがぬいの肩を叩き、シモンが笑顔で言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ