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59:開けた道

「わたくし、この一週間二人を見続けていましたが、何の案も思い浮かびませんでした。あなたには何か解決策があるとでも?」


ミレナはノルを睨むようにして言う。先ほどから、鍋島のことを軽く蹴り飛ばしているからだ。そのたびにはじかれてはいるが、いい思いはしない。


「何というか、この悪人面の人も変よね。とても丈夫だけど、ねじりにねじれて逆にまっすぐに見える感じ」


アイシェもノルのことをよく思っていないのだろう。出てくる言葉は素直な感想で毒はないが、不快そうに顔をしかめている。過去と言えども、同じ人を慕うものとしての仲間意識をミレナは感じた。


「そんなもの、あったらとっくにどうにかしている。報告は読んだが、話も聞かせろ。その後どんなことを試してみたか、実践してもらおう。ちょうどよく、そこに二人が居るんだ」


ミレナは反抗したい気持ちでいっぱいだったが、自分一人の力ではどうにもならない。だが、ノルの向ける嘲笑が気に入らない。自分ならまだしも、それを彼に向けているのだ。


「これ以上勇者さまを愚弄し、暴力を振るうのをやめていただきますか?」


立ち上がると満面の笑みで言った。怒りがあまりに大きすぎると逆に笑顔になるのだと、ミレナは今はじめて知った。


「こいつが愚かなのを否定してどうする」


「今、何といいましたか?」


一触即発の状態であった。二人が同時に神々への祈りを捧げた時、ペトルが間に割って入った。


「ストップ、ストップ!仲間同士で戦ってどうするんだい。落ち着いて」


「ミレナと戦ったって、呪いは解けないわよ」


二人に諭されると興ざめしたのか、ノルは珍しく乱暴に席に座り込む。それを真似するようにミレナも正面に座った。


改めてミレナは思った。ノルとは全く馬が合わないと。こんな人と一緒に居たぬいはやはり心が広いのだろうと実感する。


「あのね、ノルベルトはやけに辛らつに見えるけど、これただの嫉妬だから。異邦者ヌイが見てくれないことの苛立ちを向けてるだけ」


ペトルが生暖かい目をノルに向ける。その言葉を聞いた途端ミレナは腑に落ちた。激情にかられることは、嫌と言うほど身に覚えがあるからである。


「なるほど、まだまだ子供ってことね」


アイシェが情けないものを見るような目で言い放った。


「悪いか!?ずっとこの不愉快な光景を見せつけられ……」


開き直ったのか、顔を赤くして言う。怒りと照れが混じっているようだ。


「……すまない。君はもっと長い間見ていたんだった」


話の途中でその事実に気づいたのか、ノルは素直に謝った。全体的に悪役じみてひねくれてはいるが、ぬいはこういうところが気に入ったのだろう。


「だが、あいつは許さない。絶対に元に戻して、殴ってやる」


醜い嫉妬がそこにはあった。ミレナはそれを見て、反面教師にしようと誓った。一歩間違えれば自分もああなっていたに違いない。


全てを受け止め、流してくれたぬいのおかげである。ミレナは心の中で神々に感謝と祈りを捧げた。


「それでは、言われた通り説明いたします」


ノルが不在の間、どんなことが起こったのか、じっくりと話はじめた。



「その、本当に申し訳なかった」


全てを聞き終わったノルはうなだれていた。背を丸め、肘を机につけると手を額に当てている。頭が痛くなってきたのだろう。


「いえ、もう過ぎたことです。そちらはそちらで、色々と行動されていたようですし」


ミレナは末の娘として大事に育てられてきた。だからこそ、自分には言えないような残酷な何かを隠していることは分かっていた。


「だが、聞いてみて一つだけ試してみたいことができた。基本的にこの二人を離すことは困難である。それで間違いはないか?」


「はい、就寝時以外はほぼ一緒に行動しています。話しかけても片方だけが反応することはありません」


「常に世界は二人きり、か。虫唾が走る……なあ、この二人を引き離してみたら、どうなると思う?」


ノルは悪事を企むような顔で言った。


「そう変わらないのでは?役柄に応じたことをしなければ、反応はしないかと思います」


「逆に言えば、きちんと沿えば反応はするということだ。一対一で話をする、やってみる価値はあるかもしれない」


その結果、何も得ずとも邪魔されずに話ができる。その提案は魅力的だった。なによりこれ以上彼らが共にいるのを見ていたくない。


この点でノルとミレナの意見は一致していた。


「いいですね、やってみましょう」


「ああ、君は水晶宮の者としてあいつを呼び出して欲しい。ついでに御業を教えて時間稼ぎをしてくれ」

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