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57:伝統の解体

ノルとペトルはスヴァトプルク家の訓練所へと来ていた。一見ただの庭と変わりないように見えるが、置かれた道具たちがそうでないことを指し示していた。ペトルはそれらの使いこまれ具合を確認すると、ノルに問いかけた。


「さすがノルベルト。欠かさず訓練をしているようだ。それと、この跡。御業を使ったようには見えない」


ペトルは地面に突き刺さった水晶を触る。その上部分は完全に消し飛んでいた。


「ああ、これは魔法だ。ヌイのおかげで自分の可能性を知ることができた」


ノルが嬉しそうにペトルに言う。その姿はかつての幼少期を思い起こさせるものである。


「魔法……使えたというのかい?」


肯定するとペトルは驚きを隠せないようだった。


「なぜこの国で魔法が透していないのか、知っている?」


水晶に手を這わせながら、ペトルは言った。これが事実であるか確認しているようだ。


「知らない。そもそも他国にさほど興味を持っていなかった」


「この国は多少問題はあれど豊かだ。それに御業がある。これらも理由の一つだけど、一番の理由は水晶国に住まう人で魔法を使える者はそう多くない。私も昔試してみたけど、だめだったよ」


ペトルはそう言うと、水晶から手を放しノルの前に立った。


「大きくなったね。ノルベルトは昔から努力家だったけど、神々はちゃんと見てくださったってことだ」


頭を軽く触ってきた。昔とは違い、ノルの背はペトルを越している。


「どいつもこいつも、子ども扱いするな」


ペトルの手を軽くはねのける。


「さては、異邦者ヌイにも同じ扱いをされているとみた。前に見た時はうまくいってそうに見えたんだけどね」


「……想いを伝える直前に水を差された。元に戻ったら、あいつ……覚えてろ」


先ほどまでペトルが触っていた水晶を、腹いせまぎれに蹴飛ばした。元々脆くなっていたのもあるが、それは簡単に二つに折れた。


「腹が立つのは分かるけど、もう少し冷静になった方がいい。見えるものも、見えなくなってしまう。例え異邦者ヌイが戻っても、子供っぽいと相手にされないよ?」


「は?僕のどこが……」


話している途中で、ペトルは折った水晶を指さした。


「っく……確……かに。そうだった。いつもヌイは僕のことを……どうすればいいんだ」


「んー、あの雰囲気から察するに。もっと強気になって、照れずに口説いていった方がいいんじゃないかな」


「わかった。そっちも努力する」


素直にノルが返事をすると、ペトルは満足そうに頷いた。


「それにしても、本当に……強くなったね。実は今日、私が教えるだけではなく、ノルベルトにも教えてもらおうと考えてたけど、無理そうだ。私はこんなに強くないからね」


降参するように手を上げた。


「そりゃあ、無理だろう。君は前に出て戦うタイプじゃない。向き不向きがある。一度僕に教えたら、そのあと神殿騎士にも同じことをして、育てた方が早い」


「その通りだね。ノルベルト、手伝ってくれる?」


「すべてが終わったらでいいなら」


「ありがとう。それで充分だ。では、教えよう。我がセドニク家が長らく受け継いできたものを」



「確かに自己申告していたけど、ノルベルトは守るのが苦手のようだね」


ペトルは苦笑いする。


「ああ……前もヌイに危害を加えさせそうになったことがある。もうあんな目にはあわせたくない」


少し前のことを思い出し、ノルはこぶしを握り締めた。その当時のことではなく、自分がぬいに害を加えそうになったことを思い出したからだ。


「ノルベルトはもっと人を頼ることを覚えたほうがいい。大方鍛錬もずっと一人でやってきたんだろうけど、なんにでも限界はある」


ペトルはノルの肩を軽く叩いた。


「距離を置いてきたとき、放っておいた私も悪かった。けど、覚えていてほしい。また長い隔絶があったとしても、私は君を弟のように思っているし仲間だ」


その言葉を聞いた瞬間、ノルは母の言葉を思い出す。


「覚えておいて。あなたは一人じゃないって」


ノルはそれを一つの意味でしかとらえてなかった。だが、違かったことに気づいた。


両親を失ってからはずっとノルは不安だった。一人ですべてを果たさなければと必死に生きてきた。ぬいと出会ってからは少しずつ和らいでいったが、今はまた一人だと。そう思い込んでいた。


日ごと迫ってくる残りの寿命。好きになり、日々を共有したぬいとまた会えるかという不安。


そのストレスから、眠れない日々が続いた。それをどうにかするため、魔法をギリギリまで行使して、倒れるように一日を終えていた。



「兄さま……僕は死にたくない。今回回避したとしても、子孫にまた同じ思いを味合わせるのも嫌だ。何の後ろめたさも無くして、ヌイに好きだと言いたいんだ」


ノルは昔の呼び方でペトルのことを呼んだ。その真摯さにペトルは真面目な顔になり、何かを考える。


「そもそもなぜスヴァトプルク家だけ、こんなことになっているのか。私はずっと疑問だった。セドニクやアルバにはないからね」


ノルは同意する。三家以外の貴族もまた同様である。それ以外の者たちは不明ではあるが、聞いたことがない。


「期待外れになってしまうかもしれないけど、宛てがある」


「それでもいい、頼む」


「もちろんだよ。ただ、次の降臨が近いから、それが終わった後に、約束を取り付けておこう」

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