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50:異邦者の彼女

トゥーも規格外であったが、彼女もまた同じであった。


ここへ訪れる異邦者は大体が教皇へと引き寄せられる。どういった仕組みであるかは不明であるが、そういう決まりであるらしい。


ミレナも待っていればいずれ向こうの方からやってくるだろうと思っていたが、いくら待てどもその気配はない。


教皇もただ待つことを止め、彼女を探すことにしたらしく、ミレナももちろんついて行った。


ようやく見つけた異邦者は、着の身着のままで行き倒れかかっていた。崩れ落ちた体を支えると、その体は細く弱弱しい。小柄な体躯はちょっと叩けば折れてしまいそうだった。


ミレナはずっともう一人の異邦者の存在が心に引っ掛かっていた。なぜ、彼女にトゥーの顔を見せてはならないのかと。


そして、性別が女性という時点で嫌な予感がしてたが、そんな思いはぬいに会った瞬間吹き飛んでしまった。


トゥーと同じくどこか落ち着いていて、親しみやすい。それでおいて神々しさもある。だが、それよりも本人の個性の方が際立っていた。


一見無表情に見えるが、意外に行動的で好奇心旺盛。そして、どこか不思議な女性だった。ミレナより年上であることは分かるが、なんだか放っておけない。


なにより暴走するミレナを受け止めてくれた。一方的にまくしたてようと、案内役を放棄しようともぬいは決して怒らない。


時に優しくたしなめ、黙って話を聞いてくれた。その暖かく見守ってくれる様子はどこか姉のようで、ミレナはすぐにぬいのことが好きになった。彼女も自分のことを友人だと言ってくれた。



ついにトゥーとの対面を果たしてしまったあと、何かが起きてしまうのではないかと内心冷や冷やしていたが、結局何もなかった。


それどころか、ぬいはどことなくトゥーのことが苦手そうだ。あんなに素敵な人をなぜかと聞いてみれば、輪の中心にいてキラキラしている人は苦手らしい。


落ち着いているぬいらしく、ミレナはなるほどと納得した。



その後トゥーのこれまでの功績を称え、水晶宮でお披露目が行われることになった。異邦者を特別扱いしてはいけないという、教義をギリギリ踏むような行為であったが、それほどまでにトゥーの行ってきたことは大きかったのだ。


人気者の彼はきっと瞬く間に取り囲まれ、ミレナのことなど相手にしてくれないだろう。そう思っていた。だが、トゥーはミレナを選んでくれた。


あれは決して皇女である自分を尊重したというものではなかった。自分という個を多数の中から選んでくれたことが、ただただうれしかった。


大勢の人たちの前でダンスを最初に踊ってくれたのだ。あの時のことは一生忘れないだろう。今も思い出すだけで、多幸感に包まれる。そのことをぬいは嫌な顔を一つせず、一晩中話を聞いてくれた。



トゥーとの関係は恋人未満で進むことはない。だが、後進もせず着実に思い出を積み重ねていけている。そんな穏やかなある日、ミレナは見てしまった。


大事な友人であるぬいが、彼女を嫌悪している人とよく連れ歩いているのを。その距離はどことなく近く、親密なように思えた。


相手の表情は見えないが、後ろ姿から以前のような刺々しさがないように思えた。あまりに急展開すぎる。なぜ友人である自分に言ってくれなかったのかと、少し残念に思ったがすべきことがある。


もしぬいが彼に騙されていたら、まずい。ミレナは皇帝宮に居る兄の元へ訪問し、スヴァトプルク家について聞く。一個人の意見ではなく、多数の者や書物を使って調べ上げた。


その結果、ミレナはなぜ彼と枢機卿が異邦者たちを毛嫌いしているかを痛いほど理解できた。身内が無残に殺されていれば、それも納得がいく。


枢機卿は肉親の情というよりは、教義からはみ出た存在が気にくわないという要素が強い。しかし、ノルベルトは実際に亡くなる場面を見ているらしく、憎悪の方が強そうである。


だが、トゥーとぬいの人柄が悪くないのを理解していて、嫌悪程度に抑えているのだろう。


ノルベルトという青年についていくつか分かったことがある。一見容姿と雰囲気から悪そうに見えるが、本人はいたって真面目で誠実である。


しかし、家のうわさがよくなかった。スヴァトプルク家は近年短命化を増していき、それを逃れるには異邦者の存在が必要だという。


ぬいはこの事実を知っているのだろうか。もしかしたら、嫌悪を全て隠して騙そうとしている可能性も否定できない。


気になるのは最初から騙せばいいというのに、急に態度を変えたことだ。それがいつ起きたかとなると、水晶宮内の可能性が高い。


親し気に接触を持ち、二人でどこかへ行ってしまう。その後、誰も居ない部屋に連れ込まれていたとの目撃情報がある。


ぬい自身がもてあそばれ、夢中になって周りが見えなくなってしまっているかもしれない。だとしたら、よく話を聞いて必要とあれば彼女の目を覚まそう。


例え、友人としての資格を失っても、それがぬいのためであるのならば。ミレナはそう決意した。

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