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43:血脈

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「ノルくん、なんか具合……じゃない、何かあったの?大丈夫?」


体調不良を聞きそうになり、ぬいは慌てて言い方を変えた。


二人は公園のベンチに座っていた。もちろんぬいの片手は軽食でうまっている。


もう片方の手は空いていたが、なぜかノルに手を重ねられている。その腕には彼からもらった水晶の腕輪がつけられていた。


そんなに無理しなくていいと伝えると、意地を張ったのかずっと離さない。


「ただの……災害みたいなものだ」


濁してはいるが、確実に彼と会ってからである。


「もしかして、トゥーくんと何かあった?」


「何もない」


取り付く島もないし、ノル自身も答えたくなさそうだ。ぬいは追求することをやめて、食事をすべて平らげた。


そのあとは特にすることもなく、ボーっと空を眺める。特に会話は無く、ゆっくりとした時間を共有していた。


話さずとも気まずくなることはなく、ただ居心地の良さに身を任せる。


「あれ、そこに居るのは」


顔を上げると、そこには長い髪を一つにまとめた青年。ペトルが立っていた。一人ではなく、横に女性を連れている。


「これはこれは、久しぶりだね。異邦者ヌイ」


「こんにちは、セドニクさん」


二人が挨拶を交わすと、横の女性も優雅に一礼した。


「セドニク家の者がなんの用だ?会合はまだないはずだが」


言っていることはいたって真面目である。だが、ノルは重ねていた手を外すと、ぬいの肩を掴んで引き寄せた。


急になんだと横を見ると、ノルの顔は警戒心に満ち溢れていた。


「会うたびにお役目の話をするつもりはないんだけどね」


ペトルは困ったように肩をすくめる。


「古い知人と最近の知人に会ったから、声をかけただけなんだけど、お邪魔だったようだ」


「その通り、邪魔だ」


肩を掴む手が強くなる。ちょっと落ち着こうよと、ぬいはノルの腰のあたりを手でつついてみるが反応はない。


「スヴァトプルクの家に再び異邦者の血が入ることになる……か。太く短い血脈は正常に戻される。吉報だね」


「前にも言ったはずだ。そんな理由で選んだわけではない」


ノルはペトルのことをにらみつける。


「そうだね、聞いたよ。前はこちらからお断りだとか言っていたけど。今はどう見ても大歓迎のようだ」


「くっ……」


反論できないことを返されたのか、ノルは口をつぐんだ。


「血?ノルくん、もしかしてわたしの生き血が必要になって、困ってたの?」


ぬいは前に契約の魔法で血を流したことを思い出す。必要ならば差し出そうと、献血感覚で腕をまくった。


「要らないから、不必要に肌を見せるな!」


ノルが大声を上げると、ペトルの横の女性が笑い声を小さく漏らした。口元に手をあて、優雅に笑っている。嘲笑ではなく、純粋な笑みであり、嫌な気持ちにはなるものではなかった。


「それではお邪魔したね。どうぞ、お幸せに」


ペトルはヒラヒラと手を振り、去って行った。


「ノルくん、もしどうにもならない理由があって、血が必要だったら言ってね」


ぬいは前に自ら刺した腕を指さす。


「だから要らないと言ってるだろう。それに、そこはやめろと言ったはずだ。もし欲しくなったなら、指からもらう」


ノルは左手でぬいの右手を掴み引き寄せると、指を一つ一つ撫でた。


「えっと、あのさ。そろそろ離れない?セドニクさんは居なくなったんだし」


未だぬいの肩を掴んだままである。おまけにもう片方の手もふさがれている。


「こんな公の場ではさすがに良くないって。勘違いされるから」


「別に気にしないし、構わない」


「そういう問題じゃないって!貴族間ではよく揚げ足を取られるって言われたし。ノルくんもそう言ったでしょ?」


そう言うと、彼はしぶしぶ体を離した。


「そもそもセドニクさんに見られてたけど、いいの?逆に近づいたりなんかして」


「あいつはやたらめったら、悪く言いふらすような人間ではない」


その言葉は、長年の知己であるがゆえの信頼を感じるものだった。


「あのさ、太く短い血脈って……その、なに?聞いてもいい?」


ノルの過去に関わることについて、ぬいはこれ以上聞くつもりはなかった。だが、嫌な予感がしたのである。



――もしかしたら、ノルはあまり長生きできないのではないかと。



そんな不安を悟られたのか、ノルはぬいの頭を撫でるとほほ笑んだ。


「あまり大声では言えないことなんだが」


ノルは再びぬいを引き寄せる、今度は腰を掴んで密着させられた。理由が明確であるため、ぬいはまた距離を縮められても文句は言わなかった。


「そう不安そうな顔をするな。僕は簡単に死んだりしない」


誰かに聞かれないようにするためだろう、耳元の近くでささやくように言う。


「薄命そうに見えるか?」


「ううん、全然。すごく強そうだと思う。よく鍛えてるし」


こうして何度も引き寄せられていると、ノルがどれほど鍛錬をしているかが分かる。服越しに感じる筋肉は日々の努力を伺わせた。


「たぶん風邪もあまりひいてないでしょ?」


この国で風邪は御業さえ使えばものの一時間で治る。しかし、普段の生活習慣が悪ければそうはいかない。


見たところ、ノルは規則正しい生活を送っていそうだ。ぬい自身もそうであったが、堕神が夜に現れることはないのだろう。


「でもね、だからこそ心配なんだ。強そうな人ほど、ある日急に……」


どんな記憶から基づいて、その言葉が出たかはわからなかった。目が追想しようとして、ノルの嫌がるものに変わっていく。


すると彼はもう片方の手を回して、ぬいのことを抱きしめた。


「不安にさせて悪かった」


突然の行動に、ぬいは元に戻っていくのを感じる。優しく背中を叩かれると、完全に掻き消えた。


「次の休みに家へ来てほしい。そこでスヴァトプルク家について話そう」

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