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39:埋められていく外堀

「このあとは暇か?」


アンナの店へとやってきたノルは、ぬいに尋ねた。どこかそわそわとしていて、落ち着きがない様子である。だが、良く見せようとしているのか、表情だけは精悍だ。


「うん、暇だけど」


ノルの初々しさにぬいは口角を上げた。笑い声をもらしてしまえば、きっと彼は真っ赤になって否定するだろう。そう思い、声を抑えた。そもそもぬいの友人はそう多くはないし、特に断る理由もない。


「だったら、食事を摂りに行こう」


慎重に様子を伺いながら、ノルは言い切った。疑問で聞かずに、逃げ道を塞いで。そんなちょっとしたことに、ぬいが気づくはずもない。例え気づいたとしても、その誘い文句に断りを入れることはしないだろう。


「いいね、行こう!」


ノルは地理に明るくないぬいを、食事に連れて行ってくれる。それだけで十分であるが、なにより会話が弾む。物を知っているノルは前からそうであったが、きちんと答えを返してくれる。嫌悪の感情さえなければ、相性はとてもいい。二人は今日も連れ立って食事をしに行った。



「これ、おいしいね。水晶宮で食べたきり、見たことなかったから、どこにあるかとずっと思ってたんだ」


ぬいは目を輝かせながら、食しているものを指す。


「地下の洞窟にある、湖からとれる魚だ」


ノルが少し言いづらそうにするのを聞いて、ぬいは察した。


「ああ、あの時行ったところの」

過去映しが行われたあの場所のことを指しているのだろう。


「あそこだけじゃなくて、他にも似たような場所はあるの?」


食材が取れるとなれば、ひとけが全くないことはあり得ない。それゆえにぬいは推測した。


「規模を問わなければかなりたくさんある。前回のような……秘匿された場所や、一般公開された場所。素材を取るためなど、見つかっていないところも多い」


ぬいは食事を口にしながら、目を見て軽く頷く。お互いに口にものが入っているとき、会話はしない。どちらかがそう言ったわけでもなく、ただの暗黙の了解である。


その尊重できる関係が、居心地良いとぬいは感じ始めていた。以前は自ら会話を交わそうとすることは少なかった。だが、いざ話してみれば馬が合う。


ぬい自身が持っていないような考えや感情を持ち、一緒に居て楽しかった。


一つだけ難があるとすれば、今までの謝罪のつもりか、やけに手や肩を軽く触ってくることが増えたことだろう。だが、あくまで常識の範囲内であるし、拒否するほどではない。


「今度はきれいに整備されたところへ連れて行こう」


いつとは指定されていないし、別の気になることがあったため、ぬいは軽い気持ちで頷いた。


「……あのさ、そんなにそういう空間があったら、そのうち陥没しない?」


どこか不安そうに問う。


「その通りだ。この国は大昔、一度陥没している。だからこそ、地下にあった水晶が露出し、平原のあちこちに水そびえ立っている」


「なるほど」


一部だけがへこんでいるのか、それとも国の境界線ギリギリまですべてへこんでいるのかはわからない。


それを知るのは実際に行ってからでも悪くない。そう思い、ぬいは質問するのをやめると、食事に集中する。


ノルには遠慮しなくていいと言われているが、さすがに少し多いくらいに控えている。


その代わり、いつもの倍以上はよく噛んで食べていた。



「明日の休日は何をするつもりだ?」


ノルはきれいに肉を切りながら口に運ぶ。相変わらず動作は洗練されていて、横にあるワイングラスがよく似合っている。


似合いすぎて、これから何かの取引か祝宴でもあげるかのように見える。


「うーん、いつも通りだよ」


改めて聞かれると、代わり映えのない毎日浮き彫りになり、言い辛かった。しかし、将来この国を出て一人旅をするのだ。


いくらノルに支援してもらえるといえども、準備が居る。そのためには大きな出費はできない。


だからこそ、ぬいは極力屋台での買い食いに抑えているのだ。毎日店で飲み食いしては破産してしまう。


「なら、絶対に外せない用事はないということか?」


念押しするように効いてくる。


「そうだけど、ノルくんどうしたの?」


やけに遠回しな言い方をするのが気になり、ぬいは首をかしげる。


「今までの償いを……弁償がしたいんだ。明日の昼頃に中央広場へ来てほしい」


真剣な声色でノルは言った。


「えっ、それなら散々食事をごちそうしてくれたし」


ブンブンと首を振る。一回分の給料が吹き飛びそうな所や、ぬいでも気軽に行けそうなところまで、ノルはそつなく案内してくれたからだ。


「駄目か?」


まるで捨てられた子犬のように見てくる。ノルの場合は弱みを見せた大型犬と言った具合だ。


ぬいは当然断ることなどできなかった。着々と埋められていく予定に気づきもせずに。


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