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31:急接近

最終的に残ったのはぬいとノルである。


「友達行っちゃったよ?」

「あれは友ではない」


即座にノルが否定する。どこか苛立っているように見えるが、表情は変わっていない。


ぬいはそろそろ胸が詰まってきたのを感じ、近くに居た給仕に飲み物を頼んだ。


「友達じゃないって、だったらなんでわざわざ、ここへ来たの?」


「堕神が見たいと言われ、連れてきただけだ」


まるで見世物のような扱いである。皇帝の面前で紹介されたときも、トゥーばかりに目が持っていかれ、ぬいの顔を覚えていなかったのだろう。


「そう、ただの見物か」


ぬいは渡されたグラスを手に取ると、口をつけようとして手前で止めた。嫌な予感がしたからだ。何度かにおいをかぐと確信する。


「うわっ、これまたお酒だよ」

乳白色の液体が入ったグラスを遠ざける。


「はっ、その程度も飲めないのか」

ノルが鼻で笑ってあおるが、ぬいはなんとも思わなかった。


「飲めるけど、好きではないね。そんなの作ってくれた人に対しての冒涜だと思うんだ。それに……酒類にはいい思い出がない気がして」


ぬいは遠い目をすると、グラスを突きつけた。


「あげる」

「なんで僕が」

「自分の言葉には責任を持とう、ね?」


少しだけ口角を上げて言うと、しぶしぶノルは受け取った。


「うん、偉い」

ぬいがほめると、反抗心があおられたのか一気にグラスを傾けた。


「いや、偉くないよ!ノルくん何してるの?はっ、そういえばここでの飲酒年齢っていくつ?」

「バカにするな。十六からだ」


「早っ」


宿舎でなにも聞かれずワインを出されたことといい、酒類には特に厳しくないらしい。



それからぬいは再び食事をはじめる。ノルにも空いたお腹に酒だけははよくないと、無理やり皿を差し出した。


当然拒否してきたが、また食に対する冒涜だと、教義を交えて適当なことを言ってみると、納得したのかしぶしぶ手に取った。


口に食物を含んでいるため、会話が弾むことはない。そうでなくても、仲良く世間話をする間柄でもない。


何とも言えない沈黙が続く。ちらりとノルのことを伺うと、ぬいはある異変に気付いた。皿をテーブルに置き、顔が見るからに青ざめている。


しかし、態度には出すまいと必死に耐えている。そんな状態であった。


「え、ちょっと。大丈夫?」


ぬいは皿を置くと、ノルの元へと近づいた。傍へ寄るとやはり様子がおかしいのが見て取れた。


背中に傷を受けた時よりも苦しそうである。手を伸ばそうとするとするが、当然のように避けられた。


だが手を振りほどく余裕もなかったのだろう。動いたせいで足元がふらつき、今にも倒れそうになる。


今度こそはと、ぬいはノルに近寄ると背中に腕を回し、しっかりと支えた。密着したせいで、びくりと体を震わせたのがよく伝わってきた。


「なに無理してるの?どう見ても」


具合が悪い。そう言おうとしたが、ノルに口を手でふさがれた。その大きな手は、小さなぬいの顔を丸ごと包み込んでしまう。


「いいか、二度と人前で体調に関して言うな」


低くよく響くような声で言う。その口調から、どれだけ嫌がっているかぬいは理解した。貴族社会特有のものか、それともこの国の風習かはわからないが、体調不良というのは恥にあたるのだろう。


だからと言って、今にも倒れそうな人を放っておくことはできない。


「分かったよ。でも、ノルくんをここで放置することはできない。それに我慢して、一人で倒れる方が最悪だと思うけど?」


周りに聞こえないよう、小声でノルに言う。


「人目がなければいいんだよね。だったら、どこか別の部屋に移動しようよ。それならいいでしょ?」


そう言い聞かせると、しぶしぶと了承を得た。密着した状態からそっと体を離すと、ノルは致し方なさそうにぬいの肩に手を置いた。


言い争っていたと思えば、急に距離を縮めどこかへ消えていく男女。それが周りからどんな目で見られているか、二人が気付くはずもなかった。


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