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24:魔道具

『なんだよ、ヌイ。今日は休日だってのに』


アンナの家へ行くと、シモンが目をこすりながら出てきた。おそらく昼寝をしていたところだろう。


寝ぼけているのか、言葉が違うがそれにぬいが気付くことはない。


『ごめんね、ちょっとお願いしたいことがあって』


トゥーがシモンに対し、膝をついて視線を合わせる。


『ん……だ……えっ、うそだろ。勇者さま?』


『よくわかったね、その通りだよ』


『うっそだろ、なんで勇者さまが……今までの偉業の数々聞いています!おかげで嫌そうな目で見られたり、煙たがられることもなくなりました』


興奮して矢継ぎ早に話しかけるシモンに対し、彼は優しく頷きながら話を聞く。


その様子をノルはやはり不快そうに見つめている。ぬいとトゥーに対し顔をしかめるのは、最早よくあることである。だが、シモンにもなぜそれを向けるのか。


「あ、そっか。言葉が分からないんだ」


「バカにするな」


あたりだったのか、ノルはさらにしかめっ面になる。


「教養には含まれていないし、読み書きくらいはできる」


まだこの国の文字を完璧に理解できていない、ぬいに対する皮肉だろう。


「うん、それはすごいね。さすがいい育ちだよ」


あの暖かな両親がしっかり教育した賜物だ。もしノルと同年代か下であったら、嫉妬から嫌味を言ってしまっただろう。だがぬいは年上である。軽く肩を叩くとノルは嫌そうに払った。





『頼みたいことは二つ。一つ目は魔力測定機械の借用、もう一つは契約の魔法紙だね』


そう言うと、トゥーは机の上に小さな袋を置いた。音からして中身は金貨だろう。


『いいけど、魔法紙なんて何に使うんだ?まあ顧客の秘密は気にしちゃだめか』


シモンは訝し気に尋ねる。


『あのさ、悪いけど、言葉をこの国のものにしてくれる?ノルくんがわからないから』


『えっ、俺いつの間にか別の言葉話してた?またやっちゃった……』


トゥーは申し訳なさそうに、ノルのことを見る。彼は案の定舌打ちすると、一睨みした。


「わかった……アンナつれてくる。ひとり、わからない」


しばらくすると、シモンがアンナを連れて戻ってきた。ちょうど作業中だったのか、髪の毛をバンダナで一つにまとめていた。


「勇者さま。こんなところへよくぞお越しくださいました」


アンナはトゥーの面を見ると、少し驚いたように言った。


「いいえ、はじめまして。突然の訪問失礼いたしました」


「これ……はかるやつ」


シモンが机の上に器具らしきものを置く。かなり年月が経っているのか所々さびている。しかし、それが骨董品のような雰囲気を醸し出していた。中央には赤色の宝石がはめ込まれ、それだけが鈍く輝いている。


「天秤?」


ぬいが聞くと、アンナとシモンが頷いた。


「みほん、見せる」


そう言うと、シモンが手をかざす。


『魔神アール・マティよ、授かりし力の片鱗をここに』


するとはめ込まれた赤い宝石が輝きだし、天秤の右側がほんのわずかに傾いた。


「普通は良くてこれくらい。大きな魔力持ちは特権階級の人がほとんどなので」


アンナが自分も同じくらいであることを告げる。シモンが手を離すと、天秤は元に戻った。


「大丈夫?すごく疲れてるように見えるけど?」


額には汗が浮かび、酷くだるそうにしていた。目に力もない。


「魔法……つかれる」


そう言うとシモンはふらつきながら、ソファに身を投げ出すように倒れ込んだ。


「やはり御業とは大違いだな」


ノルはバカにするようにというよりは、事実をそのまま告げる。


「何のリスクもなしに、生まれの差も関係ない御業は本当にすごい。おかげで病も完治しました」


アンナは昔を思い出したのか、少し陰のある表情になる。


「よっし、楽しみだ。やっぱり魔法って夢があるよな」


トゥーは腕まくりすると、天秤に手をかざす。


『魔神アール・マティよ、授かりし力の片鱗をここに』


すると、先ほどと同じように宝石が輝く。ただシモンの時と比べ、ほんの少し光が弱く天秤は少しだけ左に傾いた。


ぬいが首をかしげていると、うめき声が聞こえる


「っう……もうだめだ」


トゥーはそう言うと、そのまま重心を失ったかのように背後に倒れた。もちろんその後ろに居たノルは避けた。背中を打ち付ける音が響く。


「いって、あー……なんか目が回る」


「測定機におかしなところはない……その勇者さま。大変言いづらいのですが、殆ど魔力がないようです」


アンナが申し訳なさそうに言う。


「マジか、この様子からしてそうだと思ったけど。ちょっとショックだ。残念すぎる……」


事実にさらなる衝撃を受けたのか、声が沈んでいる。


「うっわ、からだ重すぎる。指すら動かせないって。頼む、ノル。俺に御業をかけてくれ」


「断る」


すかさずノルが返事をした。


「いや、頼むって。このままじゃ迷惑かけるから。それかノルが俺のこと担いで、家に連れ帰ってくれるならいいけど」


さすがにそちらの方が嫌だったのか、ノルはため息を吐く。トゥーが倒れているすぐ横に膝をつくと、両手を組む。


「我らが神たちよ、良き隣人に立ち上がる力をお授けください」


聖句を唱え終わると、ノルは立ち上がる。


「これでいいだろう。さっさと立ち上がったらどうだ?」


「……どうしよう。何も変わらない」


「は?僕はちゃんと御業を使ったはずだが」


「魔力の枯渇に御業は効かないんだよ。回復する手段は森林国で作られた薬剤のみだね」


アンナはすぐに口をはさめなかったことを謝罪する。


「え、そんなの持ってないし……どうしよう。あ、そっか。ノルが俺を「断る」


今度は間髪入れずに即答した。ノルのぬいに対する態度もいいものではなかったが、トゥーに対してはさらにぞんざいだ。同性ということも原因の一つだろう。


「ひどいな~ここから近くとなると……ミレナを呼んできてもらえる?」


またノルが断ろうと口を開くが、その前にぬいが返事をする。


「分かった、ちょっと待ってて」

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