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128:神官騎士から見たスヴァトプルク③

「必要なのは一定以上の筋力と、すばやさだ。特に後者が重要であり、だから君たちは選ばれた」


スヴァトプルクは真横に大きくえぐれた跡が残る中、説明をする。もしあの攻撃が当たっていれば、無残なことになっていただろう。にもかかわらず、顔色一つ変わっていない。自分よりはるかに力を持った存在と、対峙する事に慣れている証である。商家の神官騎士は少しだけ尊敬の念を抱いた。


「堕神は基本的に破壊や殺傷を目的として降臨するのではない。どうしようもない悲しみや、憤怒。行き場のない感情を力として放出しているだけだ。だから回避をして台座を叩き割るか、説得すればいい」


より詳しく解説をしていく。最初こそは命にかかわるため、皆真面目に聞いていた。しかし関わらない話となると、右から左に受け流すようになってきた。


スヴァトプルクの話し方が悪いわけではない。元から集められたのは彼の言う通り、速度と筋力重視の神官騎士たちだ。つまり神官騎士学校時代、座学はほぼ寝ていたような連中ばかりである。商家の神官騎士も実家を手伝わず、この道に入ったのは、細かい計算が不得意というのが、理由の一つだ。頭が揺れそうになるのを必死に押さえようと、別のことを考えはじめる。


そういえばスヴァトプルクの言っていた妻とは、どこにいるのだろうか。そう思い、商家の神官騎士は辺りに目配せをする。


うわさで彼の妻は異邦者であると聞いた。つまり親を殺した者と同じ存在である。恨みを晴らすべく、ネチネチと虐げられているに違いない。見せる表情は暗く、どこかで拘束されている可能性すらある。


仲間たちも同じことを思ったのか、遠慮なくキョロキョロしはじめる。


「君たち……大分先のこととはいえ、これから危険なことに従事するというのに……いや、その精神力をほめるべきなのか」

皮肉か本気か分からないことをスヴァトプルクはつぶやいた。


「皆飽きちゃったみたいだね。この様子だと、私の話はまた今度にした方がよさそうだ」

「っは、幼児の方がまだマシなレベルだな……仕方ない、質問を許可する」


吐き捨てるようにスヴァトプルクは言う。その態度はもっともなことであり、誰も何も不満に思うことはなかった。


「はーい!スヴァトプルクさんの彼女って、本当に実在するっすか?」

いい質問をしてくれたと、商家の神官騎士は思った。どこを見渡しても、それらしき人物を見つけることができなかったからだ。


「比較対象にした幼児に謝るべきだったようだ。君たちに人以上の知性はないらしい」

深いため息を吐く。なぜか急に当たりが強くなった。だが、その言葉はこの場にいる者たちにとって、罵倒には当たらない。知性が足りていないのは事実であり、皆自覚しているからである。


「それと彼女と言う呼び方はなんだ。妻だと言っているだろう」

スヴァトプルクはまだかなり若い。妻帯者と言われても今一つピンとこないし、落ち着いてもいない。だからこそ、そう質問されたのだろう。


「あの、夫人は異邦者なんですよね?なんでここに呼ばなかったんですか?なにか色々と、聞けることがある気がするのですが」

貴族出身の神官騎士が言った。この中では一番知性を持っているようである。


「つーか、なんで親のカタキと結婚したんすか?じわじわ苦しめてやる的な?」

次はこの中で一番頭の悪そうな神官騎士が発言した。商家の神官騎士も気になっていたことである。あまりにも直接的な物言いに、心の中で喝采を送った。しかし案の定地雷を踏んだらしく、スヴァトプルクに襟元を掴まれていた。


「人としても神官としてもなっていないようだな。君は大切な存在が人に殺されたからと言って、人を殺すのか?それと同じだ。それに両親は短命の寿命を迎えた時に、堕神とかち合ってしまっただけだ」

かなり頭にきているらしく締め上げられ、質問をした神官騎士は苦しそうにしている。


「ノ……あー、わかりやすく言うなら、大昔に親族を魔法国の人に殺され、実は彼女が魔法国出身だったと知ったら、殺す?殺さないよね?そういうことだよ」

間にセドニクが仲裁に入る。その例えは身近でわかりやすく、全員が納得できた。スヴァトプルクも溜飲が下がったのか手を離す。


質問をした神官騎士も悪意はなかったらしく、何回も謝っていた。しかし直後で、呼吸がし辛かったのか、はあはあと荒い息が聞こえる。やがて息が整い元通りになっても、なぜかその呼吸音は鳴り響く。これは苦しいというより、興奮しているようである。どこにそんな不審者がいるのかと思いきや、その人物はスヴァトプルクの肩を叩いた。


「異邦者って、あの強いと……いや、違いますね。ふふ、知りませんでしたよ。スヴァトプルクさんがこんなに強いなんて」


次期団長は息が荒く、目の焦点がどことなく合っていない。転移に剣技、基本的には温厚な人柄。とっくに団長になっていたもおかしくない才能があるというのに、実現していない理由はこれである。


一度暴走するか、自分と渡り合えるほど強い人物と対峙すると、人が変わってしまう。このことから堕神の降臨に参加をすることはない。そもそも水晶国は規格外の力を持ったものを必要とするほど、荒れていない。その結果無駄に力を持った彼は、使い走りのような真似をさせられているのである。


「なにを錯乱している。僕はただ一度避けただけで、君の剣技を受けることすら不可能だ!」

剣の柄に手を当て、じりじりと迫ってくる彼に対し、スヴァトプルクは後退する。


「おい、誰か止めれるやつは……いないな。っち、ヌイの近くにあいつを呼ぶのが嫌だったが、失敗だったみたいだな……少しだけでいい。結界を張り、全員でこいつを押さえてろ」


スヴァトプルクはセドニクに指示したあと、その場に居た神官騎士たちに目配せし、走り去っていった。逃げたのではないかと、そう非難する余裕もなかった。


次期団長の力はすさまじくかったのである。セドニクが結界を張り、それを壊され神官騎士たちが総出で取り押さえる。全員吹っ飛ばされまたセドニクが結界を張っての繰り返しであった。


やがて少しだけ慣れてきた商家の神官騎士は、まだなのかとスヴァトプルクが向かった方に目を向けた。


――彼は妻らしき女性と抱擁を交わしていた。


「は?」

ふざけるなと商家の神官騎士は、思わず声を漏らした。周りの仲間たちもそう思ったのか、体が止まっている。スヴァトプルクはそれだけでなく、妻の両頬に手を当てると口付けをしはじめた。


盛大な舌打ちが周りから聞こえる。彼の株が暴落した瞬間であった。


「へぁっ、あ……ええええ?」

変わった叫び声が聞こえると、全員の目がそちらに持っていかれる。そこには顔を果実のように真っ赤にした、次期団長が居た。


「まままってって。え、え?ここたくさん人いるし。そんなことまで?あわわわわっ」

子供のように慌てふためくと、その場をぐるぐると走り回る。


「ムリムリムリっ見てられないよ……穴、どこか穴に潜らないと」

そう言うと自分で開けたくぼみに飛び込み、しばらく帰ってこなかった。神官騎士たちはようやく、妻といちゃついている意図を理解した。次期団長を抑えるには同じ強者か、転移の御業が使えるものと相場が決まっている。だが方法はそれだけではないらしい。


転落したスヴァトプルクの株はすぐ元に戻った。

これにて他者視点終了。次からぬい視点に戻ります。

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