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122:お仕置き

大事な人のにおいとぬくもりに包まれながら、頬に柔らかいものが押し当てられる。その幸福感に顔を緩ませながら、まどろみ続ける。すると反対の頬にも移動し、次は額、そして唇にも押し当てられた。何度か優しく食むようにされたあと、一旦離れていく。


その寂しさに口角を下げると、次は唇を軽くなぞられた。そのあとで、軽く指先でノックするようにつつかれる。さすがのぬいも意識が覚醒すると、目を開ける。そこには指を押し付けているノルの姿があった。


「ようやく起きたか。おはよう、ヌイ」

ノルは指を離すとそのまま自分の唇に押し当てた。起床早々艶っぽい姿を見せられ、恥ずかしさから目を伏せる。


「なんでそういうことするかな」

「肩や頬では目覚めがよくないだろう?君にはできるだけ優しくしたい」


「いや、そっちでいいんだけど」

「口付けで起きない君が悪い。あきらめて受け入れるんだな」

悪そうにノルは笑う。


「だって、なんかあまりにも幸せすぎて。夢かと勘違いしちゃうから。さっきのだとだめなんだよ……」

「っう……ヌイ……」


ぬいの言葉を受けて、ノルはうめき声をもらす。余裕そうに大人ぶっていた態度が崩れ、顔を赤くすると手で押さえた。


「うん、やっぱりそういうノルくんの方がかわいいや」

微笑まし気に言うと、ノルは顔から手を離しぬいの両腕を掴む。


「ん?どうしたの?」

なにかを決心したのか、口が堅く結ばれている。


「お仕置きの時間だ」

予想もしていない言葉を吐かれ、衣擦れの音が聞こえる。腕に何かひも状の布を結ばれたらしい。その拘束は強くないが、非力なぬいに解けるわけがない。


そのまま抱き起されると、立てかけた枕にもたれかからせる。言葉とは裏腹にその行動は丁寧で気を使ったものである。まとめられた腕を頭の上にあげられると、顎を掴まれた。


「君は何度か間違いを犯した。そのことについて追及しても?」

「いいけど、なんでこんなことするの?わたしは逃げたりしないよ。その……前もそうだったよね?」

「それは……っく、そうだが」


以前のことを思い出したのか、早々にノルの態度は崩れていく。だがそれを振り払うように歯を食いしばり、無理やりまなじりを吊り上げる。


「いいか、僕は君に弱い。なにかされればすぐに折れてしまう。恋に落ちたのも大分早かったと思う。好意を告げるのは遅くなったが……はあ、なんで僕はあの堕神と君を同一視しようとしていたのか。両親が見ていたら呆れていたに違いない。なぜもっと早く迫らず、押し倒さず、誘惑もしなかったのかと」


一方的にノルは話し続ける。言っていることに対し、恥ずかしさはないのか次々とまくし立てていく。


「随分積極的な人たちだったんだね。そのさ、用はなにが言いたいの?」


ぬいが声をかけると、元に戻ったらしい。ハッとした顔で顎を掴み直すと軽く口付けてきた。そのままうっとりとした表情で頬を撫でる。


「わたしの話聞いてる?」

不満げな声を上げると、ノルは手を止めた。


「すまない。急に君を慈しめという切迫感があふれてきて……って、そうではない。僕を誘惑するのはやめてもらおうか」

「誘惑って、なにもしてない……あ、だったらこの布取ってよ」


このままの状態では、胸を突き出すような姿勢になってしまう。おまけに薄着である。ノルの言葉を完全に否定することはできない。


「それになんで腕を上げられてるの?」

「ヌイは照れるとすぐに隠そうとする。それを見たいからだ」

「ノルくんも同じことしてると思うんだけど」


少し前のことを指摘すると、しぶしぶ腕を押さえつけることはやめてくれた。しかし拘束を外すことはしない。


「話しが逸れたな。さあ、君の罪を認めてもらおうか」

「うー……わかったよ。ちゃんと考えるって。はぁ、これなんなんだろう。リボンみたいなやつ、どこから持って来たんだか」


後半部分を独り言のようにつぶやくと、ノルは引き出しの方へと目配せした。探られた跡があるその横には机が置かれていた。


寝る前にはなかったはずの物品を見て、ぬいは衝撃に目を見開く。ロープに鞭、そしてろうそく。おまけに丸いボールのようなものがついたベルト。外見からして目を引くものはそれらが主であるが、なにに使うか分からない薬や入れ物も、その異様さを引きだたせていた。


「この部屋って、水晶宮の時と同じようなところだよね?わたしが家探ししたとき、あんな類のものなかったと思うんだけど」


ぬいが指摘する通り、引き出しの奥には以前使ったようなシャツが見えていた。場所は違えど用途は同じはずである。


「知っていた方が困る。それでは二重底になっている意味がない」


気弱なお嬢様がうっかり見てしまえば、卒倒してしまうだろう。そのために、知る人しか見つけられないようになっているらしい。


「そうなんだ。えっと、そんな中から普通のものを持ってきたのは、偉いね」

「あんな武骨な縄など使って、ヌイを傷つけるなどもってのほかだ。それよりも……」

なにかを取り出すと、ぬいの頬に撫でつける。


「ひゃっ、なに?」

くすぐったさに声をもらすと、ノルは意地悪気な顔で笑う。


「それ、鳥の羽かなにかだよね……って、ちょっとやめてって。くすぐったいから!」

手が拘束されたいるため、押しのけることもできない。顔を赤くしながらむくれると、満足そうに見つめてくる。


「さあ、嫌だったらすぐに思い出すんだな」

再びノルが手を動かす前に、ぬいは自分のしたことを振り返りはじめた。

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