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114:新婚休暇

食事が終わったあと、二人は並んでソファに座って寛いでいた。ぬいとしては出歩いて回りたい気持ちがあったが、ノルに止められている。


仕方なく、いつも通りの勉強をしようとするがそれも止められた。新婚数日は仕事も禁止らしい。それがノルにとってのルールなのか、この国の常識かはわからないが、特に逆らう理由もない。


暇そうにしていると、ノルから一冊の本を差し出されそれを読むことにした。


「ねえ、ここに書いてあるのって、どういう意味かわかる?」


難しい言い回しの文を見つけ、ノルに質問する。すると肩に腕を回して、必要以上に密着すると、覗き込んでくる。


「これは‥‥」

耳元でその意味を囁かれると、ぬいは本を放り投げて、立ち上がるとノルから距離をとった。


「ちょっ、ちょっと待って!なんという‥‥なんか、変だとは思ったんだけど。これ、昼間から読む本じゃないよね?」


赤面しながら言うと、ノルは悪そうに笑い声を上げる。


「もしかして、意図的に選んだんじゃ‥‥こんなの覚えて、どうしろって言うの?」


「それを僕以外の人から言われたら、すぐに逃げろ」


「ノルくんから言われたら?」

「来てほしい」

「正直!」


致し方なくぬいはソファに戻る。特に距離を詰められることもなく、そのままであった。


しかし、することは特にない。再度暇になったぬいは本を読んでいるノルに話しかけた。


「なにを読んでるか見ていい?」


了承を得ると、横から覗き込む。以前見たような難しい書物と思いきや、それは全く異なっていた。


「ノ、ノルくんも、なんてもの読んでるの!?真面目な顔して、ずっと目を通してたよね?」


仕事をしないという制限は、どうやらぬいだけではないらしい。


「仕方ないだろう。僕は全部君がはじめてなんだ。見損なったか?」


不安げに伺いながら聞いてくる。明確な時期は不明であるが、ノルが思春期の時、おそらく両親が亡くなっている。きっと、それどころではなかったのだろう。


「ううん、そんなわけないよ」

ぬいから体を寄せると、ノルは本を置き、そのまま腰に手を当ててきた。そこからあちこち撫でまわされる。


あまりにも執拗すぎたため、ぬいは恥ずかしさからその手を制止させた。そのまま握りしめて手を引くと、ノルのことを立たせる。


「暇なら、ダンスの練習を‥‥って、あ、これも仕事に入っちゃうか」

ぬいは混乱しながら、話題を次々と変えていく。


「割と元気そうだな」

「ご飯食べて休んだら、なんか良くなってきたみたい。もしかして御業を使ったりした?」


ぬいの記憶上、行使しないと言われたことしか覚えていない。しかし、それにしては体が軽いと気づき始めてきたのである。


「‥‥使った」

なぜかノルはひどく不満そうであった。いつもであれば、大したケガでなくとも、すぐに行使する。つまりなんらかの理由があるのだろう。


「御業を行使すると、その日の成果がなかったことにされると言ったことを、覚えているか?」


「うん、覚えてるよ」

ぬいは特に答えをせかすことはせず、ただノルが言ってくれるのを待っていた。



「御業の強さ、その時の体調によって変わり、確実ではないがそういうことだ」

「それって……つまり」

「あくまでその時だけ、子供ができる可能性が低くなる。まあ、それを目的としたわけではないから、そこはいい。ただ、初夜時に行使すれば、本気ではないか偽装だと思われる」


ノルの視線はぬいの腹部に注がれていた。いつもであれば触られていただろうが、食後まもないことから、気を使ってくれたようである。


ぬいは服の上から胸元を押さえた。昨夜のことを思い出して顔が赤くなるが、息を吸って気持ちを落ち着ける。


「でもさ、体の跡は残ってるよね。それはどうして?」

「……御業を加減して行使した。ただのくだらない独占欲だ。朝様子を見てから、再度行使しようと思ったが」

「くだらなくないよ。ノルくんはわたしの体のことを考えてくれた。それに、これだけ想われてるのは嬉しいし、今更疑う事なんてしないよ」


疑いのない目で見つめると、ノルはぬいのことを抱き寄せる。


「君を早く手に入れたくて、すぐに結婚をと急かしすぎてしまった。だからもう少し、二人きりで居たいという気持ちもある」

ノルはぬいの頭を何度か撫でると、耳元に口を寄せた。


「新婚時の休暇はまだ長い。誰にも邪魔されず、ゆっくりしよう」

その言葉には別の意味も含まれていた。ぬいはそのことに同意も否定もせず、背中に腕をそっと回した。

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