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104:甘ったるい食事

範囲内に収まるように書いたつもりですが、R15注意。

恥ずかしいことに、ぬいは間食のし過ぎであまり食べれる気がしなかった。勉強のご褒美だと、自分を甘やかしすぎたせいである。以前であれば、なんの問題もなかっただろう。食事量が正常になってから、限界をうまく見極められないことが多い。


そのことを正直に伝えると、言い辛そうに飲酒可能量を聞いてきた。以前ノルに押し付けたことがあるからだろう。


記憶が戻った今、思い返すとあれは心を許せる人と飲んだことがないからだ。あくまで元の世界では一般的に摂取はできていた。そのことを伝えると、ノルはある店へと連れて行ってくれた。



――神官たちが毎日当たり前のように、ワインを飲んでいることなどすっかり失念していたのである。



「すごいね、ここ。隠れ家風って感じかな」


今の言い方が正しく伝わったかは定かではないが、目を輝かせて見渡すぬいを、ノルは満足そうに見ていた。座席に座ると、当たり前のようにノルが真横に座ってきた。


すでにメニューは決められているらしく、小さな皿に上品に乗せられた食事とボトルが運ばれてきた。この量であれば、問題ないだろう。


ノルにお酒を注がれ、談笑しながら食事をする。いつも通りの穏やかな空気に包まれ、注がれるごとにぬいは飲み干した。


「ノルくんの食べてるそれ、おいしい?」


運ばれた食事は二人分と分けられてはおらず、一つの皿に少しずつ乗っているものだった。であるがゆえに、均等に分けることはできない。


本当に欲しかったら、事前に言っていただろう。ただ、感想が聞きたいだけであった。


だが、声をかけられたノルは動きを止めて、ぬいのことを見つめる。皿から指摘されたものを口に含むと、さらに距離を詰める。


頭の後ろを手で固定されると、強く唇を押し付けられ何かをねじ込まれた。


「感想は?僕はとてもおいしかった」

やけに嬉しそうに聞いてくる。ぬいはと言うと、あまりに急すぎたため、すぐに現実が認識できなかった。とりあえず、口の中のものを飲み込もうと咀嚼する。嚥下したあと、ようやくなにをされたか理解した。


「……っう、あ、あまかったよ」


どんな味だったかなど、覚えていない。盛られている内容からして、甘味ではない。だが、ノルはその返答に満足したらしい。甘ったるい空気感にむず痒さを感じ、ぬいはまたグラスを飲み干した。


他になにかおいしそうなものはないかと、皿に目を配る。ノルが好きそうなものを見つけると、フォークで刺す。


「ほら、これおいしそうだよ」

渡そうとするぬいに甘さはない。本来はこうするものだと、必死に教え込もうとしているだけである。


ノルは特に抵抗することはなく、口にした。その行為が嬉しかったのか、それとも今のが好みに合ったのか。どことなくにやけているように見える。


酔いが回ってきたのか、ぬいは少し眠気を感じてきた。目の焦点が合わず、ボーっとする。ふと、視界に入ったノルの指を見て思い出した。当初の目的はノルのサイズを測ることである。今回の食事もあわよくばノルを酔わせて、寝た間に達成できるのではと思っていた。


だがそんな目論見はむなしく、自分の方が寝てしまいそうである。体が傾き、何度かもたれそうになってしまう。もちろん、すぐノルに気づかれた。


「ヌイ、大丈夫か?」

「うん、平気だよ」


気持ち悪いわけでもない。ただ酔いが回って心地よいだけである。そう思いぬいは返事をしたが、ノルは怪訝そうに見つめてくる。


「少し水を飲んだ方がいい」

勧められるがままに、口にする。手元がおぼつかないのか、少しこぼしてしまう。


それを見たノルは甲斐甲斐しく世話をする。タオルで水気をふき取り、口元に水を運ぶ。それでもうまくいかないと、また口付けられ、水を飲まされる。


「御業を使おう。かわいい状態のヌイを見ていたいと、僕のわがままを通すわけにもいかない」

聖句を唱えようとするが、人差し指を唇に押し当て止めた。


「吐き気はしないから、大丈夫。せっかくのお酒が、意味なくなっちゃうし」


毒と同じで、御業を使えば難なく元通りになるだろう。だが、まだ必要ないとぬいは思った。ふわふわとした感覚は久しぶりで、心地よい。隣には大切な人がいる。この多幸感を手放したくはなかった。酔いのせいか、普段よりも遠慮なくノルを触り、懇願する。


「これ以上そんな目で見られたら、また無体を働いてしまいかねない」

どこか苦しそうにノルは言った。


「ノルくんはいつも優しいよね」

悪役のようなセリフを吐いても、いつもぬいに無理をさせることはない。その気遣いを感じると、ぬいは徐々に気持ちが高ぶっていく。


「照れちゃって、なかなか言えないけど。大好きだよ」


しまりのない顔でそう言うと、ノルの顔が近づいてくる。何度か口付けられると、そのまま身を任せた。




今のぬいは酔いのせいか、完全に無抵抗である。なにをされようとも、嫌がるどころか喜んでいるように見えた。制止されないことをいいことに、ノルは調子にのってあちこち撫でまわす。


荒い息遣いが聞こえぬいの方を見るが、発しているのは彼女ではなかった。ノルはハッとした表情で自分の口元を覆った。このままでは熱に浮かされ、神との誓いを破ってしまうだろう。


「すまないが、少し待っていてくれ」


寂し気に見つめる彼女をなんとか振り切る。部屋から出た後、その場に座り込み息を落ち着ける。


そもそもノルはぬいに告白したところで、すぐに受け入れられるとは思っていなかった。徐々に時間をかけて好きになってもらう予定だったというのに、一気に崩されてしまった。


それはもちろん嬉しいことである。だがそのせいで抑えきれず、少しだけ手を出してしまった。もしその場面を神であるぬいの弟が見ていたら、きっと激怒しただろう。様々な言い訳はあれども、言い逃れはできない。しかし、今のところなんの警告も、罰すらなかった。


このことから、ノルは一つの仮説をたてた。記憶や感情を取り戻したばかりのぬいは、まだ定着した状態ではなかった。要はまだこの世界の人間になっていないということである。だからこそ、彼はノルの行動を制限したのだろう。まさかしゃくだからと言う、人間染みた理由ではあるまい。


今まで多少接触をもつくらいはしてきた、それが少し過激になったとしても、問題はないだろう。そのことは旅先でも立証されている。


そんな風に、この先手を出すことを前提とした考えを頭の中でまとめていると、ようやく息が収まってきたらしい。ゆっくり立ち上がると、厨房まで足を運ぶ。デザートを取りに行くと、しばらく周囲に近づかないよう言いつけた。


この食事処は秘密が漏れないようにと個室であり、防音性にも優れている。様々な用途から使用されることもあり、ノルはここを選んだのである。



「ノルくん!」


部屋に戻った瞬間、ぬいが身を投げ出すように抱き着いてきた。ノルはその体をなんなく片手で受け止める。華奢なぬいの体を感じ、また興奮しそうになるが必死に押さえつける。


震える手でぬいの腰を抱きながら、座席の角に座らせると、密着した状態から解放することができた。ホッとした心地になると、ノルはデザートを机の上に置いた。


「どこに行ってたの……もうわたしを、置いていかないでほしい」


僅かな時間だというのに、ぬいは切実に訴えてくる。普段であれば、なにも言うことはなかっただろう。酔いが普段の感情の枷を外し、より素直になっているようだ。


「君を一人で置いていくことはもうしない。だから安心してくれていい」


落ち着かせるために背中に腕を回すと、抱きしめる。彼女の鼓動を感じ、その心地よさに浸っていると、急に首を撫でられた。


「なっ……ヌイ?」

驚いて体を離すと、次は口付けられた。すぐに離されるが、それは悪手であった。潤んだ瞳に唇。一見少女のようにも見えるが、今のぬいは確実に年上であるいう妖艶さを醸し出していた。


「前はノルくんにしてもらうばかりだったから。少しは返さないとって、思って」


元々酔いで頬が赤いせいか、照れているようには見えない。そのまま頬を撫でられたところで、ノルはぬいの腕を掴んだ。このまま一方的に触られては、最後まで耐えきれる自信がないからである。


「神々よ、日々の見守りに感謝を」

一旦気持ちを落ち着けるために、目を閉じて祈りを捧げた。


「ヌイ、このままでは僕が耐えられない」

「大丈夫?苦しいの?」


ぬいはノルに手を伸ばそうとするが、肘が机に当たり届くことはなかった。それだけならば、御業を唱えて落ち着かせれば済んだことだろう。


しかしその衝撃で蜂蜜が入ったカップが落下し、衣服を汚していく。ぬいの体を優先して、机の隅へ適当に置いたのは間違いだったようである。


「うわっ、服の中に入っちゃって、気持ち悪い。ベタベタする」


慌てたぬいはなんの迷いもなく、衣服を脱ぎ始めた。酔いのせいで頭が回っていないのか、上半身は下着だけの状態になる。だがそれでも間に合わなかったのか、ぬいの体には蜂蜜がつたった跡が残っていた。


その姿に息をのむと、ノルは自分の喉が鳴るのを感じた。度重なる我慢のせいで、震えていた手はいつの間にか止まっていた。


「神々よ、愛おしき我が伴侶に、立ち上がる力をお授けください」

ノルはぬいの手を掴むと、聖句を唱えた。もちろんすぐに効くことはない。完全に酔いが冷めるまでは、まだ時間がかかるだろう。


「もう無理だ。いいか、今回のは確実に君が悪い」

ため息を吐くと、ぬいの手に口付けそのまま軽く舐める。蜂蜜がついたその個所は、案の定甘い味がした。もう一つあるカップを掴むと、見せつけるように掲げる。


「この状態では、これからすることを覚えていないだろうし……罰として、少し調子に乗らせてもらおう」


掴んでいた手を離すと、そっと押し倒す。幸いなことにこの座席は柔らかい。ぬいの背中が痛くなることはないだろう。そのことを確認すると、ノルはカップを傾けた。





目が覚めると、ぬいは自室のベッドで寝ていた。部屋に差す光からして、時刻は昼前あたりだろう。


「あー……またやっちゃったよ」


昨夜のことを思い出そうとするが、食事をしていたことしか記憶にない。それ以降のことは、どうあがいてもわからなかった。体を確認してみると、昨日着ていたものとは全く違うものを身にまとっている。服を引っ張り、中身を確認すると下着すらも異なっていた。


「えっ」

目に見えて分かる変化はそれだけである。だが、そのまま寝てしまったにも関わらず、体の状態はやけにきれいで、どこか突っ張りを感じる程である。つまり、全身を拭われるようななにかが、あったということだ。


「うう……」

そのことを自覚すると、ぬいは顔が熱くなる。


こうなってしまった原因は、ただの飲みすぎだろう。水晶国の平均を甘く見ていたせいだ。ゆっくり体を起こすと、特に二日酔いはなさそうである。


おそらくノルが御業を行使してくれたからだろう。薄い記憶の中には、神と伴侶という言葉だけが残っている。ぬいはまた当初の目的である、ノルの指のサイズを測るのを失敗したことに気づき、がっくりと肩を落とした。

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